第60話

「私の父は、咲夜さんの部下でした。

でも、咲夜さんは、とても 指揮をするような人格ではなかったらしいです。


部下に何かさせるときは命令ではなく、いつも

"お願い"をしていたり、


何かするたびにありがとうやごめんねと言われた、と言っていました」




部下なのだから、そんなの当たり前なんですよ、感謝も謝罪もいりません。


そうなんだ言っても、咲夜はお願いを続け、感謝と謝罪の言葉を言い続けたという。




「あと、不思議な人だった、と」


「不思議?」


「はい…。休憩になると、必ず外にある桜の木の根元に行っていたのだそうです」




桜…


まさか、あのとき処刑されたのが咲夜か?

いや、無名組織ーーー研究組織の副統括が処刑などされるわけがないか。




「咲夜さんは、楽生さんという方をとてもし慕っていたそうです。

彼の研究を間近で見て、この人についていきたいと思ったのだとか」


「なるほど…。そのほかは?」


「……父は、咲夜さんが処刑される前に逃そうとしました」


「は?…処刑?」


「はい。…なんでも、被験体を1人逃したとか…」


「それだけか?」


「他にもあったようですが、私も幼かったので…」





被験体を1人逃した?

それは故意にか?


副統括が、なぜそんなことを…




「でも、咲夜さんは父の提案を断ったそうです。

自分は望んで処刑されるのだ、と」


「望んで?」


「はい。……きっと次につないでくれるから、と」




次につなぐ?

くれるから、ということは誰か別の人物に託したのか?



そんなことを自分は処刑されるとわかっていたのに被験体を逃した。

そして、自分を助けようとしたものの申し入れを断り、望んで処刑されて死んだ?


次を誰かに任せて?




だめだ。

全然繋がらない。





「……他にはあるか?」


「……父は、その後病気で死にました。

死ぬ間際、私に言ったんです。

咲夜さんは、化け物だ、と」


「化け物?」


「はい。詳しくはきけませんでした」


「そうか」




咲夜は化け物。

楽生は特殊な目を持っていた。



そして、ルナの最高幹部は咲夜を嫌っていた。

いや、あれはそんな優しいものではないか。


憎悪、嫌悪、嫉妬。




腰から銃を取り、構えた。


それに気づいた如月が慌てて止めようと俺の方に一歩踏み出したのが見える。



そして、俺に合わせて銃を構える往焚も視界に映る。







ーーーーパァンッ!








2発の銃声が響いた。



椅子に座っていた2人の体がグラリと傾き、椅子ごと倒れる。




「なっ!おい!何やってんだよ!」




俺の胸ぐらをつかもうとした如月を睨みつける。

如月は怯んだのか、俺から3歩ほど離れた位置で止まった。




「お前の命令には従った。

尋問が終わった時点で俺の仕事は終わりだ」




如月が歯噛みする。

してやられたって顔だ。


チラッと2人の死体に視線をやると、穏やかな表情をしていた。





バカなやつら。






「仕事は終わった。時間もちょうどだ。

………行くぞ」





持っていた拳銃を往焚に投げた。

ここに来る前、往焚の腰にあった二丁のうちの一つを抜き取った。


往焚はうまく受け取ると、二丁とも腰に戻した。





俺の後ろを秋信と往焚がついてくる。




部屋にいた如やつらは、しばらく険しい顔で死体を見つめていた。

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