第5話 合コンで心理学ってズルくないですか?

 女の子達が、全員引きつった笑顔になっている。俺はゴホンと咳払いをし、場の空気を変えようと次の奴に会話のバトンを渡す。


「えーっと……。それでは次は、私の隣の方に自己紹介してもらいます。よろしいですか?」


 俺は左隣のイケメン勇者の顔を見る。イケメン勇者はフンと鼻を鳴らし、口を開く。


「俺の名は、ベルン。勇者をやっている。レベルは上級。つい最近まで、ムーア大陸で冒険をしていた。よろしく」


 口調も表情も自信満々の顔だ。女の子達もへぇと言うような感心をした顔になっている。


「え、ムーア大陸ですか? あの大魔王や最強クラスのモンスターがいる、あのムーア大陸ですか? ベルンさん、お強いんですね。 スゴーイ」


 初々しい顔のかわいい系の女の子が、ベルンと名乗る男の話に食い付く。ベルンはドヤ顔を見せ、鼻高々に話を続ける。


「そうだ。そのムーア大陸だ。ま、あと少しで大陸も全部攻略出来ると思うぜ。大魔王の城もな。フッ」


 何が、フッだ。そんなもんで自慢すんなよ。その大陸で一番強い大魔王を倒して、世界を救ったのは俺だぞ。しかも、たった一人で。もう攻略出来てるの。お前行っても、もう意味ないの。


 ベルンの話を横目で聞きながら、俺は心の中で叫んでいる。そして、そんな心の声を抑えながら、俺は健気に合コンの進行をしていく。


「スゴイですね、ベルンさん。ありがとうございした。では男性陣、最後の方、よろしくお願いします」


 俺は一番端の鉄仮面の男を見る。鉄仮面の男も俺の声に反応し、姿勢を少し正す。


 合コンで鉄仮面って、バカだろ? 絶対、女の子にモテないだろ? お前はもう、このコンパから脱落してんだよ。


 俺は蔑んだ目で、銀色の鉄で顔を覆い隠している男を見る。女の子達も怯えたような顔で、鉄仮面の男を凝視している。


「失礼、この仮面が邪魔だったみたいだな」


 鉄仮面男はそう言うと、ご自慢の鉄仮面を不意に脱ぎ出す。


 え、ここで脱ぐのかよ。


 俺は心の中でツッコミを入れる。


 そして、他のメンバー同様、奴の顔がどんな顔をしているのか気になり、注目をする。


 どうせさ、合コンで顔を隠して来る奴なんて、大したツラしてねぇだろ。


 そんな風に、奴を鼻で笑っていた瞬間、状況が一変する。


 鉄仮面の下から出て来たのは、女性達が思わず見とれてしまうような容姿端麗な整った顔であった。


 髪は黒で短髪、スポーツマンのような爽やかで甘いマスクの男が女の子達の前に現れる。


 向かいの女性達はウットリとしたような顔で、その甘いマスクをじっと見ている。そして、四人とも顔を赤らめている。


 え、不細工と見せ掛けてのイケメンって感じですか? それって心理学的に言えば、ギャップでヤツで、ものすごく効くヤツですか? 女の子達、全員惚れたような顔をしてますけど。それ、計算してやってるんですか? ズルくないっすか?


 俺は呆然としながら、自問自答をする。すると、その場の空気を変えるように、鉄仮面を脱ぎ捨てた甘いマスクが喋りだす。


「俺はマルノオ。暗殺家業をやっている。それゆえに顔を隠さねばならぬのだ。よろしく」


 甘いマスクで低い声のその男は軽く一礼をする。その仕草を見て、女の子達は再びウットリとし始める。


 俺の脳内のルックス査定システム、通称"リトルサーク"が警告音を鳴らし始める。


 ここで、説明しよう。


 ルックス査定システム"リトルサーク"とは、男女の見た目をランク付けし、評価をするという相手からしたらめちゃくちゃ失礼なシステムの事なのである。


 このランク付けは、めっちゃイケメン、めっちゃ美女はAランク。イケメン、美女はBランク。普通くらいがCランク。ブサイクはDランクなのである。


 俺と弟子のクルスのルックス査定は、普通のCランクだ。しかし、ベルンと呼ばれた勇者はかなりのイケメンのAランク。そして、鉄仮面を脱いだ暗殺者マルノウは、異例の超イケメンのSランクだ。


 ルックス的に、かなり俺達は劣っている。このライバルの二人に。


 当たり前の事を、ここで敢えて言おう。


 イケメン、美女はモテる。会って間もない合コンならなおさらだ。


 つまりだ。俺とクルスは致命的な点で、ライバル達に劣っている。この勝負、不利な状況に置かれているのだ。


 ルックス格差の非情な現実を目の当たりにし、俺は焦りを感じ始める。


 どうすれば、どうすれば勝てる? 女の子にモテる。


 俺は思考を繰り返しながら、合コンの進行を再び始める。


「では、男性陣が終わったので、続いて女性の皆さんに自己紹介をしてもらいたいと思います。では、そちらの方からよろしくお願いします」


 俺はガッチリ体型の勇者風の女の子を指名する。その女の子はフッと笑うと、向かいの男達を見回してから言葉を発する。


「私の名前はラウナ。勇者をやってるよ。レベルは中級くらいだ。よろしくな」


 鎧と背中に剣を身に付けたラウナと言う女の子は、片手を軽く上げる。


 やっぱり、見た目通り性格も男っぽい子だな。


 俺はそう感じ、ラウナを注意深く観察する。


 次の瞬間、俺の脳内のルックス査定システム"リトルサーク"が激しく起動する。そして、過去のデータなどから分析し、彼女の評価を行う。


 このラウナという子、悪いが可もなく不可もなくのCランクだ。悪いが美女という評価は付けられない。


 俺はラウナから視線を外し、他の美女三人をじっと見つめた。




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