第78話

食料は大量に積んであったので、ホットサンドを作った。


作ったそれは袋に分けて入れ、コーヒを二つ、紅茶を一つ入れる。



まぁ、これでいいか、




そのまま部屋に向かうことにした。







ーーーーコンコン






「あ、はい」




秋信の声がして、扉が開いた。

驚いたような顔をしたあと、慌てて俺からカップを乗せたお盆を受け取る。




「すっ、すみません!俺が気を回すべきだったのに…」


「別に気にしなくていい。

…というか、もう入っていいか」


「あ、大丈夫ですよ」





室内に足を踏み入れ、椅子に腰掛けた。




壊れた机の代わりに、予備で置いてあったものを持って来たらしい。

それにコーヒー二つと紅茶、ホットサンドが入った袋を置く。



往焚はベットの上に座っていた。

チラリと視線を部屋の奥に向ければ、脱いだらしいシャツが脱ぎ捨てられている。



ボタンが一つも残っていないそのシャツと、床に散らばったボタンでだいたい事の顛末(てんまつ)は理解した。




さらに、秋信のシャツを着ている往焚。

一つダメにしたからともらったのだろう。

その首からシャツに隠れた胸元まで、紅い華が大量に散っている。




秋信は思ったより嫉妬深い、というか、往焚への思いが重症らしい。






「……湊さん」




少し不機嫌そうな秋信が俺を見下ろす。

俺が往焚に視線を向けていたことが嫌だったようだ。


そしてどうやらまだ座っていない。



まぁ、これほどした後に往焚の隣に座るのは厳しいか。



……俺なら普通に座るけど。






「秋信」


「はい」


「とりあえず座れ」


「え…あ、いや、…」


「……お前が椅子に座るか?」


「それはご遠慮します」




遠慮、じゃなくて拒否だろ。

俺がここを譲れば、自動的に往焚の隣は俺になる。



にっこり笑いながら剥き出しの威嚇かよ。







「座って食えばいいだろ。…いつまでそうしてるつもりだ」


「っ、………はい」




秋信はそろりそろりとベッドに腰掛けた。

往焚とは少し離れた位置だ。




往焚がホットサンドを一口食べる。

その視線は下へ向き、いつもの威勢の良さはない。






……空気、重い








はぁ、とため息をつき、秋信と往焚の間にドカッと腰を下ろす。



そのまま往焚に腕を回した。


そして耳元に口を寄せる。





こそこそと話しかけると、往焚がブフッと吹き出した。


口に入れたものを吹かないよう頑張ったらしく、かなりむせている。





「あぁ…。大丈夫か?」


「ゴホッ、ゲホッ、いや、ゴホッ」


「……湊さん。何してるんですか?」


「さぁ?お前に関係ねぇだろ」


「なんですかそれは!」


「なぁ、往焚。関係ねぇよな」


「ゴホッ、ねーな」


「ゆ、往焚さんまで…」





少し拗ねた秋信を尻目に、肩に回した腕をそのままにもう一度往焚の耳元でこそこそと話す。



往焚はまた笑った。




「あーーー!!!もう!あてつけですか⁉︎」




秋信は立ち上がり、俺と往焚を引き離して往焚の隣に座った。


そのまま往焚の腰に腕を回すあたり、こいつは本当に嫉妬深いと思う。




やっと空気が軽くなったので、そのまま椅子に座る。

適当な袋を掴んでそのままホットサンドを食べ始めた。




「……え、なんですか。なんで黙々と2人とも食べてるんですか」


「……………」


「なんで俺だけ仲間外れにされるんですか!」


「「ブフッ」」




まるで子供の駄々っ子のようで、俺も往焚も笑いが抑えられなかった。



「あはははははっ!」


「往焚さん…

そんなに笑わな方もいいじゃないですか…」


「いやー、湊さん最高」


「え…。…まぁ、そうですけど。

湊さんはかっこいいですよね」


「ブフッ!あははははははっ!」




往焚の笑い声が部屋に響いた。

秋信も拗ねながらも、その顔を見てホッとしたような顔を浮かべる。



必死で笑い声を抑えていた俺も、だんだん落ち着いてきた。




「秋信」


「なんですか」


「まだ拗ねてんのかよ」


「拗ねてないです」


「ブフッ」


「……往焚さん。もうそろそろ笑うのやめてくれませんか…」



「あははははははははははっ!」






往焚の笑い声が響く。

温かい空気が部屋を包んだ。

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