第99話

副統括でよかったと、初めて思った。

休日にもかかわらず、緊急で部屋替えをしたいと言ったらすぐに動いてもらえた。



もちろん、信頼できる人にしかお願いしていない。




「咲夜さん、そういう時は命令すればいいんですよ!」


「そうですそうです。お願い、じゃなくて、やれ!っていえばいいんです」


「いや、俺1人じゃできないから頼んでるんだが」


「優しすぎますよね〜。なんで裏社会にこんないい人がいるんだか」


「……別にいい人じゃないんだけど」





ジュンの部屋にもう1人分のベッドや荷物を運びながら、部下である研究員とそんな話をした。





「たしかに俺は副統括だけど、偉いわけじゃない。

組織なんて、頭(かしら)がいただけじゃなんにもできねぇよ」


「咲夜さん…。

あー!俺男ですけど、惚れますわ!」


「やめろ」


「ま、ジュンさん一筋ですもんね〜?」


「うるさい」


「「「あはははははははっ!」」」





ここを立ち上げる時、俺が誘った研究員だ。

能力はあるのに、上から嫌われていたというかなんというか…。


ルナの研究施設は、正直窮屈だった。

だから、もっと自由にやらないか?と誘ったのだ。


こいつらは、快く俺について来てくれた。





「こんなもんか」



ベッドに座ってにこにこしているジュンに3人が楽しそうに話しかけているのを頑張って無視し、部屋の準備ができたことを確認する。




「あー、本当に綺麗です、ジュンさん」


「咲夜さんが惚れるのもわかるよ〜」


「もういっそのこと、俺と駆け落ちしません?」


「あ、えっと、ありがとうございます?」





さすがに堪忍袋の緒が切れる。






「おい!ナナミ連れてくるから、さっさと出ろ!」


「えー?咲夜さん、ヤキモチですか〜」


「そんなんじゃ、ジュンさんに愛想つかされますよ?」


「ね?ジュンさん、こんな男より俺選びましょうよ」


「おーまーえーらー?」


「ふふふっ」





なんとか全員を部屋から出した。


まだくすくす笑っている三人にため息をつきつつ、切り替えて話しかける。




「三人とも、よく聞いて欲しい」


「………はい」




俺の雰囲気が変わったのを理解した3人が、真剣な顔を俺に向ける。




「…お前らを呼ぶ前に、この施設全体をうろついてみた。

…もうこの研究所には、ルナの研究員しかいない。………俺たち4人を除いて、だ」


「「「……………」」」


「お前らは絶対バレないようにしろ。

何があっても逆らわないで言うことを聞くんだ。

……失敗した時は、俺からの命令だったと言え」




「なっ!そんなこと!」


「いいから聞け!

………絶対殺されたりなんか、すんなよ」


「「「………………」」」


「俺は俺にできることをする。

だからは、お前らはお前らが生き残る事だけを考えてろ」


「………わかり、ました。

でも、無理はしないでくださいね」


「当たり前だ。…

でも、1発くらい殴り返さないと、俺だって気がすまねぇからな」


「あははっ!…咲夜さんらしいです」




たまに手伝ってもらうかもしれない、と言うことは伝えた。

そこで3人と別れる。



研究室に戻る3人の後ろ姿を見てから、ナナミの部屋に向かった。








俺が彼ら3人の背中を見ることは、もうない。

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