第86話

〜・〜





船内のラウンジに全員が集まった。

如月についてきた警備組員は部屋の外にいる。



そして、呼んでいないのに如月もここにいる。





「いいじゃんいいじゃぁーん!

俺も混ぜてよー!減るもんじゃないし」


「いえ、確実に減りますよ」


「えー!とって食ったりするわけじゃないしさ!」


「ですから、」





秋信が如月を追い出そうと、さっきから必死で口論を続けている。

如月はふざけてばかりで秋信の話など1つも聞いていない。




「ねー!作戦も立てたいしさぁ…

だって、AIを殲滅(せんめつ)するんだろ?」




如月の瞳が鋭く光った。

その視線は、椅子に座ってぼんやりしていた俺の方に向けられる。



こうしていてもらちが明かなそうだ。




「ですから、蜘蛛の協力は必要ないと、」


「秋信」


「は、はい」


「もういい。こいつは無視して話を進める」


「……了解」


「え⁉︎俺無視⁉︎なんでー!」


「「………………」」


「おーい!俺ここにいるよー!」





ラウンジは広かった。

部屋の下、船の地下部分に存在するその部屋には中央にある大きな机と、20脚ほどの椅子が設置してあった。



その中の1つに腰かけ、全体を見る。





「明日、目的地に着く。

…AIの本体は今、ルナの本部にいるらしい。

それと、ゼロも」


「ゼロって、記憶媒体No.000のことですの?」


「そうだ」




蒼と晶がいない。

まだ部屋にいるようだ。


まぁ、あとで伝言して貰えば問題ないか、と判断して話を進めることにした。



「これがルナ本部の構図だ」




持っていた地図を机に広げる。

全音が覗き込むように机に身を乗り出した。



「本体がどこにいるのかは予想できていない。

だがおそらく、人の姿をしていると考えられる」


「は?何だそれ。何でそんなことワカンだよ?」


大地が首を傾げる。

AIなのだから、どこかのサーバー内にいると思った方が可能性は高いはずだ。


他の面々も同じような反応をしている。



「日本にいたAIが人型だった。

そのAIは、自分達は影の手足だと言っていたからな。

そして、そいつからもらったこれ」



胸の内ポケットから一本のフィルムケースを取り出す。

それを右手の親指と人差し指で示すように見せる。



「……それ、何?」


「そのAIから渡された。

これで影を破壊できるらしい」


「……そのAIは、信用できるの?」


「さぁな」


「さぁなって…」




千春と深春が眉を寄せた。

フィルムケースには液体が入っている。

色は赤。


フィルムケースの半分くらいまでの量だ。


本体がサーバー内にいるのなら、USBを渡してくるはずだ。

液体、ということは人型に入っていると思った方がいい。




「AI討伐は俺がやる。もらった分はこれしかないしな。

……問題はゼロだ」



構図の実験室を指差す。



最高司令官がいる司令室の真隣。

かなり警備が厳しくなっているはずだ。




「俺たちが動くのは明後日。

日本にいるAIが主体になって、核ミサイル発射燃料の量と軌道を操作、高層大気圏で爆発させる」


「「「「「はぁ⁉︎」」」」」



俺と秋信、往焚を除いて全員が声を上げる。



「その瞬間はパニックになるだろう。

おそらくルナの機能も停止する」


「ちょちょちょっ!まてよ、湊さん!

それ困るんだけど⁉︎」



如月が慌てて俺の話を遮る。

しかし、俺がこいつの話に答えてやる義理はない。



「本当はここでルナの本部に突っ込みたいところなんだがな。

AIから、影は本部前の広場にくると言われた」


「俺の話聞いてる⁉︎」


「だから俺は広場で待機するしかない。

…秋信と往焚にゼロの救出を巻かせようと思ってはいるが、誰か手助けしてくれないか?」


「ちょっとぉー⁉︎湊さん⁉︎お、れ、の!話ー!」


「それでしたら、わたしと大地が。

パニックなった時に何が起こるかわかりませんし、千春と深春が湊さんの補助をする、ではどうですの?」


「無理に手伝ってくれなくていい」


「無理じゃねぇよ!俺やるぜ?」


「……俺も」


「…………私も」


「私もですのよ。…恩人に、何も返せないなんて嫌ですもの」


「…………恩人?」




そういえば、こいつらは執拗に俺にこだわる。

秋信と往焚に対してはぞんざいな物言いが多いが…

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