第4章 Murder doll

ある男の話 Ⅷ

第81話

ジュンが妊娠した。




年が明けてすぐにわかった。



ジュンには誕生日がない。

年明けで年齢が一つ上がることになる。



だから、今ジュンは18歳だ。





年明け少し前に、楽生の方も終わったらしい。

俺と楽生は、自分の仕事に戻ることになった。






「よぉ!咲夜!元気かー?」


「楽生。…お前、元気だな」


「そりゃな。…会うたびに泣かれてるの、正直きつかったんだよ。

やっと会わずに済む」


「そりゃお疲れさん」






週に一回、俺はジュンの様子を見にいく。

データを取るためだ。


ほんのわずかな時間だが、ジュンは嬉しそうに笑う。



楽生は会いたくないらしく、別の研究員に頼んでいるらしい。

…だが、楽生の相手は相当曲者(くせもの)なのか、次々に担当が変わっている。




「……なぁ、楽生」


「なんだ?」


「お前の実験体、次俺がデータ取りに行っていいか?」


「いいけど…。なんかあんのか?」


「そこまで聞くと、さすがに気になんだろ」


「あー、そうだよなぁ…。ちょうど担当やめたばっかだし、いいぜ?」




読心なんて、どうやってやっているのだろうか。

まるで超能力のようだが、きっと何か仕組みがあるのだろう。



そっちの方に少し興味が湧いた。



話を聞いてみたい。




「お前の相手、名前は?」


「名前?…あぁ、番号か。73だ」


「73?…初期の方からいたのか」


「まぁ、気味悪がってなかなか実験できてなかった個体だよ」


「あぁ…」





ほれ、と渡された73号の資料に目を通す。


年齢は25歳。特殊は読心。

生まれも育ちもルナで、ずっと監禁生活、か。



ある程度の知識は与えられているらしい。


この組織に来たのは3年前。

組織ができて5年経つ。


この実験が始まったのが、ちょうど3年前。


本当に初期からいる実験体のようだ。





「次データ取る日、いつ?」


「んーと、…あ」


「どうした?」


「今日だ」


「は⁉︎」




あっはっはっと笑う楽生を見て頭を抱えたくなった。

こういうところがたまに抜けたんだよな、この人。




「……楽生は?行く?」


「いや…」


「…月一回くらいは見に行けばいいのに」


「なんでだよ」


「最高傑作とやらを目指してんだろ。

妊娠中の女は情緒が安定しない。…担当がころころ変わってんなら、なおさら心細いんじゃねぇの?

ストレスでも流産するらしいし」


「…………わかった」





渋々、といった感じで楽生が俺についてくることを決めた。

そのついでに連れて行ってもらうことにした。




一度デスクに戻り、データを取るのに必要なものを取る。

ついでに白衣も羽織った。




「楽生、行けるか?」


「あぁ」



廊下を歩きながら、少し思考に耽る。



たとえ実験だとしても、約一年は接してきている。

少しも情が湧かないなんて、あるのだろうか。



楽生は飄々とするどころか、会いたくなさそうにしている。




そんなに性格が合わなかったのか?





「ここだ」




0073と書かれたプレートがドアに付けられていた。

チラリと視線を向ければ、楽生は憂鬱そうな顔をしていた。




「楽生」


「なんだ?」


「マスク外せ」


「は?」


「それと、…こうして、こうして、…よし」




楽生のマスクを奪い、綺麗にまとめられていた髪をぐしゃぐしゃとセットし直す。



少しラフな感じになった楽生から白衣を剥ぐ。




「おまっ!咲夜、何してんだよ」


「んー。あ、こうか」



ごそごそと楽生の着ていたシャツの第2ボタンまで開け、グッと開く。



これでいいか。




「お前…。何してんだよ」


「いや。一応実験と言えどもお前の女だからな。

向こうだって、自分に合うために少しラフな格好してきてくれたと思ったら嬉しいだろ?」


「………そんなものか?」


「そうそう。女ってのは愛情で安心するもんだ」


「………咲夜、詳しいな」


「まぁ…。俺も一応人間を研究してるからね」


「あー!俺より咲夜の方が立派な研究員じゃん!

なんでお前が副統括なんだよ!」


「楽生が俺を誘ったから。やるって決めたのはお前だろ?」


「うぅー…」





楽生の調子が戻り、雰囲気が軽くなったのがわかった。




今の方が"楽生らしい"。



ドアに手をかけ、中に入った。

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