第83話

「終わり」


「ありがとうございます」




だいたいのデータが取り終わり、器具を片付けてのびをした。


楽生はまだナナミの肩を抱いたままだ。





「あ、あの…楽生、さん」


「なんだ?」


「そ、その…」


「…ナナミ。もうしばらく言わなくていいよ」





にやりと笑いながら言う。

楽生はまだ状況がわかっていないらしい。


この鈍感さもモテる理由なのだろうか。



「で、でも、甘えすぎじゃないですか?」


「全然。

むしろずっと放置されてたんだから、めちゃくちゃわがまま言っていいと思うよ」


「そ、そうですかね?」


「だから、さっきから2人で何の話してんだよ!」


「何?楽生。やきもち~?」


「さーくーやー?いつまでふざけてんだよ!」





俺たちの会話を聞いてナナミが笑った。


それを見た楽生の顔は、今まで見たどの笑顔より優しくて、温かいものだった。





「…なんだ。照れて仲良くできなかっただけか」


「なんか言ったか咲夜」


「いいえ何も言ってないです楽生様」


「ふふふっ」




最近ずっと忙しかったし、今日はもう仕事を引き上げてもいいだろう。

せっかくだから2人を残して俺は帰ろう。




「んじゃ、データ打ち込まなきゃいけないし、俺は行く」


「そうか?じゃあ俺もそろそろ、」


「楽生はダメ」


「何でだー!」


「最近、根詰めすぎ。今日のノルマは終わってるでしょ」


「いや、それはお前も同じ、」


「それじゃあナナミ、楽生と今日は添い寝してやってー」


「さ、咲夜さん!?」


「おい!さく、」






ーーーバタン









「ふぅ…」




まったく。

世話の焼ける二人だ。





2人が寄り添っていた光景を思い出し、思わず口元が緩んだ。

楽生も、入る前はあんなに嫌がっていたのに。




自分のデスクに戻り、ナナミのデーダを打ち込んでいく。

ついでにナナミの資料に目を通してみることにした。





血液型はO。RHは…null?


かなり稀少だ。初めて見た。

都市伝説的には知っていたが、まさか存在するとは思ってもみなかった。


特殊はその血液と読心。



解析の結果、粉独身を可能にしているのが”敏感”であると判明。

本人にはその自覚はなし。


”目の前”にいる対象のみ読心が可能。

見なくても、1度話したことがある人物や会ったことのある人物なら、同じ部屋程度の範囲で読心が可能。




「へぇ~…。すごいな。

…まぁ、本人相当つらいだろうけど」





少し疲れてきたため、コーヒーを入れることにした。




そいえば、いまだにジュンの資料を見れていない。

見なければいけないと思いつつ、どうしても見たくないのだ。



俺を家族だと言った。

嬉しそうにおなかをさすっていた。

生まれてくるのは、まだ先なのに、全然大きくなっていないおなかを愛おしそうに眺めているのだ。






『咲夜さん、咲夜さん。…早く。この子に会いたいですねぇ』






ふふふっと笑うジュンを思い出す。






できたコーヒーをもって座った。

データの打ち込みミスがないかを確認していく。




「…………」




よし。


間違いはなかったので、楽生のパソコンにデータを送信した。



時計を見れば、日付けが変わって1時26分だった。

楽生がここに来ないということは、ナナミのところで寝たのだろう。



ここ2,3日楽生の顔色が悪かった。

明日はきっと風邪で休むな、と予測した。


疲れは安心した瞬間にしか感じることができないものだ。





俺も…





ジュンに、会いたいな








なんて、女々しいことを思ってしまうくらい、俺も疲れているらしい。


苦笑が漏れた。







あぁ、会いたい

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