第58話

「まぁ、そろそろおふざけは終わりにして…」




今までふざけてた自覚はあったのか。

だったら最初からまじめにして欲しかった。




「こいつらが準備してる間、時間あるよな?

湊さん」


「……ない」


「えぇー!ここは頷くところだろ!

お前っ!どんだけ俺が嫌いなんだ!」




さぁ?そんなの答えるまでもねぇだろ。

こいつに対しての印象で、よかったことなんて一度もない上にいいところなんて一つもない。




「まぁ、まぁ、ね?お願い!おじさんかお願い聞いて!」


「却下」


「なんでぇぇぇぇーーー!!!」




チラッと秋信と往焚に目配せをした。

2人は頷き、他の人たちが準備するのを手伝いに行った。




「………で?」




2人が出て行き、部屋に2人になったところで話を振る。


思わず深いため息をついたのと、面倒で頬杖をつくのは仕方のないことだと思う。



「あぁ…。実はな、日本に残ってた蜘蛛の中に、ルナが2人、紛れ込んでたんだ」


「俺の見張りだろ」


「まぁ….そうなんだが…」


「……で?」


「いくら拷問しても口開かなくてなぁ…」




……こいつは、本当に使えないやつだ。


ルナの現状が知りたいのはどの組織も同じ。

俺らもそうだ。


AIとゼロがルナにいるのだ。

何をされるかなんて予測できない。




「殴っても切りつけても、歩み寄ってもダメ。

もちろん性的拷問もダメ。

もう参っちゃって参っちゃって」


「……へぇ」


「ちゃんと依頼料払うからさ、ね?

おねがーい!ね?ね?湊さん?」




依頼内容は、正直かなり魅力的だ。

ルナの情報が手に入る上、報酬も払うと言う。


まぁ、こいつのことだからな。




「どうせ、情報吐かせた後は俺もそいつらも用無しなんだろ」


「あー!そんなことないよー!」


「……….うさんくさ」




情報を取ったら、後は独占。

拷問師ごと消すのがこいつらのやり方だ。



つまりここで引き受けると、ただでさえ追われていて面倒なのに、蜘蛛にまで追われることになる。



「めんどうだ」


「なー!頼むよぉ!な!な!なぁー?」


「断る」


「えー……。おじさん、泣いちゃうよぉ〜?」


「かってに泣け」


「湊さんが言うとエロい!」


「…………はぁ」





ほんと、なんでこんな奴が蜘蛛のリーダーなんだろうか。

血迷ったか。



ガタッと音を立てながら立ち上がる。

正直だるい。

どうせ5分で吐く。



こいつらがぬるいだけだ。



拷問なんて、まさに"TPO"だろ。





ーーーーあなたはいい大人ですからできますよ。TPOは大事です





いつかの会話が脳裏に蘇る。

思わず口元が緩んだ。





「湊さん?」




訝しげに蜘蛛のリーダー、ーーー如月(きさらぎ)が首をかしげる。





「やってやってもいいけど…」


「ほんとか⁉︎」


「条件付きな」


「なになに?」





如月は、目を輝かせて俺を見る。





「俺を消そうとした時点で交渉決裂。

ーーー俺は蜘蛛を標的にする」





如月の顔が一瞬固まった。

それから、取り繕うように笑みを向ける。


その瞳は、もちろん笑ってなどいない。





「あらら〜。

ま、情報得られるんだから仕方ないか。

いいよ、今回は君から手を引こう」






俺を殺したいのはルナだけじゃない。

そして、利用したいと思っているのも。




ゼロに比べれば、俺なんて脅威でもなんともない。


しかし、ゼロは表に出てこなかった。

だから、俺の名前の方が知られている。






それに、あいつは"Devil"だ。

何を代償にされるのかわからない。


組織壊滅で済むのなら、きっと優しい方に違いない。



組員全員蒸発だって、いとも簡単にできてしまう。


手を触れずとも会わずとも、あいつは人を殺せるのだ。




それに比べれば俺は甘い。

普通に常識ある接し方さえしていれば、危害はないのだから。






「さぁ、行こうか」





出発まで、残り40分。




如月の後をついていった。

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