第70話

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往焚(璃久) Side




「「往焚さん!!」」


「なんだよ」


「何してたんですか湊さんと!」


「しかも密室だったじゃん!」


「……話ししてただけだけど」


「「今の間は⁉︎」」




湊が出て行ってすぐ、2人からの尋問が始まった。



なんだこいつら。

しつこい。



はぁとため息をつき、机に置いていたカップをとって紅茶を一口含んだ。

少し冷めてし待っているせいか、苦味が増した気がする。



「そんなに、そんなに湊さんがお好きだったなんて…」


「あんな奴のどこがいいのか、僕にはわからない…」


「……お前ら、なんなんだよ」




ついてけねーよ、と心でぼやきながらカップを置いて立ち上がる。


そのまま部屋を出ようとしたが、2人に思いっきり腕を引かれベッドに投げ出される。




「なんなんだよ!」


「往焚さん!ちゃんと答えてよ」


「どっちなんですか?

湊さんのこと、好きなんですか⁉︎」


「あんたら、本当になんなんだよ!」




つーか、俺への扱い酷ぇーし。

普通投げるか?

ベッドって言っても、2人に肩を抑えられたこの状況は最悪だ。



バフンバフン バウンドしたし。




「もー、…いい加減にしろ!」



2人のみぞおちを両足を使って蹴り上げ、2人が怯んでいる隙に腰の拳銃二丁を構える。




「何言いてーのか、全然わかんねーよ。

つーか緊張感なさすぎ。

あんたら、何やってんの?」


「「………………」」




この2人、本当に大丈夫か?

頭お花畑なんじゃねーの?



湊の疲れた顔を思い出す。

今後について、何か悩んでいるようだった。



この2人が乱入してきたせいで、聞き逃してしまったけれど…。




「……秋信」


「…はい」


「お前、湊さんの何見てきたわけ?」


「………っ!」


「それとあんた」


「なに」


「これ以上湊さんになんかすんなら、どこからでも撃ち殺してやるよ」


「なっ!」





…俺は、湊さんや秋信みたいに身体能力が優れているわけではない。

知能はそこそこだし、他にもなにか秀でたものはなにも持っていなかった。




でも、俺には"耳"と"目"がある。

どこにいても、どこから撃てば当たるかくらいは判断できる。



見えなくても、"足音"や"息遣い"でわかる。





「それともなんだ?

あんたら2人とも、今ここで撃たれたいか?」




秋信が焦ったように視線を彷徨わせた。

晶はあまり信じていないようだ。




接近戦は苦手だ。

でも俺は今銃を構えている。



2人がナイフを取り出している隙に撃てる。




俺が得意なのは、ナイフではない。

遠距離武器だ。






銃弾が届く範囲なら、どこでも当てられる自信くらいはある。






「……コーヒー、入れてきます」




秋信が立ち上がって部屋を出て行った。

だから、秋信に向けていた拳銃を下ろす。



「……僕は、…」


「………あんた、晶だっけ?」


「……そう」


「今日の湊さんの顔、ちゃんと見てた?」


「え…?」




拳銃を下ろし、ベッドに腰掛けた。




「湊さん全然眠れてねーんだよ」


「……不眠症?」


「たぶんな。…眠ってる時も、神経尖ってるっつーか…

やっと長く眠れたって時は大抵魘されてるし」


「…………」


「明日から忙がしーだろ?

……今日くらい、休ませてやってよ」


「……………やっぱり」


「あ?なに?」



すっと晶が立ち上がって近づいてきた。


小型のナイフを袖から二本滑らせ、いつでも動けるようにしながら睨みつける。



晶は、俺から4歩くらい離れた場所で止まった。




「…やっぱり、湊さん好きなの?」


「はぁ…だからさぁー、なんでそうなんの?」


「だって、さっきからあの人の話ばっかりじゃん」


「そーだな。…俺と秋信は、湊さんを守って欲しいって、頼まれたからな。

……俺たち自身、湊さん慕ってるし」


「頼まれた?誰に?」


「………さぁ?

…アレは、人間って言わねーんじゃねーの」


「…………」






静寂が広がる。





波の音だけが、窓から聴こえているだけだった。

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