第88話

「でも、生き残ったのはわたしたち6人だけでしたの。

湊として、わたしたちを助けてくれた人が生きていると知った時には、それはもうみんなで手を上げて喜びあったのですのよ」


「まぁ、2人死んじまったけどな…」


「待てよ…。あんたら、それ、…何言ってんだよ」





往焚がうつむき、目を見開いて拳を震わせた。

秋信も肩が震えている。




俺はこいつら6人に会った時、生きてたのか、と思った。

死んだと思っていたからだ。



でも、俺はもともと記憶媒体として育成される組みにいた。

だから、こいつらの顔も覚えていた。


再開した時にすぐにわかったのは、そのおかげだ。



だから、秋信と往焚が知らないのは知っていた。




でも、この6人は蜘蛛にいるのだ。

それなら、俺だけじゃなくて秋信や往焚も生き残っていると気づけたはずだ。



気づいて、なかったのか。




それなら、俺を傷つけようとせずにこいつらに普通に刃を向けられた理由も納得した。






「……往焚。落ち着け」


「でもっ!」


「俺が説明する」


「…………っ」




なぜだ。

ゼロが記憶媒体として動いていた期間は長い。

こいつらに会ったことだってあるはずだ。



なのに、なぜ教えなかった?




「………お前らの恩人は、No.0のことだろ」


「そうですわ」


「俺は、No.0じゃない」


「え?」




4人は困惑した表情をしている。

如月もなんとなく話をつかんだらしく、成り行きを見つめている。





「……その前に1つ。如月」


「………なんだ」


「こいつらが言ってた老婆ってのは、誰だ」


「あぁ…。引退した医療部の女だ。

………俺の母親でもある」


「……お前の母親、記憶媒体と取り引きしなかったか?」


「……………………」





如月の顔が歪む。

言いたくないことなのだろう。


だが、その表情を見れば返答は明らかだ。


そして、こいつのこの反応。

なんの取引かは見当がつく。




「………そういうことか」


「待て。俺のお袋が取り引きしたのはそいつらを保護したよりずっと後だ。

関係ねぇよ」


「そうだろうな。

取り引きしたのは本人じゃねぇんだから」


「は?」






ーーーーあの人は、化け物だ






頭の中で次々に事実が駆け巡っていく。





いつから仕組まれていたのか。

誰がこんなシナリオを描いていたのか。




ずっとわからなかった。




ずっとゼロがやっていたことなんだと思っていた。







そんな簡単なもんじゃなかったって、ことか。








「は、ははっ」


「湊、さん?」





乾笑いが漏れる。

なんだこれ。







ーーーーこのままでは、誰も救われない








いつかのAIの言葉を思い出す。









なぁ、ウソだろ



お前、どんだけだよ








脳裏に、無残な処刑の光景が浮かんだ。







ーーーー俺は、自ら望まれて処刑されるんだ










咲夜という男が、最後に何を遺したのか。

なぜそんなことをしたのか。


それを受け取ったのが"誰"だったのか。







「ウソだろ」









机に両手をつき、自分の震えを止めようと全身に力を入れる。





顔を上げることはできなかった。










こんな、こんな悲しい事があってたまるか。



こんな、誰もが救われない結果が、…。









いや、結果的には救われれのだろう。


もう"すでに救われている"のだから。






だから、あとやることは1つ。











それを俺にやらせるのかよ










自分の瞳から、ポタリ。










何かが溢れた。

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