第97話

「でも、兄は私のこの理解力…未来視だけは好意的だったみたいです。

だから、楽生さんと子供を作らせることにしたんです」


「は?え、ちょっと待って。どういうこと?」


「さ、咲夜さん!落ち着いてください」




落ち着け、俺。

焦りは禁物。



ふぅ、と息をはいた。



「ごめん。続けて」


「はい。

…それで、咲夜さんは、薬を作ることは全部楽生さんにお願いしたんですよね?」


「あぁ。…なんか、自分が飲むのを作るのは、なんか嫌だったんだ」


「それを知った木田さんが、なら自分が指定したもので組めって楽生さんに言ったんですよ」


「なるほど」


「何を組んだのかはわかりませんが、おそらく楽生さんと私が飲むものは身体的にも知能的にも長けた遺伝子。

咲夜さんとナナミさんが飲むものが、人ではないものを多く組み込んだものだと思われます」


「……つまり、俺に嫌がらせするつもりだったわけか」


「簡単にいえば、そうですね」


「なるほど。それで?なんで俺の相手がジュンになったんだ?」




ジュンが苦笑した。

ここまでジュンがわかっているのだから、ジュンが何かしたのだろう。


でも、実験体同士が入れ替われるタイミングなんてあっただろうか。

それに、資料だってすり替えるのは無理だ。


協力者でもいたのか?




「楽生さんが、私とナナミさんを交換して、さらに薬も交換したんです」


「………は?楽生?」


「はい。咲夜さんが飲むはずだった薬を完成させた楽生さんは、そのあとで木田さんの目的を知ってしまった。


だから、急いで、でもバレないようにこっそり遺伝子を組み直したんです。


…完全に組み直すわけにはいけませんので、知能数をあげるような遺伝子を増やして、

人間でない部分の制御をできるようにしたのではないでしょうか」


「マジか…」


「でも、楽生さんは咲夜さんがこの実験で悩んでいることを知っていたんだと思います。


咲夜さん、私に言いましたよね。

こんな実験で生まれた子供が、本当に自分の子供なんだろうかって」


「あぁ…。そういえば言ったな」


「それを、薬を完成させたときに楽生さんが気づいたんだと思いますよ」


「……………」





楽生…

一体どんな思いで…





「でも、両方とも人間じゃない遺伝子は組まれていましたからね。

それでも、人間に近い遺伝子の方、つまり、自分が飲むはずだった方を咲夜さんに渡したんです。

私とナナミさんを交換した理由は、ナナミさんの特殊が読心だったから、です」


「それがなんの関係があるんだ?」


「先ほども言いましたが、楽生さんが飲んだ薬は人間の遺伝子が少ない薬です。

だから、人間の心を理解できない子供が生まれてくる可能性があります。

…だから、その読心の力を引き継いでくれることにかけて、私とナナミさんを交換したんです」




読心で相手の心がわかれば、いつか人の心を理解できる子供になってくれる。

そう、信じたのか。





まさか、知らないところで楽生が俺のために動いていたなんてな。






やっぱり、楽生はすごい。

自分が、不甲斐なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る