BSS〜僕の方が先に好きだったのに
ゆずリンゴ
幼なじみに彼氏が出来た
「私、彼氏が出来たんだよね」
それは僕、
いつも通りに僕の席を占領して、いつもの様子で話しかけてきた
「う───」
「今回は嘘じゃないよ」
幼なじみである瑠璃とは昔からの付き合いであり、ことある事にからかわれるのだが『彼氏ができた』と言って僕の反応を面白がることがよくあった。
───が、今回は違かったらしい。
「そっか」
「うん、だから今日からは一緒に帰らない」
「……そっか」
「
(こくん)
ただ1度だけ頷いて瑠璃の言葉を肯定する。
月下と言うのは隣のクラスにいる有名な男子だ。それは言い意味でもあり悪い意味でもある。サッカー部のエースである反面、色々な女に手を出す事で有名であり、そんな噂は僕が知っている時点でほとんどの生徒も知っている事だ。
「どっちから告白したの」
「槍人から」
「なんで」
「なんでって何が?」
「なんで断らなかったの」
月下が噂通りであれば、きっと他の女と現在進行形で関係を持っている。
そんな奴からの告白を瑠璃が何故受けたのかが分からない。
「……なに、槍人と付き合うなって言いたいの?」
「だって……噂」
「私は他の女とは違う。ほら、これ」
そう言うと左指の薬指に輝かせる指輪を見せつける様にする。
だがその指輪のサイズは瑠璃には合っているようにはとても見えない。
「分かったら槍人を疑わないで」
「ごめん……」
「光と違って槍人は───」
その後は一方的に月下に関する話をされたが瑠璃から紡ぎ出される言葉が入ってくるのをシャットする様に小説に意識を集中させた。そんな僕の様子がつまらなかったのか、気がつけば瑠璃は僕の椅子から姿を消していた。
いつもなら昼休みの終わる5分前に鳴るチャイムまでは離れることは無かったのに。
交際している事を告げられた日から数日が経つと僕の常識はガラリと変わっていた。
いつの間にか瑠璃が昼休みに話しかけることは無くなり、僕は図書館で本を読むようになった。
帰りも常に1人になって、傷も増えた。
不定期ではあったが週に一度はあったLINEでの会話も無くなった。
でもそんな事よりも、何よりも、瑠璃自身が変わっていた。
校則で禁じられている訳では無いが以前までは付けていなかった派手なつけ爪、前までは黒くて美しかった髪は金髪で、身だしなみが変わったことでうっすらと見える様になったうなじからは、赤い跡が付いていて───
◆◆◆
ある日の帰り道、最近ではひと目見ただけで分かるようになった後ろ姿と知らない姿が視界に写った。片方は高身長でガタイのいい男───月下でもう片方は内の学校とは違う制服を身につけた女。
月下の手は女の肩の後ろを抱くようにしていて、その距離感は普通の関係の男女では無いことを意味している。
……だが、そこに瑠璃の姿は見えない。
サッカー部の活動が終わる時間は遅いが、それでも瑠璃と月下は一緒に帰っているのに。
ならば……もしかすると、瑠璃は振られたのかもしれない。そうでなくとも瑠璃の目を覚ます事が出来るかもしれない。
そう考えると僕はスマホを取り出した。
───次の日、瑠璃の席の前に立つと僕はスマホに保存された1枚の写真を見せつけた。
「何」
「この写真、月下と一緒にいる人」
「……」
「瑠璃、月下と別れた?」
「別れてない!」
僕の言葉に怒りを覚えたのか瑠璃は胸ぐらを掴んで睨みつけてくる。
「謝って!」
「……」
「謝れ!」
「ごめん」
「妹、この写真に写ってるのは妹なんだから」
あぁ、瑠璃はもう僕の知っている瑠璃では無いのかもしれない。
もう僕の知っている瑠璃は居ない。
それならば、せめてこれ以上瑠璃が汚れる前に───
それから僕は準備を整える事にした。
瑠璃の家の合鍵を作り、瑠璃の両親が居ない日を探り、月下が瑠璃の家に入る日を調べて。
これから僕は計画してきた事を決行する。
───ただ、この準備期間の時、たった一度でも瑠璃から連絡が来ていたら変わっていたのだろうか。
そんな事が起こりえないのは分かってたけど……それでもマナーモードにしたスマホの振動が知らせてくれた連絡が、たった一度でも瑠璃からだったのならと考えてしまうのだ。
かくして計画のために瑠璃よりも早く家に向かって瑠璃の自室のクローゼットの中に僕は隠れる。
不自然な点があれば不味いからと部屋の電気は付けずにカーテンも閉まったまま、ただ時がくるのを待つ。
そうして、数分ではなく、もっともっと長い時間がクローゼットの中で流れた頃。
家の鍵が開けられた音が鳴り、扉が開かれて、足音で近づいて来るのを聞き、瑠璃の部屋の扉が開いた。
「はぁ〜疲れたぁ〜」
「なぁ、マジで今日は1日親いねぇんだよな?」
「いないよ」
「じゃあ、1日中できるな」
「もう、槍人ったら」
部屋の明かりがつくとそんな会話が始まる。気持ち悪い。
「じゃあ、私は先に着替えるから槍人は先にシャワー浴びてよ」
……
「あ?そんなんめんどくせーからさっさとヤろうぜ」
「槍人が言うなら……」
「ゴムは無くてもいいよな?」
「うん」
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い───
……クローゼットの隙間からは全裸となった瑠璃と月下の姿が見える。
本番が始まると、僕が知らない瑠璃の声が、瑠璃の表情が、クローゼット越しに見えて……
そんな瑠璃の月下にまたがってよがる姿を僕は真っ直ぐ見れずにいる。
それなのに、僕の知らない瑠璃の姿がクローゼットの隙間に切り取られてるのを見て、『それが1枚の写真みたいだ』なんて考えている。
こんな目の前で繰り広げられてる事が自分にとっても
だから、終わらせよう。
(ゴトッ)
僕は2人が気づくようにクローゼットの中で物音を立てた。
「オラッ!イ───ん?なんか変な音しなかったか?」
「気のせいじゃない?」
(ガタ、ガタ、)
「いや、やっぱ音するぞ?」
「もしかして、クローゼットの中崩れちゃったかな……槍人が激しく動き過ぎたせいかな」
「おいおい、俺のせいかよ?」
「ごめんごめん」
(ガタッガタッ)
「……流石におかしくねぇか?」
「そうかなぁ?」
「ちょっと、開けて見ろよ」
「え〜怖ーい」
(ガラガラ───)
「また、開けてくれたね瑠璃……」
「ひ、ひか……る?」
クローゼットの扉が開いたのを確認するると瑠璃の腹部に包丁を突き立てた。
「瑠璃、大好きだよ」
◆◆◆
『今朝、○○県○○市の自宅にて3人の高校生と見られる遺体が発見されました。
早朝帰宅した家の家主によって通報され、調査の結果その時点で死亡時刻から数時間が経過していた事が分かっています。遺体となったのは男性2人と女性1人で、そのいずれにも刃物による損傷が見られており、女性は刃物により急所を1突き、現場の様子から男性二人にはもみ合った跡も見られ───』
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