第73話

晶の部屋に入り、ベッドに晶を放り投げる。




「おいっ!湊さん!」


「あぁ、ちょうどいい。備品室から必要なもの持ってこい」


「はぁ⁉︎」


「あと5秒で動かなければナイフ投げる」


「行かせていただきまっす!」





バタバタと如月が出ていくのを視界に映さないようにしつつ晶を見る。



額から血が出ているが、縫うほどの傷はない。

頰や体の打撲が主なようだ。


あとはかすり傷だけ。



頭を打って気を失っているだけのようだ。





「あの…」




…………また来たか。


おどおどとした様子で蒼が立っていた。





チラリと視線だけ向けてすぐに晶に戻した。


服をめくると、いくつか痣ができていた。

あまり揺らさないようにしながら横向きにさせ、背中も確認する。



正面を庇ったらしく、背中の方が痣は多い。





「あの…、私、何か、…」


「……水とタオル」


「は、はい!」




蒼はパタパタと部屋から出ていく。





ベッド脇にあった椅子に腰かけ、ため息をついた。


開理が倒れたせいで、手当は俺がやるしかない。


ただ、頭を打っているならあまり動かすことはできないだろう。

頭の中の方は、開理が起きてから頼んだ方が良さそうだ。





「おい!持って来たぞー」


「あ、あの、湊さん、これでいいですか?」




2人が同時に帰って来た。


ベッド脇の机に全て置いてもらった。




タオルを濡らし、傷を拭っていく。





「湊さん。秋信さんのあの力は異常すぎないか?」


「……………」


「こっちだって被害にあってんだ。

教えてくれてもいいだろう?

……お前が秋信さんを止めた方法とかも、さ」






本当にこいつはうざい。

隙あらば俺らの弱みと利用できるものを掴もうとしてくる。




ヘラヘラしながら、いつもそうやって獰猛な野心をむき出しにしてくる。



だからこいつは嫌いなんだ。





「……被害、ねぇ。

むしろ、被害を受けたのはこっちだろ」


「えー?何言ってんのー?」




にやにやと笑うこいつの顔に硫酸をかけてやりたい衝動にかられながら、手当を進めていく。



晶は蜘蛛に所属しているらしい。

もちろん、他のやつらも。



意識のないこいつまで取引材料にしてくるあたり、本当にゲスだな。




「カップの底、見たか」


「カップ?」


「往焚の部屋。床に転がってただろ」


「あぁ。それがどうしたんだ?」




絆創膏と湿布で顔の手当が終わり、腹の方も湿布を貼っていく。




「お前の言う被害者が、往焚に睡眠薬盛って襲おうとしてたらしいけど?」


「え」


「で、助けに入った秋信が、過剰防衛した」


「過剰っては認めるんだなぁ〜?」


「さらにもう一つ」


「……なんだ?」


「今日1日中晶が俺につきまとってきた」


「………………」





腹の方が終わり、ゆっくりと横向きにさせて背中に湿布を貼っていく。


腕と足はそんなに酷くないから、何もしなくてもいいだろう。




「本人が言ってたぜ?俺に喧嘩売りにきたって」


「………………」


「おかげで一日中散々な目にあった」


「………………」


「でも俺は晶に何もしてない」





服を戻し、ゆっくりと横たえる。

もう一つあったタオルを濡らし、額においた。


そっと毛布をかける。





「それどころか俺はこいつの手当をしてる」


「………それで?」


「はぁ…」





ヒュン、と投げたナイフが如月の首をかすめて壁に刺さった。




「俺らは別に、お前らと一緒にいる利点なんてない」


「………………」


「AIが守れと言ったやつのなかに、お前は入ってない」


「……………」


「かってについてきたのはお前だ」





如月を睨む。

悔しそうに歪むその表情を見ながら立ち上がった。




「……お前に教えることは何一つねぇよ」


「あ、湊さ、」






蒼の制止を無視して部屋を出た。






往焚の部屋によるかどうか迷ったが、やめた。

そのまま部屋に戻る、






きっと今、秋信は俺に顔を見られたくないだろう。

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