第95話

「…………ん」


「あ、咲夜さん!おはようございます!」


「あぁ…おはよ。…元気だな」


「はい!ご飯届いてますよー!」




簡単な和食が二食、置いてあった。

それを机に置き、俺の腕を引いてジュンがにこにこと笑った。



やっぱりその行動は幼くて、思わず笑った。




「……今、子供っぽいって思ったでしょ!」


「良くわかったな?」


「あー!酷いです〜…」


「あははっ!」




ジュンが優しく笑った。

お腹が大きくなって、母性というものが強くなって来たのだろう。


俺や大きなお腹を見て、こんな風に愛おしそうに、幸せそうな表情をすることが多くなった。




朝食を済ませ、ぼんやりとジュンを見ていた。


楽生ーーー開理があの状態だ。

俺も何かされると思っていた方がいいだろう。


でも、何を…




「咲夜さん」


「なんだ?」


「お話、聞いてもらえますか?」


「うん」




ジュンの肩にストールをかけ、近くに座った。


ジュンは、意を決したように瞳を閉じ、息を吐いてから瞼を開いた。





「木田さんは、最初からここを乗っ取るつもりだったのですよ」


「は…?」


「どうやって持ちかけたのかはわかりませんが、楽生さんに研究組織を作ることを提案した。

ふざけた様子で話しながら、それとなく興味を持ってもらえるように話したのでしょう。


…楽生さんは、まんまとその罠にはまってしまった」


「………それで?」


「この組織はすぐに大きくなりました。

木田さんにとってはラッキーだったでしょう。

だから、次の行動に移したんです」


「次の行動?」


「自分にとって都合のいい道具を、最高傑作を作らせること」


「……………」




確かに木田は欲深だが、そんなことをしてなんの意味がある?



「ここ1年程、新たな企画がされていたのをご存知ですか?」


「新たな企画?」


「特殊な子供を集めて、さらにその中でもレベルの高い子供を"最高の道具"として育成する計画、です」


「なっ!」




最高の道具の育成?

人間の子供でか?


なんでそんなことを考えられるんだ。


人間が人間を道具にする?


…いや、人間には心がある。

どうしたって思うようにはいかないはずだ。



「…無理だ。そんなのは」


「できますよ」


「できるわけがない!」


「咲夜さん」


「………悪い」


「……その計画が進んでいることも確かです。

なぜなら、この一年ほど、私たちのような実験体が生んだ子供がどこにもいないのですから」


「……実験体が生んだ子供はある程度成長してからデータを取って、そのあとさらなる実験体として回されているはずだ」


「はい。それなのに、その子供がデータを取られた記録どころか、生まれた記録さえ無いのです」


「生まれた記録さえ、ない?」


「はい」


「……というか、なんでジュンはこんなこと知ってるんだ?」




ジュンは、少し苦しげに笑った。



「隠していたつもりはなかったんです。

資料お読みになっていたと思っていましたし…

私の特殊、ご存知ないですか?」


「あ。…そういえば読んでないな」


「そんな気がしてました」




ジュンは俯き、組んだ自分の両手を見つめた。

口元は笑っているが、目は寂しそうな気がする。




「私の特殊は、この血液と未来視、となっているはずです」


「未来視?」


「はい。…聞かれれば大体のことはすべて予測できますよ、ということになってます」


「…ということになってる、って。

違うってことか?」


「………ウソを、ついたんです」





ジュンの両手がギュッと握られる。

爪が食い込むほど握りしめているのは、俺にいうのが不安なのだろう。


嫌われるのが怖い、とそんな感じだろうか。


椅子から立ち上がり、ジュンのそばにしゃがんだ。



そのままその手を両手で包み込む。





「俺らは家族なんだろ?」


「え…」


「…力を貸してくれようとして話してくれてんなら、ちゃんと聞く。

引いたりしない」




ホッとしたようにジュンが笑った。

俺も笑みを返した。

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