第16話 アリバイ
「な、何だと? という事は、エミノールさんが犯人に殺されるという事なのか? 早く助けに行かないと」
俺は興奮し、急いで部屋を出る。そんな俺を追い掛けるように、クルスが走って付いて来る。
「サークさん、エミノールさんが犯人だという可能性もあります。気を付けて下さい」
「俺が殺されるワケないだろ? 大魔王を倒した男だぞ」
「でも、美女には弱いですよね? 殺人犯が美女の場合でも、大丈夫ですか?」
そう問われると、俺は何も言えなくなる。確かにその場合、殺されるかもしれない。俺は美女にメチャクチャ弱いのだ。
俺とクルスは、三階のエミノールの部屋の前に辿り着く。ドアを激しくノックする。が、返事がない。
「美女のピンチ。ドアをぶち壊すぞ」
俺はドアを蹴り飛ばし、ドアを吹っ飛ばす。そして、俺達はその勢いのまま部屋の中へ入る。しかし、エミノールはこの部屋には居ない。
「エミノールさんが居ない。まさか……」
「違う場所を探しましょう。嫌な予感がします」
クルスと俺は再び、一階へと下りる。気が付けば、夕暮れから夜へと変わり始めている。俺はエミノールとの約束を果たす為に、必死で彼女を探し続ける。
俺は建物の外に出て、その周辺を探す。中はクルスが探しているので、ほぼ見落としはないだろう。俺は建物の裏手に回る。
木の間から倒れている人の足が見える。窓や玄関などから死角になっている為に、注意して探さないと見つからないような所だ。俺はその倒れている人に急いで走り寄る。
倒れていたのは、エミノールだった。血を流して、うつ伏せになっている。俺は急いで駆け寄り、彼女を抱き起こす。
喉に鋭利な刃物で一閃されたような、そんな切り傷が見える。そこから、おびただしい血が吹き出した後が見られる。素人の俺にも、彼女が死んでいる事が分かる、それほどの無惨な明らかな状態であった。
「エミノールさん。うわあああああ」
俺は頭が真っ白になり、叫んでいた。その叫び声が自分の物かどうかも分からないくらい、俺は気が動転していた。
約束したのに……。朝まで守るって約束したのに……。
後悔の念が俺を襲う。俺がずっと彼女の横に居たなら、こうはならなかった。
俺の叫び声を聞いて、クルスが駆け付ける。そして、他の女性達や老夫婦もクルスに続いて、やって来る。全員、絶句し、うつむき呆然としている。
許さねぇ、許さねぇぞ。初めて、彼女が出来たかもしれなかったのに。犯人は俺が捕まえる。絶対に。
クルスが俺の肩を無言で叩く。恐らく、現場検証するから、代わってくれという意味なのだろう。俺は抱き抱えていたエミノールをゆっくりと下ろし、再び地面に寝かせる。
クルスは、エミノールの死体をじっくりと観察している。俺は悔しくて、拳を握り締め、それを見ている。
「喉をナイフのような物で、切り裂かれてます。切り傷は一つしかありませんね」
「プロの犯行だ。素人では、こんな殺し方は出来ない。後ろに回って、一瞬で殺したんだ」
俺はそう返し、後ろの他の人間をチラリと見る。ラウナ、レミカ、アイシア、そして、ジサンとバサン。
この中に犯人がいる。間違いない。
みんな、怯えた顔をしている。しかし、一人だけは演技なのだ。三人の命を奪った連続殺人犯が潜んで居るのだ。
俺とクルスは、エミノールの遺体を建物の中へと運び、ベッドに寝かせ、毛布を掛ける。そして、俺達、生きている人間はリビングへと集まる。
「今夜は、みんなで寝泊まりしましょう。三人もの人が殺されてます。これ以上の犠牲者を出さないように……」
クルスがみんなの顔を見回して、声を上げる。みな、うつむいて黙っている。全員、今の状況に疲れているようだ。
俺も椅子に腰を掛け、考える。
エミノールはなぜ殺されたのか?
エミノールが殺される前に言っていた事を俺は思い出す。
犯人が分かったかもしれない。調べたい事がある。彼女はそう言って殺された。
殺害方法も、前者の二人と違い、毒殺ではなく、斬殺。
犯人はターゲットの二人を殺した事で、目的を果たした。そして、殺す相手が居なくなった為、必要の無くなった毒を処分した。しかし、エミノールを殺さなければならなくなった為、やむなく刃物で喉を切って殺した。
エミノールさんは、犯人も当初、殺す予定がなかった? では、なぜ殺された? 犯人が分かったから、殺された? なぜ、犯人はそれを知った? エミノールさんが犯人と接触した? だから、殺された?
頭が爆発しそうだ。やはり、考えるのは向いていない。
隣のクルスも、うつむいて考えている。そして、クルスは立ち上がり、再び全員を前に声を上げる。
「エミノールさんの死亡推定時刻は、皆さんがエミノールさんの部屋を離れてから、建物の裏手でエミノールさんの遺体を発見する間です。この間の皆さんの行動をお聞きします。つまり、アリバイ証明が出来なかった方が犯人です」
全員が驚きの顔で、顔を上げる。クルスはこの場で犯人を突き止めるつもりだ。
俺は、アリバイの意味が分からなかったが、分かったフリをした。クルスに、また怒られるのがイヤだったというのは言うまでも無い。
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