第13話 最強の男、やる気になる
「トリック? つまり、どうやってマルノオを毒殺したかって事か?」
俺は首を傾げ、クルスに訊く。
「そうです。サークさん、これを見て下さい」
クルスは床の一部分を指し示す。その床には、直径五センチほどの円のような形の線が描かれている。クルスはその円の線の部分を掴み、それを持ち上げる。
すると、円の部分の床が抜け、円柱状の物が取り出される。取り出されて抜けた箇所は穴となって、下の部屋とつながる。その穴からは二階のマルノオの部屋が覗き込める。先ほどベッドを動かして、置いたハシゴが俺の視界に入る。
「これは、何だ? 覗き穴かよ? 下の部屋に居るのが女の子なら見たいけど、男の部屋だったら見たくねぇよ」
「違いますよ。犯人はここから下の部屋で寝ているマルノオさんに毒を垂らしたんですよ」
「何だと? 俺なら、そんな事しないで、女の子の部屋に覗き穴を作るけどな。そっちの方が興味あるしな」
「サークさんの興味は、今はどうでもいいです。犯人はそうやって、何度もマルノオさんの顔を狙って、上から毒を落とし続けたんですよ。何回かしてる内にマルノオさんの口に毒が落ちて、マルノオさんは毒を舐めてしまったんです」
「ふーん、それがトリックか? まぁ、俺はそんな毒、舐めても死なないけど。で、犯人は、誰なんだよ?」
「うーん、まだハッキリとは分かりませんが、可能性が高いのは、三階に居た女性達ですかね?」
「待て待て、俺の中では、女の子は殺人犯として疑ってはいけないというルールがあるのだが……」
「そんなルール知らないです。もちろん、ジサンさんとバサンさんも夜中に、この部屋に侵入する事は可能ですから、まだこの二人も容疑者の疑いはあるんですけど」
女の子の中に犯人がいるのか? 俺はその可能性に難色を示す。
今、島に生きている人間は八名いる。俺とクルスを犯人から除外すると、老夫婦のジサンとバサン、そして、女の子の四名の内の誰かという事になる。
俺は首を大きく横に振る。
俺はこの島に殺人事件の謎解きをする為に来た訳では無い。女の子と仲良くなって、彼女を作りに来たのだ。それが、このお泊り合コンの目的なのだ。
正直、殺人犯が誰かなど、俺にとってはどうでもいい事なのだ。しかし、弟子でもあり、友人のクルスが頑張って事件を解決しようとしているのを俺は無視出来ない。
それにだ、事件解決に少しでも加わっていれば、俺もモテるかもしれない。そう考えてしまう醜い自分もいる。
俺は再び、クルスをじっと観察する。クルスは腕組みをし、考え込んでいる。そして、俺と目が合い、思っている事を口にする。
「サークさん。犯人を特定する為に、今から手荷物検査を全員でしたいと思うんですけど、どう思いますか?」
「それって、女の子の私物もチェックするって事なのか? 俺は正直、彼女達の手荷物の中身が見たい。女の子達が何を持って来てるのか知りたい。ぶっちゃけ、下着が見たい。しかし、女の子に嫌われたくない。お前だって、レミカさんに嫌われたくないだろ?」
俺の言葉で、クルスがうつむく。しかし次の瞬間、顔を上げ、クルスは応える。
「このまま犯人を野放しにしていたら、次の犠牲者が出るかもしれません。その犠牲者が彼女達だったら……」
クルスの言葉で、俺は目が覚める。
そうだ、そうなのだ。女の子達が殺されてしまったら、付き合う彼女が居なくなる。俺は絶対、後悔してしまう。俺は謎解きに協力的になろうと心に決める。
「よし、クルス。みんなを集めて荷物検査をしよう。そこで、毒が見つかったら、事件解決だ。そして、事件が解決したら、合コンを再開するんだ」
俺の闘志に火が灯る。俺達は急いで、リビングへと向かう。そして、リビングにいたみんなに事情を説明し、手荷物検査と部屋の中の捜索を打診する。
女の子達は渋い顔をしていたが、状況が状況だ。仕方ないという表情で、全員が応じる。
「部屋に閉じこもっているエミノールは、どうするんだい?」
ラウナが俺達に聞いて来る。
「後で、みんなでエミノールさんに説明して、了解を得ましょう。それでは、一階のジサンさんとバサンさんの部屋から」
エミノール以外の全員で、荷物検査と部屋の捜索を始める。さすがに女の子のカバンの中身を、男が見るのは勘弁して欲しいという事だったので、女の子の持ち物検査は女の子同士でする事になった。
「毒なんて、誰も持ってなかったですよね?」
レミカが不安そうにクルスに話している。アイシアも俺の所に近寄って来て、言葉を漏らす。
「この中の人が毒を持ってなかったって事は、残りのエミノールさんが……」
そうなのだ。エミノール以外の手荷物検査と部屋の捜索をした結果、殺しに使われた毒は見つからなかったのだ。つまり、今、現時点で一番怪しいのは、エミノールという事になる。
俺達は再び、エミノールの部屋の前に立ち、クルスがドアをノックする。
「エミノールさん、今からあなたの部屋と手荷物を検査します。開けて下さい」
「イヤよ。その中に犯人が居るんでしょ? 殺されちゃうわ」
ドア越しで、エミノールが応える。絶対に開けないという意志が伝わる。
「このままだとあなたが犯人だと、疑われてしまいますよ。お願いですから、開けて下さい」
ドアを隔てた状態で、クルスはエミノールの説得を始める。エミノールはしばらく沈黙をした後、意外な条件を突き付けて来る。
「分かったわ。手荷物検査と部屋の捜索の許可をするわ。ただし、部屋に入っていいのは一人だけ。サークさんだけよ」
俺は目をパテパチさせ、その場で固まっていた。
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