第91話

「話を戻す。…捨てられた俺がなんで生きてるか。

それは、その部屋にいた全員が出て行った後、こっそり入ってきたやつが俺を見つけたからだ」


「…それは?」




開理を見つめる。

開理も、俺をじっと見つめた。




「ずっと誰だったのかわからなかった。

だけど、たぶん…。

ーーーー咲夜だ」


「な、んで…。咲夜?」


「首もすわっていない赤子が放り投げられたら、普通は生きていない。もとから死んだと思われてたからな。

それでも俺は生きていた。

それに気づいた咲夜は、逃げもしないで、むしろ嬉しそうに笑って俺を抱き上げた」


「……………」


「ごめんね、俺はここから連れ出してやれないけど、君が生きていけるように頑張るよ。

そう言ってたな」


「………………」


「1歳になって、採血と能力診断があった。

俺はそこで記憶媒体育成の方になった。

…それの能力診断をしたのが、咲夜だ」


「…………そんな」


「俺の足に1234ってプレートをつけたのも、咲夜だ」




何も言わずに聞く6人と、情報を聞き漏らすまいとする如月。

動揺する秋信を支える往焚に、受け入れられずに固まったままの開理。



「…記憶媒体候補として残った子供の数は、1200人もいなかった。

1234なんて数字が俺につくわけがない。

それなのに俺が1234という数字をつけられたのは…」



一瞬、嗚咽が漏れそうになった。

それを必死で飲み込み、きつく目を閉じた。




「……ゼロが、俺を見つけやすくするためだ」


「……なんでだ」


「…………」


「なんで咲夜はそんなことをした」


「…俺にできるのは予測だ。

だから確証はない。…でも、…」


「でも?」


「お前が先に動いてたんじゃないのか?」


「は……?」




開理の方へ歩み寄る。

その片手を掴み、ぐっと握った。


少し冷え、骨ばった大きな手だった。




「遺伝子研究がどんなものだったか、俺たちは記録させられていた。

だから、だいたい何をしていたのかは知ってる」


「…………………」


「…お前と咲夜、木田は、親友だったらしいな」


「……あぁ」


「………木田は咲夜を嫌っていた。

だから、わざとロクでもないものを産ませようとしたんだ。

それに気づいたお前が、自分の相手のはずだった女と薬をこっそり交換した」


「……………」


「さらに、咲夜に渡す予定だった薬に少し手を加えて知能数を上げておいたんだろう。

その結果出来上がったのが、俺と秋信だ」


「…でも、俺は身体能力こそ長けていますが、制御できない上に湊さんほどの知能はありませんよ」


「普通は1人しか生まれてこないからな。

飲んだ薬も1人分だろ。

だから、お前にあるものは俺にはないし、俺にあるものはお前にはない」


「…湊さん、身体能力すごいと思いますよ」


「……これは訓練でどうとでもなる」


「…………………」




俺は壁に穴なんて開けられねぇよ、と心でツッコミむ。





「…でも、俺は…」





秋信が何かを言い淀む。

何が言いたいのかはわかるけど、ここで話す気にはなれなかった。





「……見てりゃわかんだろ。

"お前は"人間だ。安心しろ」



「……………」






開理が俺から視線をそらした。


秋信の顔が歪む。



往焚は何も問いかけてこなかった。

言いたくないことを言わせるようなことはしないやつだ。

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