File No.2

 真莉は港の駐車場に車を駐めると、颯爽と荷物を持って波止場へと軽快な足取りで向かって行った。

 長い髪が海風に吹かれてなびき、スタイルの良いシルエットが港に良く映えていた。 


 僕は、あまりにも絵になる光景だったのでしばらく惚けていると


「拓磨!

 何、ボーッとしてるのよ!

 行くわよ!」


 との真莉の声に僕は、我を取り戻して、急いで荷物を持って真莉の後についた。


 港には、ウミネコが何が楽しいのか、止むことなく鳴いている。そんな中、真莉は何かのメモ紙を見ながら


「時間と場所は、合っているわよね……着けば判ると書いているけど、どの船かしら……?」


 と、かつての名探偵女子高生が、何やら途方に暮れ始めた。そんな時、僕たちが並んでいる船に向けてどの船に乗れば良いのかと視線を送っている背後から


「明石真莉様で、いらっしゃいますか?」


と多少、合気道の心得がある僕でさえ気配を感じさせずに、如何にも執事といった格好の老紳士が随分姿勢正しく立っていた。


 真莉も、老紳士の存在に気づいていなくて、驚いたのか動揺しながら


「ええ……そうよ。私よ。えっと、あなたは?」


「申し遅れました。私、藤田薫様の執事を行っている、荒川と申します。何卒、お見知りおきを」


 と、荒川さんは、如何にも訓練されたかの様な綺礼な角度で頭を下げた。


 真莉は、如何にもな営業スマイルを顔に浮かべると


「ご丁寧にありがとうございます。私は、招待に招かれた、明石真莉です。こちらは、助手の小林拓磨」


「小林です。何卒宜しくお願いします」


 と、真莉と僕は応えるように深々と頭を下げた。


 荒川さんは、落ち着いた口調で


「こちらこそ、遠路はるばるよくぞお越しくださいました。月島へ向かうフェリーは、こちらになりますので、どうぞこちらへ」


 荒川さんに促されて向かったフェリーは、個人の船にしては、かなり大型で豪勢な作りだった。これは諭吉さんが3桁で済むレベルじゃない……下手すれば4桁いくんじゃないだろうか?

 まだ、会ってもいない藤田さんがどれくらい富豪なのか、その片鱗が見えた気がした。


 僕たちは、フェリーに荷物を運んで乗ると


「出発致しますが、準備はよろしいですか?これから向かう月島は、日本の僻地となる離島でございます。故、携帯の電波圏外でございますので、その点何卒ご容赦くださいませ」


 僕は、手に持ったスマホを見つめながら、


 お前これから、ただの板になるのか……スマホゲームのログインサービスは諦めるしかないなぁ……と内心ガッカリしていた。


 そんな、僕とは正反対に真莉は、興奮した口調で


「て、事はいわゆるクローズドサークル何ですか?

うわ!

興奮してきた!」


「真莉、クローズドサークルって何?」


 真莉は、僕に呆れた顔を見せながら


「ミステリーの基本よ。冬の吹雪閉ざされたペンションとか、海の孤島とか下界から閉ざされた環境ってことよ」


「って、事は殺人事件が起こりやすいんじゃ……」


 そんな、僕たちを宥めるように荒川さんが


「だから、藤田は敢えて身の安全の確保の為に月島に行きました。月島は、離島なので定期便の船などありません。行くとすればこの様な個人の船で行くしかないのです。藤田は、ここの漁師に心付けを送って、月島にはよそ者を乗せない様に手筈をしております」.


 そして、荒川さんは、しばらく沈黙した後


「なので、あの様な脅迫状を送っても、実行は不可能なのです」


「果たして、それはどうかしら?

 荒川さん、脅迫状は藤田さんが月島に篭る前に送られたのですか?」


「そうです。つい先週までは都内の邸宅で過ごしていましたが、その件以来、月島に別荘がありましたのでそちらへ」


 それを聞いた真莉は、俯いて黙って何か考え始めた。


「それでは、出発致します」


 荒川さんの操舵で僕たち、離島月島へと向かった。


 ここの経験で初めてわかったのが、僕は船酔いに弱くて、ひたすらゲーゲーしながら早く着かないかとこの旅に後悔しながら思っていた。


 しばらく、するとだんだん大きくなってくる島影が見えた。


「皆さま、あそこに見えるのが、月島でございます」


 そしてフェリーは、月島に着くと、僕は久しぶりの大地に心底ホッとした。


「明石さん、ご足労ありがとうございます。私がここの主人、藤田薫です」


 と、シンプルだけど物の良さそうな白のワンピースを着た50代?いや30代かもしれない、年齢不詳の婦人、藤田さんがが出迎えくれていた。


「失礼、そちらの方は?」


 と、藤田さんは僕に怪訝な視線を向けると


「彼は私の助手の小林拓磨。身元は、私が保証します」


 と、藤田さんは少し不満そうな顔をしたが


「それなら、結構ですわ。何卒宜しく頼みます。荒川お二人の荷物を持って。お二人共これから、ご案内しますわ。私の館へ。すぐそこですので、足元に気をつけてついてきてください」


そして、僕たちは、立派な蔦が絡まり年季の入った異人館へと向かった。地元の人曰くのドクロの館


---- ゴルゴダの館へと ----

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る