Relics

第84話

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「おはよう、ございます」


「あー、はよ」


「………あぁ」




いまだベッドの上でうだうだしている2人を眺める。

2人ともまだ眠いらしく、ぼんやりと宙を眺めている。


…あと5秒か。



両掌で両耳をふさぐ。




「………え。……えええええええ!!!!」


「なんだよ…耳元で騒ぐな」


「ゆっ、往埜さん!?な、なんで、えぇ!?」




この二人は、任務などで同じベッドで寝ることなんて多々ある。

だから、朝起きたら隣にいる、びっくり!

…みたいな胸キュンシーンなんて絶対ありえない。



ただ、今回は笑うしかないと思う。…俺の場合は。




「ゆっ、往埜さん!?ちょっと!起きてく…ハッ!」



バッと秋信が俺のほうを向く。

だが俺は俯いてるからセーフだ。



「…湊さん」


「………なんだ」


「…見ました?」




ここで選択を間違ってはいけない。

"見てない"、なんて言えば一瞬でも見たことがバレる。



俺が答えられる返事は一つ。





「…………何を?」




そう。これだ。

これしかない。




「ん……。さ、ち…?」


「往埜さん…。なんでそんな恰好してるんですか…」






俺は見てない。

布団からはみ出ていた”生足”とか。


ウィッグが外れたせいでベッドに広がっているセミロングの茶髪とか。


パジャマの前のボタンが全部外れて全開になっているとか。

…そのせいで見えている、昨日の”秋信の印”とか。




「ん~。何時?」


「…7時です」


「も…少し………zzz...」


「ゆ、…往埜さん。…………はぁ」





秋信はベッドから起き上がり、往埜の足や髪を布団で隠した。


それから自分の服を整え、俺のほうへ歩み寄ってくる。




「………往焚さんには、あとで俺ならお説教しておきますね」


「………そうだな」





昨日の今日で、よくもまぁあんなに警戒せずにいられる、と思った。

船内は暖かく、ベッドで眠っていた2人には少し暑かったらしい。


往焚はそのせいで…脱いだのだろう。





「……湊さん」



深刻そうな顔で秋信が俺に声をかけた。

その表情は固く、眉を寄せながら目は伏せられている。



「…湊さんって、…」


「……………」




言い淀む秋信に視線だけを向ける。



「……やっぱり、いいです」


「…………何か食えるもの持ってくる」


「はい。……俺、サンドイッチがいいです」


「………あぁ。往焚、なんとかしとけ」


「そうします」





重くなった空気から流れるように部屋を出た。


ガチャリ、とドアを閉め、そのままそこに寄りかかった。



秋信が"気づいた"。



ほんの少し口の端をあげ、もどす。








そのまま、キッチンの方へ向かった。

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