第51話

「なぁ」


「はい」


「ついでに聞きてぇんだけど」


「なんでしょうか」


「……ゼロは、無名組織の残党についていったって聞いた。

……今何してるか、わかるか?」




AIが黙り込む。

なんでも知っているのなら、これも知っているかと思ったのだが。



「……あの方が、ゼロに子供を産ませようとしているようです」


「…………は?」



意味がわからない。

なぜゼロにそんなことを?



「あの方が憧れていた人の娘さんであるということと、あなたが大事にしている人だという理由ですよ」


「あいつが、憧れてた人?」


「えぇ。なんでも、特殊な目を持っていたらしいですね。

その能力を引き継いだ子供を産ませて使おうとしてらっしゃるのかと」


「相変わらずのクソ野朗だな」




ゼロのことだ。

何か対策はしているだろう。



「……1週間後って予告だったかが、ミサイルはいつくる?」


「………3日後、ですね」





AIは地図を取り出し、印をつけた。




「この日に私たちも動きます。

爆発が終わったら、この広場に行ってください」



印がつけられた場所は、ルナの本部からそう遠くない広場だった。





「………わかった」


「飛行機を使えるように手配しましょう」


「……いや、船でいい」


「それでは時間がかかりますよ」


「目立つよりはいいだろ。

燃料大目に積んで行く。操縦できるにはできるが、そこで疲弊するわけにはいかねぇから、お前らが運転しろ」


「わかりました。自動操縦にしておきます」




AIは、もう一つ印をつけた。

どこかの民家のようだ。


二階建てで、部屋数が多い。



「到着しましたら、ここでお過ごしください。

必要なものは揃えてあります」


「……わかった」






一通りの段取りが終わった後、今の世界の状況をAIから聞いた。



あとで秋信と往焚にも言おうと決めた。







「それでは、私はこれで…」


「あ、もう一つ聞きたいことがあんだけど」


「なんでしょうか」


「答えられたらで、いい…

あいつの親父の名前、なんて言うんだ?」


「……………」


「特殊な目を持ってるんだろ。

ゼロも不思議な目の色してるし」


「……特殊な目を持った方は、楽生(らい)という男でしたよ」


「そうか…

もう一人、あいつが嫌ってた俺の親父ってやつの名前は?」





AIは、悲しげに目を落とした。

機械がする表情ではない。



もしかして、そいつがAIたちを作ったのだろうか。





「……咲夜様、です」


「咲夜…」





覚えておこう。





「何故、お名前を知りたいと思ったのですか?」


「……なんでだろうな。なんとなく、気になった」


「そうですか…」




立ち去ろうとして、足を止めた。




待て。

俺の父親は開理だ。

組織にいたのなら、偽名でいたのだっておかしくはない。


だから咲夜と名乗っていても、おかしくはないだろう。




でも、このAIは咲夜の話をするときに泣きそうな顔をしていた。




咲夜は死んでいるんじゃないのか?


それなら、開理は……一体、何だ






「……湊様」





ハッと振り返れば、ピシッと背筋を伸ばしたAIがいた。

前で手を組み、執事のように頭を下げる。





「咲夜様は、咲夜様が愛した人とその子に、プレゼントを差し上げました」


「プレゼント?」


「はい…。最初で、最期の贈り物でした」




AIの瞳から、キラリと何かが溢れた。






「これを」






AIは、美しい装飾が施された箱を湊に手渡した。


大きさは片手分ほど。



桜が咲き乱れている、綺麗な彫刻がされた箱だった。





「……ここに、咲夜様と咲夜様が愛した人の形見が入っております。

手を血だらけにしながらあの子が手に入れた、唯一の遺品です」


「……あの子?」





よく見ると、小さな鍵穴がある。





そうか。あの鍵…








「これは、あの子が処分しようとしたものをかってに拾ったのです。

ご内密に」







AIは、右手の人差し指を唇に当てた。





それに頷き、俺は今度こそバーを出た。







ーーーこの箱には、きっと地獄と愛が詰まっている。

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