閑談 船上の想い

第64話

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俺たちが全員船に乗り込むと、船は出発した。



思ったよりは大きな船で、一人一人の部屋があるくらいの広さと部屋数がある。



昨日も今日もバタバタと動いていたせいで疲れているのもあり、話は明日からになった。





「はぁ…」




適当に割り振った自分の部屋に入って荷物を放り投げると、そのままベッドに倒れこんだ。



目的地に着くのは2日後。

到着後は1日しか猶予がない。

船にいる間の2日で動きを決めなければならない。



これから忙しくなるのを考えれば、今は寝ておくべきだろう。




……まぁ、寝ないが。






ーーーーコンコン






軽いノック音。

秋信と幸架ではなさそうだ。


足跡からして、割と小柄な人だろうか。


名乗りもせず、俺の返答を待っているらしい。






ーーーーコンコン







ドアを叩く音からして、おそらく女ではない。

女の骨は細いから、もっと高めな音がなるはずだ。



だとすると、小柄で割と足が小さい男。

……晶か。


このまま俺が開けてもいいが、何か仕掛けられるのがオチな気がする。




「……開いてる」




返答後、すぐにドアが開いた。

やはり晶だ。




「お邪魔していいですか?」


「……もう入ってんだろ」


「あっ、ごめんなさい?」




こいつ、相当性格悪いな。


コツコツと足音を立てながら俺の正面まで来た。

体を起こすのも怠かったので、俺はベッドに突っ伏したままだ。





「……ずいぶん余裕あるんですね。

僕は、君にとってそんな雑魚ですか?」


「………お前がそう思うならそうなんだろ」


「ハハッ。言ってくれますね」


「使いたくねぇなら敬語使うな」


「……そう。じゃあそうするけど?」




晶はジャッと音がして俺に覆いかぶさると、そのまま首にナイフを当てた。


折りたたみ式のナイフのようだ。



「……僕だってなめられ続けるのは嫌なんでね」


「へぇ…」


「なんで逃げないの」


「逃げる必要がない」


「はぁ〜?」




はぁ、と思わずため息が出た。

ただでさえ疲れているのに、こんなことに付き合わされるとは。




「さっさとやれよ」


「………っ!」


「やんだろ?」


「このっ!」




当てられていたナイフが思いっきり引かれる。




「え…」



スパッと切れるのを想像してたらしいが、残念ながらほんの少し薄皮が切れた程度だ。



「なっ、なんでっ!」


「俺は何もしてない」


「じゃあなんでだよ!」


「はぁ…。お前さぁ」



動揺している晶の手首に手刀を入れた。

痛みと衝撃に耐えられなかったその手からナイフがこぼれた。


それが床に落ちる前に掴む。



「あっ」


「よく見ろ」



数回クルクルと回した後、その刃を晶に見えるように差し出す。



「あ……」



刃の部分が錆びていた。

ところどころ欠けている部分もある。


薄皮一枚切れたのは、その欠けた部分が引っかかってくれたからだろう。


欠けてなければ俺に傷一つつかられなかったに違いない。



「どうせ手入れしたやつと使用済みを区別してなかったんだろ」


「……っ」


「ナイフ開く時の音が重すぎる。

あれじゃ見なくても錆びてるってわかる」




錆びているせいで畳(たた)みにくかったが、少し力を入れて刃をしまった。

それを晶に手渡し、再びベッドに身を投げる。



仰向けになって天井を眺めると、アラベスク模様の白い天井であることがわかった。

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