File No.3

 僕と真莉は、藤田さんの異人館へと足を踏み入れた。ドアを潜って入ると大きなエントランスがあり、藤田さんは、まっすぐ歩き正面にあるドアを開けて招いた。


「こちらが食堂になります。荷物は、荒川に運ばせますので、長旅のお疲れを癒しながら、お夕食をお取り下さい」


 僕は、食堂にある時計を見てみると午後6時半を指していた。


 「私は、一旦自室に入って少し休んで参りますわ。その前にコックの紹介を」


 そして、厨房に向かって入ると


「国木田、いいかしら?

 食堂まで来てくれるかしら?」


 厨房から、威勢良い声で


「はい!

 奥様!」


 と声が聞こえてきたと思ったら、ムキムキの体をした、髭面の大男が出てきた。


「こちらがコックの国木田です。国木田、粗相のない様におもてなしして頂戴ね。私も、すぐ来るから。こちらのお嬢様が先日話した明石様で、その隣の方が助手の小林様。宜しく頼みますね」


「はい!

 かしこまりました!」


 と、コックより軍隊の方が向いてそうな国木田さんは、直立不動で答えた。


 それを見た藤田さんは、安心したのか、深々と頭を下げて出て行った。


「嬢ちゃん、坊主!

 好き嫌い無いよな?

 とびっきりのご馳走持って来るから、楽しみに待ってな!」


と、国木田さんは、ニコニコしながらノシノシと歩きながら厨房へと消えていった。


 国木田さんの料理は、どれも一流のシェフの料理で僕と真莉は互いに感動のため息を漏らしながら、口へ夢中になって運んだ。


 あまりにも夢中になっていた時に、真莉が


「ちょっと、藤田さん、すぐ来ると言っていたけどなかなか来ないわね。何かあったのかしら?」


 僕も、正気に戻って時計を見ると時計は、あれから1時間は経っていた。


 その時、荒川さんが食堂に入って来て


「明石様、小林様。こちらが部屋の鍵になります」


丁重に部屋の鍵を差し出してきた時、真莉が


「藤田さんが、なかなか姿を見せないのだけど、何か嫌な予感がするの……ちょっと、様子を見に行きたいのだけど」


その言葉を聞いた荒川さんは、一瞬嫌な顔をしたがすぐに温厚な笑顔を見せて


「藤田は、化粧に時間のかかる方でしてそのせいでないかと……」


「そうかしら?

 私の見立てだと、化粧や服はシンプルなのが好みだと思うのだけど……」


「おい!

 荒川!

 エントランスに飾ってある、あの不気味な絵が一枚ないぞ!」


 と国木田さんが大きな声を響かせながら食堂に顔を出した。


 僕たちは、ゾロゾロとエントランスに向かうと国木田さんは、絵を飾っていた跡がある壁を指した。その跡に並ぶ様にその他に11枚の絵がエントランスの壁に飾ってあった。


「この絵たちは、主人の藤田が画家として書いたキリストの12使徒の絵でございます」


「無くなったのは、何の絵ですか?」


 真莉は、鬼気迫る様に荒川さんに詰め寄ると


「えっ……ええ。多分、イスカリオテのユダの絵でないかと……」


「どんな、絵ですか?」


「あれは、趣味悪いぜ。首吊りした人の絵だぜ」


 と国木田さんが、横から口を出した。


 真莉は、そこから何か感じたのか


「藤田さんが、心配だわ。部屋へ行きましょう!荒川さん、藤田さんの部屋はどこですか?」


「嬢ちゃん、こっちだぜ!」


 率先して国木田さんは、ドスドスと2階へと上がって、僕たちも後に続いた。


 そして、2階の正面の部屋の前に着くと


「ここだ!」


 と、国木田さんは、乱暴にドアをドンと叩いた。


「藤田さん!

 いますか?

 返事してください!」


 と、真莉は必死になってドアを叩いて声をかけたが、返事はなかった。もちろん鍵は閉まっていた。


「鍵はありますか?」


「藤田の部屋の鍵は、本人しかありませんので……」


 と、消え入りそうな、荒川さんとは、正反対に国木田さんが


「ぶち破ろうぜ!」


「国木田!

 怒られるぞ!」


「非常事態だ!

 構ってられるか」


 と、国木田さんは体当たりを繰り返して、ドアをぶち破った。


 その光景は、信じられなかった。


 天井から首を吊った藤田さんがぶら下がり、足元には椅子が転がっていた。その隣には、同じ様に首を吊った絵が置いてあった。


---- イスカリオテのユダ ----


だ。

 真莉は、その部屋に入ると急に犬の様に四つん這いになると、亡くなった藤田さんの足元を探った。

 そして、舐めるように藤田さんを観察した後、周りを見渡して化粧台へと向かうと、口紅を見て首を傾げた。そして台に置いてある飲み物……おそらくレモネードを手に取り匂いを嗅いだ。

 その時、真莉の表情が険しくなった。


 しばらく、真莉は考えこんだ後、レモネードの隣に置いてある、メリーゴーランドの置物を手に取り


「これは、何ですか?」


 あまりの出来事に呆気に取られた他の面子の中、荒川さんが


「それは亡くなった藤田の主人からの贈り物のオルゴールです」


「オルゴール…」


 真莉は、オルゴールを動かした後、大きく頷いた。


「ここに遺書が!」


 と、荒川さんは、紙を真莉へ差し出した。


---- 私は、大事な人を裏切って大きな罪を犯してしまった。もう、ユダの様に死ぬしかないのです。ごめんなさい 藤田薫 ----


真莉は、遺書を一瞥すると真剣な表情で


「.こんな、遺書は嘘よ!

 藤田さんを殺した犯人はここにいる!あなたよ!」


 と、真莉はその人を鋭く指した!

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