第61話

「……湊さん」




本部を出たところで往焚が俺を呼び止めた。

振り返らずに足を止める。



「……なんで、殺したんだ」


「…………」


「あいつら、もう情報吐いただろ。

生かしておけばもっと情報手に入ったし、あいつらだってどうせルナに脅されてただけだ。

……殺さなくたって、……」


「…………」





振り返れば、2人とも俯いていた。

こんな仕事ばっかりしてるのに、この2人はいまだに人を殺すのが嫌らしい。




「……湊さんは、変わったんだと思ってた」


「変わった?俺が?」


「前は、人殺しも呼吸と同じで、慈悲も情けもなかった。

あの女…。ゼロと再会して、湊さんはすごい変わった」




変わったのは、俺じゃない。

きっとこいつらだ。



俺と一緒にいなかった2年で。


本部から、遅れて俺についてくるやつらの足音が聞こえ始めた。

ふぅ、と一息つき、再び歩みを再開させる。



「ついてこねぇなら俺1人で行く。

……あとは、お前らが選べ」


「待ってください!…質問には、答えてくださらないのですか?」




歩みは止めない。

視線も前から晒さない。






ーーーーまっすぐ前だけ見て、走れ!







後ろも下も、向いている暇はないんだ。



「どうせ死ぬなら、楽な方がいい」


「え…」




どうせ生きてたって、蜘蛛の餌食だ。

だったら、蜘蛛に食われる前に息の根を止めてやった方がいい。



達彦と香苗に、2人は会ったことがあるのだろう。

ルナの組員として働いていた時もあるのだから。



情が湧いていたって仕方のないことだ。



人は、情が湧いた相手に生きてほしいと思ってしまうものだ。


ハッピーエンド、バッドエンドなんて、そのいい例だろう。



愛し合っている登場人物の片方が死んでしまった時、読者はバッドエンドだと思うだろう。



だが、読者は生きていてほしいと思っていても、死んだ登場人物は満足して死んで行くのだ。


理由は様々。

何かを守れた。自分の信念を貫いた。

誰かを心から愛せた。愛された。




そう考えれば、全てハッピーエンドと言えなくもない。




本当のバッドエンドは、読者も登場人物も世界も救われない未来だけだ。






秋信と往焚が歩き出したのがわかった。

どうやらついてくるらしい。



いつだってこいつらは俺についてくる。

迷っても、疑っても、最後はいつもついてくるのだ。




だからこそ、その信頼だけは絶対に守らなければならない。






俺は嘘つきだ。






でも、騙してでも守りたいものがある。

今は1人では成し遂げられない。

こいつらの力を借りるしかないのだ。





AI、"影"を殺す。

そして、ゼロを連れ戻す。



ついでに"あいつ"に1発お見舞いきてやりたいところだ。



それからのことは、終わってから考えればいい。

裏から逃げて表で生きていってもいい。


金は溜まりまくって使いきれなそうだし、ゆっくり生きていってもいい。




ただ、もうゼロを休ませてやりたかった。




きっと疲れ切っている。






俺にできるのは、あいつが休める場所を作ってやることくらいだろう。


俺はゼロを理解できない。

どんなに似ていても、何もわからない。




なんでルナについていったのかも、ルナのリーダーにいいようにされているのかも。




そろそろ終焉に向かっているのはなんとなく感じていた。




もう直ぐ終わる。

全てが終わる。






しかし、考えるのだ。









ーーーこれは誰が描いたシナリオなんだ?と。

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