第90話

「全員いるんだろ」




声をかけると、気まずそうに全員が出てきた。

俺を囲むように立つ。




「……湊」



苦しそうに開理が俺を見る。

こいつは、まだ気づいていないことがある。

それを先に言うべきだろう。


わざとだと思っていたが、まさか本当に気づいていなかったとは思っていなかった。




ずっと立ち上がり、柵に背中を預けて立つ。





「親父」


「……なんだ?」


「初めて会った時、俺のこと颯斗って呼んだよな」


「あ、あぁ」


「颯斗は俺じゃない。…というか、もう別の名前で生きてる」


「は……?」


「お前がいう颯斗は、…こいつだ」




右手の親指でビッと指差す。

指を指された本人も固まっている。




「どう、いうこと、ですか。湊、さん」




指を指された本人ーーーー秋信が、目を見開いたまま俺に尋ねた。


指していた手を下ろし、開理の方を見た。

開理も、嘘だ、という顔をしている。




「…こいつは、俺の兄だ」


「お、れが、湊さんの、兄?」




如月の雰囲気が変わったのがわかる。

何か重要な話をしていると気づいたのだろう。


チラッとそっちに目を合わせれば、鋭く光った。



ちゃんと聞いておけよ、と小さく口パクすると、驚いたような顔をしていた。




「俺と秋信は双子だった。

生まれてくるのは秋信の方が早かったからな。

俺は弟になんだろ」


「え…」


「ま、遺伝子の研究だ。死産も奇形も多かった。

そんな子供はな、殺されるか放置されるか、だ。


…俺は死んで生まれてきた。

だから、秋信はそのまま保育器に連れていかれたが、俺は死体の山に投げられた」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」




ずい、と大地が前に出てきた。

それを静かに見つめ返す。




「なんで、生まれた時のことなんて知ってるんだ?」


「フッ。…忘れたか?俺は1234だったんだ。

記憶媒体として育成されてたくらいの記憶能力はある。

生まれた時の記憶もな」




絶句、という言葉が正しいだろう。

全音の顔が、ありえないと告げている。


でも、本当に記憶はあるのだ。




「遅れて男が入ってきた。

まだ生まれて間もなかったせいで、あんまり見えなかったけどな。

たぶん開理だ」


「…あぁ。生まれたと聞いて、走って行った記憶がある」


「そう。それで、お前はその子を見に行った。

職員は、俺のことをお前には伝えなかった。

だから、お前は生まれたのが双子だったと知らなかったんだ」


「………そん、な」




秋信も開理も、まだ受け入れられていないようだ。

まぁ、いきなり言われてもな。




「俺は兄がいることは知っていたが、それが秋信だってことは気づかなかった」


「じゃあ、いつ気づいたんですか」


「ゼロだ」


「……悠、ですか」


「そう。…あいつの考えをたどっていけば、そういう結論が出る」






苦しい。

いや、俺なんかよりずっと苦しかったはずだ。


こんな雑なのも、早急なのも、あいつらしくないと思っていた。

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