廃村

@ruuki

第1話

高校1年の土、日、月の三連休初日、秋も過ぎ、そろそろ冬に入ったかという時期に、僕はそこへ行った。何かしようというわけでもなく、べつにそこである意味もなかった。

ただ人のいないところへ行きたかった。

誰の意識にも入らないところに行きたかった。理由なんてなかったけど、若者とはそういうもののはずだ。ひんやりと肌を刺す空気、忘れることなく繰り返す潮騒、僕を呑み込もうとしている曇夜、そのどれもが心地よかった。

願わくばここにずっといたいと思った。ここで波を監視する波止場になってしまいたかった。

今思えば若者特有のイキりのようにも思えるが、その時は心からそう思った気がする。

まあそんな気持ちは2,3時間もすれば柔らぎ、

現実へ向けてまた歩き出す覚悟を作ろうとしていた。そこは家から特急電車で4.50分程度と20分歩いた先にある田舎で、同じ様な道が多い。帰ろうと思ったが生憎スマホの充電は切れていて、僕は駅までの道がわからなくなった。時刻はもう深夜3時をまわる頃だったので人に聞くわけにもいかずどうしようかと思ったが、自分がどんな心持ちでここに来たかを思い出し、どうでもよくなった。ふと思って散歩をすることにした。海岸線を3回ほど疲れるまで歩けば、漁師が仕事に出てくるだろう。その人に駅の場所を聞けばいい。海から吹くしょっぱい風がなんとも気持ちよく、将来はこんなところに住みたいと思った。猛々しく生い茂る葦を抜けると、少し違った風景が広がった。家はぽつぽつとあるが、人の営みの影がない。誰もここにいる気がしない。まるでいきなりダムに沈んだ村の様に、生気のない場所だった。この夜初めて心の中に恐怖が生まれた。それまで深い暗闇の中にいても全く怖くなかったが、一度芽吹いた恐怖は止められない。一気に体を駆け巡り、僕はその場から動けなくなった。だがそれに匹敵する落ち着きを感じた。そこは人が絶対に踏み入ってはいけない場所に感じたが、それと同時に、僕らが本来居るべき場所、いつも此処に居た場所のような感じもした。引き返そうとも思ったが、一度戻れば二度と此処へは来れない気がして、勇気を振り絞り進んでいく。

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