第43話

息が苦しい。

体は熱いのに、寒気がする。



持ってきてもらえる食事にも手がつけられなかった。

心配してくれた研究員が俺に点滴を打っていったが、いつそれをしてくれたのかわからないほど意識が朦朧としていた。




ーーーーコンコン





「咲夜さん?失礼します」





研究員が食事を持って入ってきた。

点滴のおかげで少しだけ楽になった。




「あぁ…。悪いな。ありがとう」


「いえいえ!こんなことしか役に立てませんから…

お体はどうですか?」


「あはは…。想像以上にきついな。

楽生もこんななのか?」


「いえ、楽生さんはむしろ飄々としてらっしゃいますよ」


「………そうか。俺は薬が体に合わなかったんだな」




普段から体を鍛えている楽生とは違い、俺は体力もない。

こんな時に、日頃の自分を呪うことになるとは…




「点滴、新しいものに変えておきますね」


「あぁ。…助かるよ。忙しいのに、本当にありがとうな」


「いえいえ。……咲夜さんは、この世界にいる人間らしくないですね」


「は……?」


「あっ!いえ、違います!決して悪く言いたいのではなくて…」




俺の着替えを手伝ってくれながら、研究員が慌て始める。

初々しいその態度が面白くて、つい笑ってしまう。




「あははっ。大丈夫だ。別に不快に思ったわけじゃない」


「あ……よ、よかった…」


「……俺も、そう思うよ。俺は甘いな」


「……そうですね。いつかそれで身を滅ぼさないようにしてくださいよ。

俺たちは、あなた方2人だからついてきたんです」


「そんなに信頼してくれるなんて、先輩冥利につきるな」





体を拭いて着替え、点滴も新しいものに帰ると、研究員は部屋を出ていった。



小さな窓から見える外は雨だった。

本格的な梅雨に入ったのだろう。





ーーーーコンコン







再びノック音がした。

さっきの研究員がなにか忘れたのだろうか。





「はい。どうぞ」


「やっほ、咲夜」


「え、楽生⁉︎」




慌てて起き上がろうとしたのを楽生が制した。

お言葉に甘えて、そのまま横になることにする。





「お前、相当酷ぇな。大丈夫なのか?」


「あぁ…。そういう楽生はずいぶん楽そうだな」


「そうなんだよ。熱はまだあるけど、微熱程度だな」


「羨ましいよ」


「あはは」




わしゃわしゃと、楽生が俺の頭を撫でた。

優しい瞳で笑う楽生は、ほんの少し前までの彼に戻ったようだった。





「楽生」


「ん?」


「なんで、夕焼けは赤くなるんだろうな」


「は…?ブフッ!空が青いのはなんでだろうな、の次は夕焼けか!あははっ!」


「そんなに笑うことか?」


「お前は相変わらず変わってるなぁ」



穏やかな時間。

緩やかな日々。

和やかな会話。




変化なんていらないから、こんな日々がずっと続けばいい。

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