第10話 殺人事件から身を守る方法
俺達九名は再び、建物のリビングへと集まる。やはり、向こうのチームも外部犯は見つけられなかったらしい。俺以外の全員から、ため息が漏れる。
窓の外を見れば、日は暮れ、真っ暗になっている。腹が減ったな、そろそろ晩飯の時間かな。俺はそんな事を思いながら、重たい空気のリビングを見回す。
「皆さん、お腹が空きましたよね? そろそろ、夕食の準備を致します」
ジサンが席を立ち、妻のバサンと台所へ向かおうとする。
「ちょっと待てよ。また、毒を入れられるかもしれないだろ? 全員で監視させろ」
イケメンのマルノオが、老夫婦を制止する。老夫婦は怯えたような顔になり、戸惑っている。
「そうですね。全員でお互いを監視し合いましょう。それなら、毒を入れる隙が無くなりますから」
クルスもマルノオに同調し、席を立つ。
こうして、ジサンとバサンが料理を作っているのを俺達は見届ける事となった。それから、自分で飲食する物は自分で運ぶという形をとる。
テーブルの前に、全員分の料理と飲み物が並べられる。俺以外はみな、浮かない顔をしている。
「いただきまーす」
俺は手を合わせた後、料理に食らい付く。美味いなぁと思いながら、ガツガツと食べる。
「あなた、昼間に隣の席の人が毒を盛られて死んだのに、よく食べられるわね?」
胸の谷間パックリのエミノールが、怪訝そうに聞いてくる。
「大丈夫だよ。毒なんて入ってないよ。みんなも食べようぜ」
口の中いっばいに食べ物を詰め込んだ俺は、周りを見てみる。みんな、冷たい目で俺を見ている。
え、ひょっとして、俺が毒を入れた犯人だと思われているんですか? いやいや、違いますよ。俺はただ、この程度の毒なんて効かないから、恐れていないだけですよ。
そう思ったが、必死でそれを言うと余計に怪しまれるので、俺は言うのを控える。
「そうですね。少しでもお腹に何か入れておかないと、迎えの船が来るまで体力が持たないので、皆さん、少しでもいいから食べましょう」
愛弟子クルスが笑顔で皆に声を掛けている。他のみんなもクルスの言葉で、恐る恐る料理に手を付け始める。それを確認したクルスは、また話を続ける。
「皆さん、食事を終えた後の事なんですが、僕から提案があります。全員でこのリビングで寝泊まりして、お互いを監視し合いませんか? 犯人が誰か分からない状況ですし、これなら犯人も次の犯行が行えませんから」
「おい、どういう事だ? また、誰かが殺されるって言うのか?」
マルノオが席を立ち、クルスに詰め寄る。クルスは困った顔をして、マルノオに言葉を返す。
「このようなクローズドサークルの場合、次の殺人が起こる可能性が高いと考えられます。安全の為、みんなで一緒に居た方が……」
「イヤよ。殺人犯とも一緒に居るって事でしょ? 絶対にイヤ。それにあなた達、男ならそれでいいかもしれないけど、私達、女性は絶対に無理よ」
エミノールの反論に、他の三人の女性も頷いている。恋心を抱いているレミカにも提案を拒絶された為、クルスは萎縮する。
「スンマセン、俺にもっといい提案があるんですが……」
俺はここぞとばかりに手を挙げ、アピールする。もちろん、食事中なので、口の中に食べ物を詰め込みながらだ。
「俺の部屋で、女性達全員がお泊りするって言うのは、どうですかね? 何を隠そう、この俺は大魔王を倒して、世界を救った最強の勇者ですから、殺人犯など恐れるに足りません。女性の皆さんを全員お守りしますよ」
フッ、とうとう言ってしまった。女性達は俺に守って欲しいと、泣いて頼みに来るぞ。俺はそう思って、カッコを付けて腕組みをする。
「ふざけないでよ。あなたが殺人犯かもしれないでしょ? それにあなたは、スゴくイヤらしいオーラをまとってるし……」
エミノールが冷たい視線を俺に向け、感情的に返して来る。
はぅ、俺は殺人犯じゃないですよ。それに、イヤらしいオーラって何ですか? 俺はそんな下心あるわけがない……。いや、少しはあるかな? いや、あるかもしれないです。けど、女性達をお守りします。ホントです。
俺はそう思い、女性陣を見回す。女性四人とも、俺に対して、かなりドン引きした態度を取っている。氷のような冷たい刺さる視線だ。
そんな目で女の子にずっと見られたら、俺、泣いちゃうぞ。
俺は悲しい気持ちになり、何も言えなくなる。
「分かりました。この後、各々の部屋に移動して、部屋に鍵を掛けて下さい。そして、他の人が来ても、絶対にドアを開けないように気を付けて下さい」
クルスは諦めた顔で、全員に告げる。クルス自身、スゴく悔しそうに思っているのがよく分かる。クルスは最善策を取りたかったのだ。
俺も悔しい。なぜなら、美女と同じ部屋で過ごせないからだ。何の為のお泊り合コンなのだと、怒りの感情が湧いて来る。
こうして、俺達九名は各々の部屋へと移動を開始する。すると、クルスがレミカを引き止め、何か話をしている。俺はウンウンと頷き、感慨深い思いでそれを見ている。
アイツ、やるな。しっかり、口説いている。俺も負けてられない。
俺もアイシアを引き止め、声を掛ける。
「アイシアさん。何かあったら、すぐ俺を呼んで下さい。必ず、助けに行きますから」
「ありがとうございます、サークさん。それでは、おやすみなさい」
アイシアは少し困った顔で、俺に言葉を返し、三階への階段を登っていく。そんなアイシアをかわいいなぁと思いながら、俺は二階の廊下から見送る。
こうして、一日目の夜が終わる。そして、二日目の朝を迎える事となる……。
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