第59話

地下らしいその部屋に入ると、そこはコンクリートで固められた窓のない部屋だった。


中央には二つの椅子が背中合わせに置かれている。

そしてその椅子には、男1人、女1人が座っていた。


かなり手ひどい拷問をされたのだろう、傷や出血も多く見られる。



もちろん爪も何枚か剥がされている上、服もボロボロだ。



男の方は片耳を切り落とされているらしい。

指も何本かない。




「こいつらだ」


「へぇ…名前と、こいつらの地位は?」


「いやぁ〜。…何にも吐いてくれなくって」



とほほ、と笑う如月を見てため息をつく。

こいつ自身もやったんだろうが、それでもダメだったらしい。



とりあえず男の方に近づく。



「……よぉ。いつまでだんまりしてんだよ」


「…………」


「ほらな!何にも言わねぇんだよ。何したって悲鳴一つあげないんだ」




またため息が出た。

お前がそんなだから舐められてんだろ。



……なんて、思ってたって言うのもめんどうだ。





スッと立ち上がり、ため息を一つついた。




「やっぱりお前でも厳しそうか…

そうだよな、ため息も吐きたくなる、」


「うざい。5分くらい出てろ」


「え」


「……お前の耳は作り物か?」


「はい!五分後にお迎えに上がりまっす!」




ドタドタドタ!バタン!



そんな音をたてながら如月は出ていった。


静かに出ていけねぇのかよ。




「はぁ……。さて」





振り向けば、余裕でだんまりを続ける2人。

なんで言わないのかは知らないしどうでもいい。




さっさと終わらせよう。






〜・〜





「みっ、湊さーん?」




そろりそろりと如月が入ってくる。

準備が終わったらしい大地と晶、秋信と往焚にも一緒だ。



「ど、どんな感じですかね?」



左手のひらに右手を拳にして擦りあわせるようにしながら、如月が俺に尋ねる。


どうみてもその仕草は悪徳営業マンだ。




「……開始1分で吐いた」


「え⁉︎」



俺は今壁に寄りかかって立っている。

その左方向にある椅子の上で真っ青になって震える男と放心状態の女を親指で指す。

暇だったので俺はタバコを吸っていた。




「えーっと?」


「好きに聞け」


「お、おお〜。じゃあそうさせてもらうわ」





この2人は、特に有力な情報など持っていなかった。

しかも、この2人に関しての情報はすでに持っていたため、名前を聞いたり組織の中での地位を聞くまでもなかった。



男は五十嵐達彦(いがらしたつひこ)。24歳。

ルナの下級構成員だ。


女は前原香苗(まえはらかなえ)。28歳。

同じくルナの構成員。



近況についても、バーテンダーAIから聞いたもの以上のことは知らないようだった。




「それで?俺らに潜入してたのは、やっぱりリーダーの命令?」


「………はい」


「湊を日本から出さないようにしろってか?」


「………はい」





時間を見れば、あと20分で出発だった。

準備が終わったらメンバーが次々にこの部屋に入って来る。



「湊さん」



こそっと秋信が話しかけて来るのに視線で答える。



「これは一体…」


「……仕事。まぁ、元から持ってた情報以上のものは何もなかったけど」


「なるほど。…お疲れ様です」





ーーーーゆらゆら、ゆらゆら








一通り尋問が終わったらしい如月は、今後この2人をどうしようかと部下と話しているようだった。




「……おい」




それを横目に、2人に話しかける。




「……はい」


「……咲夜と楽生ってやつ、知ってるか?」


「咲夜と、楽生?」




達彦がしばらく考えるようなそぶりを見せたあと、首を振った。



「いいえ….。申し訳ありませんが、俺は聞いたことないですね」


「そうか」




2人とも死んだとだけ聞かされた。

それもかなり前だと言う。


この若い2人では知らないか。




「………私、知ってます」




相変わらず虚空を眺めている女が答えた。




「私の父が、咲夜さんをかなり尊敬していて…。よく、仕事から帰ってきた父に話を聞かされていました。

……楽生、という名前の方も」


「……どんな話だ?」




女は、視線を落とし、懐かしむように話を始めた。

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