第17話 お泊り合コン、最後の夜

 もう外は真っ暗になっている。明日の昼には、迎えの漁師の船が来るのだ。このまま、事件が解決しないで明日の昼を迎えれば、恐らく犯人は捕まえる事は出来ない。


 俺もクルスも、そう感じている。それに、犯人を一刻も早く捕まえないと、第四の殺人が起こるかもしれないのだ。これ以上、美女が死ぬのは耐えられない。俺はクルスの方をじっと見て、相棒の動向をうかがう。


「僕とサークさんは、ほとんどの時間、一緒に居ました。お互いにアリバイが証明が出来ます。皆さんがどう時間を過ごされていたのか、知りたいです。教えて下さい」


 クルスのその言葉に、ラウナが反応する。


「私はそこのジサンとバサンと三人で、ずっとリビングに居たよ。その二人に確認してもらってくれ」


 老夫婦は二人とも口を揃えて、そうですと言っている。クルスは、残りの二人の顔を交互に見る。


「ゴメンなさい。私はずっと一人で部屋に居たので、アリバイを証明して頂ける方がいません」


 レミカが重々しく口を開く。アイシアもレミカをチラリと見た後、申し訳なさそうに応える。


「私もです。部屋に一人きりだったので」


「そうですか。エミノールさん殺害に使われた凶器は、どうやらこの建物の台所のナイフのようです。ジサンさんとバサンさんが紛失していると言っています」


 クルスの言葉に老夫婦は頷く。クルスが話している間、俺は全員の顔をじっと観察する。


 何か表情に変化はないのか? 違和感を感じろ。犯人を見つけるんだ。


 しかし、何も見つけられない。全員が怪しくも見えるし、全員が本当の事を言っているようにも見える。


 クルスは腕組みをして、考えている。そして、天を仰いでから、全員に言葉を掛ける。


「スミマセン。今の僕では、犯人が誰か特定出来ません。このまま全員でリビングで寝泊まりして、朝を迎えましょう。少なくてもそれなら、次の犠牲者が出ないと思いますから」


 クルスのその言葉で、場は再び重い空気に包まれる。犯人が誰か分からず、その状況で犯人と共に朝を一緒に過ごさないといけないのだ。犯人以外の人間からすれば、かなりのストレスとなるであろう。


 俺達は二人ずつ交代で、見張りを立てる事にした。見張りの順番は、ジサンとバサンの老夫婦、次にクルス、レミカの二人、そして俺とアイシアのコンビとなった。


 ラウナは一人だけ、見張りが免除となった為、申し訳なさそうな顔をしていた。


 見張り以外の人間は、毛布にくるまりながら、ソファーや椅子などに腰掛けて仮眠を取る事にした。俺は椅子に座って五秒も立たない内に、意識がなくなり、睡眠状態となった。


 俺が気持ち良く寝ていると、トントンと俺の肩を叩く者がいる。何だよ、邪魔すんなよと、俺はいら立ちを感じ、薄目を開ける。


 肩を叩いて来たのは、アイシアであった。


「サークさん、見張りの番ですよ。起きて下さい」


 彼女の声で、俺は飛び上がるように起きる。どうやら数時間、俺は爆睡していたようだ。


 そうだ、美女に起こされたのだ。起きない訳にはいかない。俺はそう思い、立ち上がり、アイシアに挨拶をする。


「おはようございます、アイシアさん。もう、朝なのかな?」


「違いますよ。見て下さい。まだ、真っ暗でしょ? 私達の見張りの番ですよ」


 俺は周りを確認してみる。窓の外は確かに真っ暗だ。他の周りの人間は、椅子やソファーに腰掛けて寝ている。


「そうだったっけ? アイシアさんは眠れたの?」


「いえ、全然眠れなかったです。サークさんは熟睡してましたよ。イビキもかいてましたし」


 アイシアがクスクスと笑いながら、俺の方をチラリと見る。俺は照れたような顔を浮かべ、右手で頭をかく。


「ゴメンね。うるさかった?」


「あ、少しだけ。でも、大丈夫ですよ。逆に、今の緊張した空気が和みましたから」


 彼女は優しく微笑んで返す。俺はドキドキしながら、アイシアを見つめる。


 これってスゴくいい雰囲気じゃねぇのか? まさか、ここからの大逆転か?


 俺はそう感じ、勝負だと思い、アイシアにドンドン話し掛けていく。アイシアも最初の頃とは違い、俺に笑顔で接してくれている。


 仲良くなって来ている。女の子と、かなり。自然な流れだ。


 歴代の合コンの中で、今ほど女の子と自然にいい感じで話せている事はなかったと、俺自身感動してしまう。


 アイシアとの楽しいひと時が、あっという間に過ぎる。そして、うっすらと窓の外が、明るくなって来ている。お泊り合コン最終日の朝が来たのだ。


 俺とアイシアの見張りの番も終わろうかとなった時に、リビングにいた全員が次々と起きて来る。そして、順番にトイレに行ったりする為に、リビングを退出したり、戻って来たりしている。


 全員、何事もなく死なずに済んだな。このまま迎えの船が来て、無事に帰れるかな?


 俺は少し安心をして、アイシアをチラリと見る。


 ちょっと、待て、サークよ。無事に帰るのが目的じゃねぇだろ? 彼女を作る事が目的だろ? 諦めるな。まだ、船は来ていない。それまで、チャンスがある。アタックし続けるんだ。


 俺は再び、気持ちを奮い立たせ、アイシアへと近付く。すると、リビングを退出していたクルスが、慌てて俺の方へと走り寄って来る。


「サークさん、大変です。エミノールさんの部屋から、告発文が見つかりました。その文に、この殺人事件の犯人の名前が書かれています」


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