第98話

「たぶん、木田さんはそのことに気づいたんです。

だから楽生さんが何かする前に記憶を消して、都合のいいように動くようにした」


「……やっと繋がった」




はぁ、とため息をつき、ベッドにダイブした。

スッキリしたような、しないような。



ほんと、何してんだよ。木田。

というか、そこまでするか?普通





「……なるほど。ずっと疑問に思ってたことが一つ解決した」


「疑問、ですか?」


「…初めてナナミに会ったとき、最後に採血したのいつだ?って聞いたんだ」


「はい」


「そしたら、2年前だって答えたんだ」


「………あ」


「実験体なのに、しかも遺伝子の研究してるここで2年も採血してないなんて、ありえねぇだろ」


「あはは…。そうですね」




むくりと起き上がり、伸びをした。

これからどうしなきゃいけないかを、考えなければならない。




「ジュン、本当は0073がジュンで、1234がナナミだったってことか。

まさか番号ごと交換してたとは思わなかったな」


「やったのは楽生さんなのですよ?」


「だろうなぁ。資料まで作り直してるみたいだし」




笑ってしまった。

木田も楽生も、とんでもないことをしてくれる。




俺もやられっぱなしは嫌だしな。

それに…





「俺らと楽生の子供も実験に回されるだろうな」


「はい」


「薬も実験体も交換していることに気づいているなら、木田は俺らを消しに来る、か?」


「それは…わかりません。

実験体である私は、同じ特殊を持っている人があんまりいませんし。

それに、今咲夜さんがいなくなれば、この組織は崩れます」


「まだ猶予はあるってことか」




俺とジュンは数秒見つめ合い、頷きあった。






まずはナナミに会いに行って説明しなければ。

楽生の記憶がない今、なにをされるかわからない。


ナナミとジュンを同室にし、信頼できる研究員に警備を頼もう。




のんびりしている暇はない。

あと1ヶ月で2人、子供が生まれるのだ。






悪魔の実験だとわかっていた。

それでも、自分の子供は一体どんな子供なのだろうかと思ったら、怖くなった。






でも、不思議と生まれる前に殺そうとは思えない。

会いたいとすら思えた。





そういえば、薬を飲んだ直後、俺は熱が高く出た。

楽生は飄々としていた。


それは、楽生が交換したという、楽生が飲むはずだった薬が強いものだったからなのだろう。


楽生が軽かったのは、人間じゃない遺伝子が多く含んでいたから、拒絶反応が薄かったってことか。


いや、違うな。

単なる遺伝子量の違いだろう。



木田は楽生に最高傑作を産ませたかったんだろう。

だから、欲しい能力を全て組み込んだ薬を飲ませようとした。


だから、俺の熱があんなに高く出たんだ。






楽生も、人間じゃない遺伝子を無理やり組み込んだ薬を飲んだのだ。

体がきつくないわけがない。



それでも、薬を交換したという罪悪感で見舞いに来てくれたのだろう。





飄々と、笑顔で話しかけてきていたが、どれほどの思いで会いに来てくれたのだろうか。








胸が、締め付けられるように苦しかった。

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