第56話

「痛くなかった?」


「はい。ありがとうございます」


「……どういたしまして?」




何だこの会話…

というか、俺は何に対して感謝されたんだ?



「ふふっ。咲夜さん」


「……何」



実験されてるのにこの笑顔。

何されてるのかわかってないんじゃないのか…



「咲夜さん」


「だから、何?」


「明日も、お会いできますか?」


「……そりゃ、来るけど」


「待ってますねっ!」






……聖水に毒混入させてる気分なんだけど。







〜・〜





「ふわぁ……んー」


「咲夜、大丈夫か?…その、子守?」


「あー…」




ジュンは、やっぱり眠るのが遅かった。

けっきょく連日寝不足だ。




「楽生は?相手どう?」


「あー。なんか、泣かれた」


「あー、まぁ実験だからな」


「いや…そうじゃなくて」


「何?」




楽生の顔が曇る。

そんなに傷つくこと言われたのか。



「…….俺でよければ聞くよ」


「おっ、サンキュッ。

……なんかさ、かわいそうだって、いわれた」


「かわいそう?」


「あぁ。…誰がこんなことを、ひどい、かわいそうに、とか言って連日泣かれる」


「うわ…。それはそれで心が痛いな」




はぁ、と疲れたように楽生がため息をついた。

初日は軽くあしらっていたらしいが、連日泣かれると流石にきつい、と。


しかも理由がよくわからないという…




「俺もお前も、よくわかんないやつに当たったな」


「まぁ…。あの女の特殊が読心だからな。

俺は仕方ねぇよ。

俺自身に見えてないのがあの女には見えてんだろ」


「読心か…。なんかいやだな」


「お前の女も相当特殊だけどな」


「あぁ…。だろうな」


「……お前、まだ読んでないのか」


「……………」





この後、楽生に久々に説教をされた。







〜・〜






「咲夜さんっ!お疲れ様です」


「あぁ…。お前はいつも元気だな」


「ありがとうございます」




ふふふ、とジュンは嬉しそうに笑った。

いや、今のは嫌味だったんだけど…

ぜんっぜん褒めてねぇからな?




バフっとベッドに倒れこむ。

もう…無理。限界。





「咲夜さん、お布団入ってください。

風邪引いちゃいますよ」


「あー…」




疲れた。

眠い。




ふわりと毛布がかけられた。

それと一緒に甘い香りが漂う。




あぁ、やばいな。


この香り…





俺に毛布をかけようとしているその手を掴み、引き込んだ。




「えっ!咲夜さっ」




ぎゅっと抱き込み、その首筋に顔を埋めた。


甘い香りがする。

きつくない、温かみのある仄かな香り。




落ち着く。




唐突に触れたくなった。

もぞもぞとジュンの服に手を入れ、背中をゆっくりと撫でた。




「さっ、咲夜さん。たいちょっ、悪いんじゃ、ないですか?」




たまに裏返る声。

それがたまらなく煽ってくる。




いつ寝たのかもわからないが、気づけば朝だった。




どうやら俺は本当に体調が悪かったらしい。

起きた瞬間に38度の高熱にうなされた。



しかも、前日何したか全く覚えていない。




しかし…

ジュンの体には紅い華がいくつも散っていた。




……あれやったの、

俺なんだろうな…




もちろん楽生には休めと言わた。

自室厳禁な今、俺が休めるのはこの部屋だけ。




1日中ジュンが心配そうに寄り添われ、さすがに少し恥ずかしかった。





でも、薬で発熱したあの時に感じた虚しさは、

全く感じなかった。

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