いつかの想い出

『あんたなんか産むんじゃ無かった!』


それは母が毎日僕に浴びせてくる言葉。

……僕にはお父さんが居ない。

僕が小学5年生の時に自殺したからだ。

キッカケは電車での通勤中に痴漢の罪に問われた事だった。

もちろんお父さんは容疑を認めなかったし僕もそれを信じていた。


───でも、世間はそうじゃなくて……

被害者である女性の言うことを一方的に信じていたんだ。


そして弁護士という信用の問われる職業に就いてたが故に事件はどんどん広まってしまった。僕は学校で性犯罪者の息子としていじめを受けることになったし精神を病みきった父さんは首を吊って死んだ。

同じ様に精神を病んだ母さんはお酒に溺れて今では暴力を振るう様になってしまった。

今の生活に昔のような面影は無い。




「や〜い犯罪者の息子!」

「出てけ出てけ!」

「近寄らないで!」


僕には学校での居場所が無い。

こんな目に遭ってるのにどうして先生は助けてくれないのだろうか。

先生はよく女性の権利についての話をするけど、もし僕が女の子なら助けてくれたのかな……





最近、知らない男の人が家に来るようになった。新しいお父さんになるかもしれない人らしい……けど僕の事が嫌いらしくて最近では母さんの僕への当たり方も強くなってきた。今の僕の家での居場所は母さんが閉じ込めてくる暗いクローゼットの中だけ、他に居場所は無い。




「死にたいな……」


本当に死にたい。学校では虐められて、家では居場所が無くて、それなのに誰も助けてくれない。辛い。もう嫌だ。誰か、助けてよ……

でも、きっとこれが父さんの体験した気持ちなんだよね……




───でも、ある時こんな毎日が変わる日が来たんだ。

学年が上がって五年生になるとクラスが新しくなった。そこで幼なじみの瑠璃ちゃんと同じクラスになったのがキッカケだった。

瑠璃ちゃんとは登校班は同じだけど小学校に上がってからは一度も同じクラスになったことは無かった。


でも、そんな瑠璃ちゃんは僕をイジメから守ってくれたんだ。

それは、イジメてくる人に直接どうこうするってことじゃないんだけど……とりあえずいつも一緒にいてくれるんだ。

でもそれだけで1部の人は直接危害を加えなくなってくれた。

瑠璃ちゃんも父さんの件は知ってるはずなのに優しくしてくれて、救われた。





瑠璃ちゃんは優しい。それでいて可愛い。

だからクラスの男の子からもモテるんだ。

だからこそ瑠璃ちゃんと一緒にいる僕は別の理由でも虐められるようになった。

でもそれは直接的な方法じゃない。

きっと、それは僕を虐めてるって知れば瑠璃ちゃんに嫌われると思ったからだと思う。


それは悪口とか陰口から始まって、僕の椅子の上に画鋲が置かれていたり、机の引き出しの中にゴミや虫が入れられるってレベルが上がって行ったんだ。

けど、瑠璃ちゃんは僕のためにまた動いてくれた。


そう、休み時間の間は瑠璃ちゃんがずっと僕の席に座るようになったんだ。

そしたら、椅子に画鋲が置かれることも無くなったし引き出しにゴミが入れられることも無くなった。

それに加えてよくからかってくるようになった。

本人は『私だけが光君をイジメる、他の人はイジメないで』って言ってたからこれも僕の為だ。

そんな風にからかってくる時は少し悪そうな顔で僕を笑ってくるけどイジメられてる気分にはならなかったんだ。


イジメと、からかいの差をこの時に初めて分かった気がする。




瑠璃ちゃんのお陰で学校は良くなったけど家では居場所がないまんまだ。

毎日家に帰ればクローゼットだ。

ご飯もあんまり食べさせて貰えないし、暴力がまた増えた。

それでも、瑠璃ちゃんがいれば生きていけるって思えたんだ。




───でも、問題は夏休みに入ってからで……1ヶ月もまともにご飯を与えられないでずっと閉じ込められるなんて耐えられないから。


『───君、光君!』


クローゼットに閉じ込められた僕を助けてくれたのは、また瑠璃ちゃんだった。

どうやら数日前から、遊びに誘いに来ていたらしいのだが連日流石に返事がないことに違和感を覚えて親に頼んで警察を呼んでもらったらしい。


この1件以降、母さんは育児放棄が発覚したことで捕まってしまって……僕は施設に入ることになったけど、最初の内は極度の大人不信から施設ではまともに暮らす事が出来なかった。

施設のクローゼットか押し入れに常に篭ってしまっていたんだ。

長い間、そこだけが僕の居場所だったからこそ1つの安心できる場所になっていた。


……そんな僕だけど瑠璃ちゃんの家に一度泊まった事があった。

だけど僕は瑠璃ちゃんの家そこでもクローゼットの中に隠れてしまって……

でも、瑠璃ちゃんはクローゼットに隠れた僕をすぐに見つけてこう言ったんだ。

『怖くないから、大丈夫だよ』って。

それが凄く嬉しくて……


───僕にとって、瑠璃ちゃんは人生の全てだ。それはずっと変わらない事だと思う。

きっと、僕はもう瑠璃ちゃんが居ないと生きていけない。

施設に入る前、警察に話をした時……学校で虐められてないかも聞かれた。

でも僕は『虐められてない』って答えた。

多分、この時に本当の事を言えば虐めは全部無くなっていたと思う。

けど、イジメこれは僕が瑠璃ちゃんと一緒に居るために必要な物だから……


そう、僕だけが瑠璃ちゃんとずっと一緒に 居るために。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

BSS〜僕の方が先に好きだったのに ゆずリンゴ @katuhimemisawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画