Will

第57話

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家に帰ってきたのは6時ごろだった。


あのクソAI。

アルコール度数高くして出しやがって。



家に着いた時にはもうふらふらだった。




「湊さん?」




玄関で靴を脱ぎ捨てたあたりで往焚に見つかった。

顔色がいいことにほっとする。




「……荷物、まとめておけ。3時間後に出る」


「あっ、わかった。秋信ー」



パタパタと秋信に伝えに行く往焚の後ろ姿が、子犬のように見えて少し笑った。




自室に入り、ベッドに倒れこむ。

アルコールが早く抜けてくれるといいが。



というか朝っぱらからこんな度数上げて出すかよ。




カラン、と何かの音がなった。





ポケットに突っ込んでいた箱が布団にベッドに転がったらしい。


両手で包み込むように持ち、眺めた。





カラン、カランと二つ音の何かが動く音がした。

軽い音がなる割には箱が重い。





これはまだ見ないほうがいいような気がする。

いや、違うな。



まだ、見る覚悟ができていない。


安易に見てしまっては、きっと、耐えられないだろう。




着替えと箱を手頃なカバンに入れ、鍵を首から下げた。

切れた革紐は新しいものに変えた。



ゼロに次にあった時は返すつもりだ。




時計を見れば、あと2時間半はある。

少し仮眠をとることにした。






〜・〜






「湊さん、どこに行くんですか?」


「昨日の本部もどき」




今日行くって言ってあるしな。


秋信、往焚、開理を連れて家を出た。

そのまま昨日行った本部もどきへ向かう。



建物の入り口に来たところで、迎えが来たようだった。




「やっほ、湊さぁーん」



もちろん、こいつへの対応はただ一つ。

"スルー"だ。




「えっ!ちょっ!俺ちゃんと存在してるよね?

おーい!待ってぇー!お願い!せめて名乗らせてー!」




後ろから俺たちについてくるウザい奴を、全員で協力して無視する。



昨日集められた部屋の場所は覚えているので、そのドアを開けた。




「あ…こ、こんにちは」




気まずそうな蒼が挨拶してくれる。

大地、るみ、澤部、千春、深春は俯いているが、晶は俺を睨んでいる。




「湊さん…せめて俺の存在を認めて…」



このウザいやつは蜘蛛のリーダー。

見ての通りすごくウザいので、必要がある時以外は存在しないものとして扱う。



「……荷物、まとめろ」



その辺にあった椅子に座る。

時間がないので、早めに出発しなければいけない。



「1時間が限度だ。説明は船の上でする」


「……湊さん。俺も?これは俺も?」




ウザい。いつまでたってもウザい。





「お前はどっちでもいい。

……正直いらないけど」


「あっらぁー!湊さんってば辛辣!

ま、頼まれなくてもついて行っちゃうもんねー」




そう、こいつはこういうやつだ。

どうしたらこんな奴がリーダーになるんだ。


まぁ、こいつの側近が優秀ということもあるだろう。



いつか、電話越しに話したことを思い出す。

生真面目そうで、緊急事態にもすぐに動ける。


こいつより100万倍は使えると思う。

…いや、比べるのも失礼な気がする。

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