第85話

昨日と同じようにコーヒー二杯と紅茶、サンドイッチを持って部屋に戻った。



ベッドには不貞腐れた往焚と、しれっとした顔をした秋信が座っていた。



「あ、湊さん。サンキュー」


「………あぁ」




俺に気づいた往焚が、お盆を俺から受け取って机に置いた。

俺は今日も椅子に座る。



むぐむぐと3人で食べながら、ぼんやりとしていた。




「湊さん。今日は何を話す予定ですか?」


「そうだな…。とりあえず、俺らについてだな」


「俺らって、俺たち何か説明しなきゃ行けないことありましたっけ?」


「…………まぁ、お前はわかんねぇだろうな」


「?」





今日も、サンドイッチは1人3つ渡した。

1つで足りてしまったので、残り2つは2人にあげて立ち上がる。




「………湊さん」


「………………」




立ち止まって振り返ると、暗い顔の秋信がいた。




「…………いえ、……なんでも、ありません」


「…………………」





往焚が、俺と秋信を交互に見て首を傾げた。

俺はそのまま部屋を出た。






甲板に出て、タバコに火をつける。








ーーーーゆらゆら、ゆらゆら









「湊」


「………気分は?」


「あぁ…。体の方は大丈夫だ。

……気持ちの方は最悪だけどな」


「…………」




振り返ると、やっと起きてきたらしい開理が片手で頭を抑え、嘲笑してうつむきながら立っていた。



すっかり高くなった空は、少し色が薄い。

空気も冷たく、乾燥していた。




「開理」


「なんだ」


「………何かわかったのか」


「そうだな…。全部じゃないが、"あいつ"に関することならだいたいわかった」


「そうか」




あいつーーールナ最高司令官。

3年前、俺が死んだと思ったらしいあいつは、湊の死体を見て大喜びしていた。


影から俺が見てるとは、思いもしなかったらしいが…。





少し曇ってはいるが、天気は良かった。





そういえば、秋信が最近暴れまくっている。

組織を脱走した時に肺を撃たれたと言っていたが、もう大丈夫なのだろうか。



まぁ、あれだけ動けているのだから大丈夫か。

治療は開理がしたのだろうし。



「……湊」


「…………何」


「そのピアス、どこで買ったんだ?」


「あぁ…。どうだったっけな」


「覚えてないのか?」


「…………さぁな」


「……教えてくれてもいいじゃないか」


「……俺が買って付けていたのはこれじゃない」


「は?何だそれ。……じゃあ、何つけてたんだ?」


「ガーネット」


「お、おお。…お前可愛いな」


「ふざけるな」





ーーーーゆらゆら、ゆらゆら







左耳で光る、アレキサンドライト。

そういえば、ゼロはブラッドストーンを付けていた。


自分が買ったのかも、もらったものなのかも覚えていないらしい。

ただ、左に付いていたから付けたままにしている、とか。



本当は分かっている。

俺がつけているピアスは、ゼロがつけていたものだ。

そして、ゼロがつけているのはショッピングモールで俺が買ったやつ。



なら、俺がつけていたピアスはどこに行ったのだろうか。

…思い出せない。

まぁ、必要なくなったから捨てた可能性もあるが。




「なんでガーネットなんだ?

赤い宝石なら、ルビーの方が代表的だろ」


「そうだな」


「石言葉ってやつか?」


「いや…。色がな。…ガーネットの方が似てたんだ」


「何に?」


「さぁな」


「…………お前、そればっかだな」





光に当たった時に紅く光る、ゼロの黒い瞳。

その時の紅に、ガーネットはよく似ていた。



だから、ガーネットをつけていた。







ただそれだけだ。







それだけだが、開理に言うのは何か嫌だった。

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