第11話 二日目の朝
俺は自室のベッドの上で、目を覚ます。もちろん、この部屋には俺しか居ない。独りぼっちだ。
まだ、今夜がある。チャンスはまだあるぞ、サーク。諦めたら、そこで合コンは終了だぞ。
今日こそは女の子と仲良くなり、同じ部屋で夜を過ごすぞと、俺は心に誓い、ベッドから身体を起こす。
そして、一階のリビングに行く為に、階段を下りて行く。すると、三階から下りて来る人の物音が聞こえる。
三階から下りて来るのは、女性しかいない。俺はその女性に声を掛ける為、女性を階段の途中で待つ事にした。
下りて来た女性は、アイシアだった。
俺達、やっぱり運命で結ばれている二人じゃないですか? だから、こんな偶然が起こるんですよ。俺は幸せッス。
俺はウキウキしながら、アイシアに声を掛ける。
「アイシアさん、おはようございます。昨日は、よく眠れましたか?」
「いえ、やっぱり恐くなって、眠れませんでした。サークさんは、眠れたんですか?」
「はい、熟睡です。メチャクチャ体調もいいです」
俺は笑顔で、元気良く、爽やかに応える。すると、アイシアは苦笑いし、また困った顔をする。
しまった……。
通常の人間の感覚であると、殺人事件に巻き込まれると、眠れなくなってしまうものなのか? 俺はまた失言をして、変態ぶりを美女に見せ付けてしまったのではないのか?
いかん、嫌われる。
今、さっき、美女と熱い夜を過ごすと誓ったところではないか。サーク、早く軌道修正するのだ。美女からの好感度を取り戻すのだ。今夜の熱い夜の為に……。
俺は頭を横に振りながら、脳を活性化させようと試みる。隣のアイシアが不審そうな目で、俺を見ている。俺はそんな彼女に対して、笑ってごまかす。
二人で一緒に一階に下りると、すでにリビングには人が集まっていた。居たのは、クルス、レミカ、ラウナの三人だった。そして、クルスは俺達二人を見ると、笑顔で側に近付いて来る。
「おはようございます。ご無事で何よりです。これは、アイシアさんに言ったんであって、サークさんには言ってないですからね。サークさんは、殺そうとしても死なない人ですから」
クルスがメガネを上げながら、イタズラっぽく言ってくる。
いや、俺も戦闘では、死ぬとかは全然思った事ないけど、合コンでは何回も死に掛けたぞ。何回、女の子に思わせぶりな態度を取られて、ショックを受けて心臓が止まりそうになった事か。
俺はどうでもいい事を思い出す。すると、台所の方から、ジサンとバサンの老夫婦が現れる。
あれ? ここに来てないのは、イケメンの殺し屋マルノオとナイスバディのねぇちゃんエミノールだけか。
俺がそれに気付くと、クルスと目が合う。クルスも、俺と同じ事を気にしているみたいだ。
「マルノオさんとエミノールさんが、まだ来てないみたいですね。さすがにいい時間なので、起こしに行きましょうか?」
クルスの提案に、皆が頷く。そして、何か嫌な予感が全員の脳裏をよぎる。そんな予感を払拭するように、俺はあえて明るく振る舞う。
「じゃあ、エミノールさんの部屋から行きましょうか? 我々男性陣も行っても構いませんか?」
俺は、女勇者ラウナの方をうかがう。ラウナも無言で頷く。さすがに女性陣ばかりで見に行って、非常事態が起こっては大変だと思ったらしい。すんなり許可が下りた。
やった。女性の部屋へ大義名分を持って入れる。
俺はノリノリで、三階へと上がって行く。後の全員もそれに続く。そして、エミノールの部屋の前へと俺達は辿り着く。
代表して、ラウナがエミノールの部屋のドアを軽くノックする。しかし、返事がない。ラウナは慌てて、激しくドアを叩き出し、大きな声を上げる。
「エミノール、開けておくれ。もう、朝だよ。無事なのかい?」
しばらく待ってみるが、返事が返って来ない。全員の顔が凍り付く。嫌な空気がこの場を包み込む。
美女のピンチだ。早くドアを開けて、助けなければ。
「よし、俺がドアを蹴破ろうか?」
そう言って、俺が足を上げた瞬間、ドアが向こう側から開く。
「ちょっと、何よ? うるさいわね。どうかしたの?」
寝ぼけた顔のエミノールが、ドアから顔を出す。胸の谷間パックリのパジャマ姿に、俺はまたドキドキする。皆は対照的に、ホッと胸を撫で下ろしたかのような顔になっている。
「良かった、殺されているのかと思ったよ。じゃあ、次はマルノオの所だね?」
ラウナは笑顔で向きを変え、階段の方へと向かって行っている。
おぉ、ラウナの奴、いつもの男勝りな感じが戻って来たな。良かった、良かった。
俺はそう思いながら、他のみんなと共に二階のマルノオの部屋へと向かう。
そして、エミノールの時と同じように、ラウナがドアを叩き、マルノオを起こそうとする。ラウナはドアノブを回そうとするが、やはり鍵が掛かっている為に開ける事が出来ない。
「マルノオ、起きなよ。もう朝だよ。仕方ないねぇ」
ラウナはやれやれとしたような顔をして、皆の方を振り向く。しばらく待っても、エミノールと同じように返事がない。
俺の貴重な時間を奪うんじゃねぇよ。
と、俺は思ったので、皆の許可も取らずに、ドアを蹴破る。ドアは激しく吹っ飛ぶ。全員が冷たい視線で、俺を見ている。
その方が早いでしょ? 相手、女の子じゃないし。
俺はそう思いながら、中の部屋の様子を伺う。ベッドの上でマルノオが横たわっている。苦しそうな顔をして、泡を吹いている。ピクリとも動いていない。
「サークさん。もしかして、マルノオさん、死んでるんじゃないですか?」
後ろにいたクルスが、驚いた顔で俺に告げた。
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