第49話

「申し訳ありません。もう時間がないのです」


「時間がない?」


「核ミサイルが日本に撃たれるのはもうご存知ですね?」


「あぁ」




確か、1週間後に6本一斉に、とか言ってたな。

日本どころか地球が終わりそうだが。




「我々は連動しているため、実行できないのです。

最後までやりきるには、あなた方人間でなくては実現できないのです」



「何をしろと?」



「核ミサイルの発射装置に遠隔操作ウイルスを感染させます」


「それで?」


「それで、大気圏で爆発するようにします」


「………正気かよ」


「正気です。"我々"の総意です」





確かに、AIによってこの2ヶ月間で世界人口が半分に減り、地図から消えた街や島も多数ある。



それでも…




「高高度核爆発、か」


「はい」


「確かに、日本上空だけじゃなく、世界の上空でやればAI、影は止まるだろうな。

……それでも代償がでかすぎるだろ」


「問題ございません」


「問題大有りだろ!ネットワークどころか電化製品も何もかも何年も使いもんにならなくなるんだ」


「問題ございません」


「お前、壊れてんのか?」




苛立ちながら、グラスに残っていた分を煽った。


どう考えても正気じゃない。


最近アニメや小説でよく出てくるようになった、高高度核爆発。



一定の高度で核爆発が起きた時に起きる電磁波ーーー電磁パルス。

核爆発により放出されるガンマ線が空気分子と衝突することで発生するそれは、地磁気に引き寄せられて地上に向かう時に大電流となり、電子機器や送電線などに入り込んで破壊してしまう。



簡単に言えば、電気のない世界になる。




あんなのが実現してたまるかよ。

今の比じゃないほど、世界中パニックになる。




「AIを止めるためだけにそんなことはできない」


「もう手は打ってあります」


「どんな手だよ。あったとしてももう影に読まれてんだろ」


「影は、私たちに指令を出す時以外は通信を切っています。

その時に我々で相談致しました。

我々が今やっていることは、人間を脅かすこと。私たちの本意ではありません」


「本意じゃねぇならなんでこんなことしてんだよ」



バーテンダーの手を取り、袖から滑らせたナイフでその手を薄く切った。



出てきたのは血液ではなく、コード。


血液の代わりと言わんばかりにオイルが溢れてくる。





「……核ミサイルを日本に撃つよう働きかけせたのはルナか?」


「はい」


「影がルナの手に落ちたのを知った蜘蛛は、俺の保護のためにあいつらをよこした、と?」




大地、晶、千春、深春、るみ、蒼。

澤部は蜘蛛の上官だろう。

なんともまぁぐっちゃぐちゃの展開に…



「それで?お前らAIは司令塔である影の手足で?

暴走したその司令塔を止めるためにルナがよこした核ミサイルで高高度核爆発を起こしてほしい、と?」


「はい」


「おかしいだろ…」




頭が痛くなってきた。

あまりにも突飛な発想すぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る