第72話

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時計を見ると、眠ってから15分ほどしか立っていなかった。



最悪だ。




せめて目を閉じて休もう。


そう思って瞼を閉じた時だった。








ーーーーガンッ!バキッ!



ーーーーダンッ!






外がうるさい。

秋信と晶が争っているのか。



まぁ、あれほど修羅場みたいになってればな。





すぐ止むだろうとそのまま目を閉じた。







ーーーーダーンッ!


ーーーーガッ!




《やめろっ!》







30分しても音がやまない。

さらに、複数の人物が騒ぐ声まで聞こえてきた。





全然休めねぇよ。






重い体を無理やり起き上がらせ、ドアを塞いでいた棚を押しのけた。




そのまま部屋を出ると、騒ぎはすぐ目に入る。




往焚の部屋の前、か。





「あっ、み、湊さん!止めてください!」




駆け寄ってきた蒼が俺の腕に抱きついた。

それを振り払いながら部屋に近づく。




後ろで蒼が歯噛みしているのがわかるが今は無視。





「……何やってんだよ」


「…秋信が、…晶を、」



全員パニックになっているようだ。

珍しく深春が動揺していて、説明が伝わらない。




仕方なく観衆を押しのけて部屋に足を踏み入れた。




「秋信さん!やめなさい!」


「おい!湊さんまだなのか⁉︎

クソッ。どうなってんだよ、こいつ」


「……っ!秋信、さん、なんでっ」





秋信を止めようとしている千春とルミ、如月が視界に移った。



3人でローテーションしながら秋信の腕や足を引き止めるが、全員振り払われ、投げ飛ばされている。




「ああ!湊さん!

お宅の秋信さんどうなってんの⁉︎

全然ビクともしないんだけど⁉︎」


「………そりゃそうだろうな」




ぐったりと倒れている晶と、完全に自我を失っている秋信。


部屋はぐちゃぐちゃ。

壁にはヒビ。というかもうすでにへこみができている。



とりあえず晶の様子をチラ見した。

顔や腹部を殴られたようだが、骨折はしていない。


大事に至る前にこいつらが駆けつけてきたのだろう。



運のいいやつだ。




「……幸架」


「………っ」




視線を秋信に戻し、近づく。


秋信は動きをピタリと止めた。

その先に如月とるみが腕を、千春が背後から両脇に腕を入れて秋信を固める。




秋信に表情はなく、瞳孔が開ききった瞳には何も映っていない。




「……幸架」




ぽん、と秋信の額を人差し指で押した。




ガクリと秋信が膝から崩れ落ちる。





「えっ!」


「うわっ」


「……っ」




秋信を拘束していた3人は慌てて手を離す。





「……湊さん、すごい」


「どうやって…」


「というか、指一本で秋信さん膝から崩れたぞ」




後方から聞こえる声を無視してしゃがみ、秋信に視線を合わせる。




「……ちょっとは落ち着いたか」


「…………すみません」




秋信のチョーカーに触れる。

制御不能で壊れたそれを外した。



「…何があった」


「………湊さんが部屋に戻った後、口論になりまして…


落ち着くためにコーヒーを入れに行ったんです。


それで…」




ここに入る時、ドアノブと鍵が壊れているのを確認した。


戻ってきたときには鍵がされていたのだろう。




「……ノックしても返答がなくて。


……でも中から音がするのが気になったんです。

それに中には晶と往焚しかいなかったので…焦って、ドアを壊して入りました」


「まぁ、それはなんとなく予測できる。

それで?」




秋信が俯く。

唇を血が滲(にじ)むほど噛み、爪が食い込んで皮膚が裂けるほど手を握りしめている。




「……眠っている往焚さんに、晶が…」


「………なるほど、な」




立ち上がり、秋信の頭をぽんぽんと軽く撫でた。

ハッと秋信が俺を見上げる。

その瞳にはうっすらと涙がたまっている。




「……お前は部屋なんとかしろ。

あと、全員出てけ」




晶を担ぎ、そのまま部屋を出た。









「……やっぱり、あなたには敵(かな)わない」






俯いてそう言った秋信の声を、聞こえないふりをした。

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