第8話 クローズドサークル
「ホントに死んでるの?」
エミノールは口に手を当て、青ざめた顔をしている。
「し、死んでます……。ゴメンなさい。私の力不足です。私の魔法レベルがもっと高ければ、助けられたのに……」
レミカはペタンと座り込んだまま、涙を流して震えている。
「ちょっと待てよ。何で、ベルンの奴は死んだんだ? 何かの持病か? あんなに元気だった奴が何で急に? おかしくないか?」
マルノオが語気を強め、周りの人間の顔を見回す。
クルスは泣いているレミカの肩をポンと叩き、椅子に座るように誘導する。そして、レミカと場所を入れ替わるように、再びベルンの周りを調べ始める。
「乾杯をした直後に、ベルンさんは倒れたんですよね、サークさん?」
クルスが俺の方を向き、確認をしてくる。俺はそうだと応える。クルスはうつむき、考え始める。
クルスが床に転がっているグラスとこぼれた飲み物をじっと見ている。ベルンが最期に持っていたグラスだ。
クルスはその床のグラスにそっと顔を近付ける。クンクンと匂いを嗅いでいるみたいだ。
「甘い香りがします。ベルンさんの飲んでいたビアー酒は、辛口のお酒で決して甘い香りはしません。一体、この香りは?」
クルスはそう独り言を漏らすと、また考え始める。そして、何かに気付いたようで、目を見開く。
「この香りは、確かシサンカリという猛毒の匂いです。昔、薬学の勉強をした時に、匂いを嗅いだ記憶があります」
「え、てことは、毒を盛られて殺されたって事なのかよ?」
「可能性は高いです」
その瞬間、女の子達から悲鳴の声が上がる。マルノオも驚きのあまり、身体が固まっている。
いやぁ、この程度の毒で死ぬなんて、ちょっと鍛え方が甘いんじゃないのかな? 俺なんか大魔王を倒したくらいの男ですよ。こんな毒、何十杯飲もうが、全く効かないですよ。さぁ、皆さん、ここは気を取り直して、合コンを再開しましょう。
と、俺は考えたが、女の子達に嫌われると思い、敢えて言うのを止めた。
「なぁ、合コン組織委員会に連絡した方がいいんじゃないのか?」
女性勇者ラウナが心配そうに、皆に声を掛ける。いつもの男らしい態度と違って、か弱い女の子みたいに怯えている。
「いや、ダメですよ。連絡の取りようがありません。この島と合コン組織委員会のある大陸との連絡手段は、さっきの船だけです。つまり、船は明後日まで来ないので……」
女性剣士アイシアが、言葉を詰まらせる。
「クローズドサークルと言う事になりますね?」
クルスが右手の中指でメガネを上げ、代わりに応える。
「何だよ? そのクローズドサークルって言うのは? ちょっとエッチな合コンの集まりの事なのか? 男女間で、ムフフな事をする的な?」
俺はクルスに訊き返す。なぜか分からないが、全員からの冷たい視線が俺に痛いほど突き刺さる。
「合コンは全く関係ありません。外界との接触が絶たれた、今の状況みたいな事を言うんです。よくミステリー小説であるような展開です。つまり、隔離されたこの島で、人殺しと一緒に明後日まで過ごさないといけないと言う状況なんです」
「ふーん、なるほど。それで、誰が一体、あのイケメン勇者を殺したんだ?」
俺の一言で、凍り付くような場の空気になる。俺以外の全員が、互いに疑り深そうな目で見合っている。そして、呆れた顔のクルスが仕方なく、俺に説明をし始める。
「サークさん、相変わらずぶっ込んで来ますね。さすがです。では、状況を説明します。この島は無人島なんです。つまり、ここにいる九人か、もしくは島に隠れて潜んでいる人間、いずれかの中に犯人がいると思われます」
「ちょっと待って下さい。この中に殺人犯がいるなんて……。ベルンさんが自殺した可能性はないんですか?」
アイシアが驚いて、声を上げる。
アイシアさん、かわいいな。早く合コンが再開して、アイシアさんとお話がしたいな。そして、彼女と一つの部屋で、ムフフフフ。
俺は真顔でアイシアを見つめ、エロい事を考える。すると、マルノオが怒った顔で、アイシアに詰め寄る。
「ベルンが自殺なんかする訳ねぇだろ。クソ、この中の誰かに殺されたんだ。チクショー、誰だ? 誰が殺ったんだ? 名乗り出ろよ」
マルノオが取り乱し、持っていたナイフを取り出す。そして、全員に刃先を向け、威嚇するような行動を取る。
「外部犯の可能性もあるんでしょ? 皆さん、仲良くしましょうよ」
レミカが泣きながら、キョロキョロと見回している。
「そうですね。外部犯がいるかもしれません。だから、今からみんなでこの島に他に誰かいないか、捜索しませんか?」
クルスが手を広げ、全員に訴え掛ける。みな、下を向き、考え始める。
「俺もクルスに賛成です。このままだと、お互い疑い合うばかりです。ここは、白黒付ける為にみんなで捜索しましょう」
俺もここだとばかりに、言葉をはさむ。クルスが尊敬の眼差しで俺を見ている。他のみんなも仕方ないなという顔で、しぶしぶ提案に乗る素振りを見せる。
フッ、合コンリーダーとして、当然だ。場を仕切らせてもらうぜ。
俺はカッコをつけた顔で、アイシアの方を見る。しかし、アイシアは違う方向を見ている。俺の事など眼中にないようだ。
俺は少し落ち込んだが、気を取り直し、考え始める。
どの美女と一緒に、捜索しようかな?
やっぱりアイシアちゃんかな? ナイスバディのエミノールちゃんもいいなぁ。悩むなぁ。
そんな妄想をしていると、女性陣から冷たい視線が再び突き刺さる。
どうやら俺は、またエロい顔になっていたようだ。
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