The made Life.

第44話

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「湊さん」




家についてリビングに入ると、秋信が俺に声をかけてきた。


往焚は足を負傷しているため、秋信が肩を組んで支えている。


秋信的には抱き上げて帰りたかったらしいが、往焚が猛烈に拒否した。





パーカーを脱ぎ、ソファに放り出した。

そのままソファに腰掛ける。



秋信は往焚を俺の向かいにあるソファに座らせながら話しかけてきた。



「ルナが妙な動きをしているみたいです。

それと、国際犯罪対策本部なのですが、日本支部はちゃんとあるのでしょうか?」


「日本支部はもうすでに海外に逃げたんじゃねぇの」


「え…」


「核ミサイルの宣言があった後、市民の国外避難をした。

そのあと一緒に国外に出た。

たぶんそうなってるはずだ」


「じゃっ、じゃあ澤部さんって何ですか?」


「あいつは蜘蛛だろ」


「……いつから気づいてたんですか?」


「バーで共闘の申し出があった時から」


「……………」




往焚に視線を移してみると、眠っているようだった。

近寄って足の様子を見る。



弾は貫通しているから、弾抜きをしなくていいのは幸いだ。

止血もうまくいっている。




「……湊さんはかっこいいですよね」


「は?」




なんだ突然。

気でも触れたか?


ガサゴソと棚をいじって薬を取りだし、秋信に投げる。

それを受け止めた秋信は、往焚のズボンを破って処置を始める。




「俺はいつも往焚さんに助けられてばかりで…

湊さんのように強くて、賢くて、グッドなタイミングで登場できたらいいのにと思うんです」


「………………」


「往焚さんは、俺には振り向いてくれません」


「………………」


「いつだってあなたの背中を追って、見つめて…

あはは…。すみません。八つ当たりですね」




俯いて苦笑を漏らしながらも、往焚の手当てを続ける。



傷のせいか、往焚は少し発熱しているようだ。

秋信がいれば大丈夫だろう。




「……振り向いてねぇのは、お前だろ」


「え……?」




ーーーー湊さん!聞いてくださいよ、幸架が!


ーーーー湊さん、どうしよう。幸架、俺をかばって…


ーーーー幸架、ごめん、幸架…っ




自分の傷を放置したまま秋信の出血を止めようと必死になっていた往焚の姿を思い出す。


止まらない、止まらないと泣きそうな顔をしながら、それでも諦めようとはしなかった。




「お前は見てるつもりで見てねぇだろ。

いつだって 弱気になってこいつに背中向けてんのは、お前だよ」




タバコに火をつけ、ふかす。






ーーーーゆらゆら、ゆらゆら







「……俺が?」


「………………」


「俺が往焚さんを見てないって言うんですか?」


「誰よりも見てんじゃねぇの?

……ただ、向き合ってねぇだけだ」


「向き合う?」


「そう。お前は往焚に背中向けたままだ」





ーーーーゆらゆら、ゆらゆら








「…なぁ。知ってるか?

羨望ってのは、好意じゃねぇんだぜ?」


「は……い?」






ーーーーゆらゆら、ゆらゆ…







脳裏に1人の男が浮かんだ。



いきすぎた羨望は人を狂わせる。

人格も、心も、思考までもが変わってしまう。






「……往焚が俺に感じてるのはたぶん、憧れであってそれ以上じゃねぇよ」


「……………」


「……俺は、お前らが羨ましい」


「え…。2人揃ってもあなたの足元にも及ばない俺たちを、ですか?」


「バカだな。

俺よりお前らの方がずっと、……」





ーーーずっと"人間"だろ。




こんな化け物みたいな、"俺ら"より。

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