第66話

甲板に出てからタバコに火をつけた。

外用の灰箱もあり、その近くの柵に背中を寄りかける。




この数日は晴れるらしいので安心だ。



少し冷たい風が吹く。

うみねこの鳴き声もした。




ーーーーゆらゆら、ゆらゆら





「おお、湊。部屋で休んでるのかと思ったよ」


「……………」




白衣をはためかせながら開理が近づいてきた。

俺の隣によりかかると、にっこりと笑う。




「顔色悪いな。大丈夫か?」


「あー…。早く寝たい」


「部屋は?」


「………2人のセルフ修羅場になってて寝れない」


「せ、セルフ修羅場?」




一人で修羅場ってた晶が脳裏に浮かんだ。

そしてそれに今にも混ざりそうだった秋信も。




「はぁ…」


「あははっ!イケメンもつらいなぁ」


「……別にイケメンじゃない」


「おっ!ツンデレか⁉︎」


「意味わかんねぇよ」




今どこにツンデレの要素があったんだよ。

しいて言えばツンしかなかっただろうが。




青い空にふわふわの雲とうみねこ。


太陽はまだ燦々と輝いている。




「なぁ」


「なんだ?」


「お前、組織研究員のスパイしてた時、咲夜って名乗ってたのか?」


「え?咲夜?」


「……その様子じゃ違うか。

まぁ、籬開理で通ってたしな」


「待て。…咲、夜?」


「知り合いか?」




開理の表情が凍りついた。

そのまま目を見開き、冷や汗を一筋ながした。



「おい。…親父?」


「さく、や…さ、くや…咲夜……」



うわ言のようにその名を口にし続けている。

さらに、片手で頭を抑えて俯く。



これは、まずいか?



「おい!」



その肩を掴んで揺らすが、返答はない。



「咲夜。…咲夜……ああ……そうか。…咲夜っ」




そのまま開理は倒れた。

柵に寄りかかっていたせいで、このままだと落ちると判断した俺は自分の方へ引いた。


そのまま抱きとめるように後方に倒れこむ。



これでお互いに転落と怪我は避けられた。



が、大の大人の男を運ぶ体力はもうすでにない。





「あ…と、えっと、湊、さん。

と、開理さん?大丈夫か⁉︎」



通りかかった大地が慌てて駆けつけてくる。

その後ろにいたらしいるみも駆け寄ってきた。



「手、貸してもらえるか」


「そりゃ、全然かまわねぇけど…

どしたんだ?大丈夫なのか?」


「大丈夫だとは思うが…とりあえず重い」


「あ…」




大地が開理をおんぶした。

さすが、筋肉がっしりなだけある。


るみは開理の部屋に濡れたタオルと起きた時のために水を持って行くと言って走っていった。



俺は持っていたタバコを灰箱に入れ、大地が入りやすいようドアを開けた。




ベッドにゆっくりと横たえ、毛布をかける。

服の第2ボタンまでかってに開けた。


あと、白衣もかってに剥いだ。



「これ、濡れたタオル…」


タイミングよく戻ってきたるみからタオルを受け取り、額に置く。

風邪をひいているわけではなさそうだが、一応。



「何があったんですの?」


「……聞きたいことがあって聞いたら、倒れた」


「トラウマでもあったのか?」


「……いや。そんな感じじゃなかった」




顔色はよく、眠っているだけのようだ。

しばらく放って置いても大丈夫だろう。



「騒がせたな。助かった」


「いえいえ!湊さんのお役に立てたのならいいですのよ」


「あ、あぁ。俺も、迷惑かけたし、な」




3人で部屋を出た。

2人は今日の夕飯について話していたらしく、そのままキッチンスペースに向かったようだ。




俺もそろそろ部屋に帰りたい。






考えたいこともたくさんあるのだ。

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