13章 秋の収穫祭
第13話
「秋といえば食欲の秋!」
「なんで食欲なんだよ。他にもあるだろ。」
「え〜?食欲以外何があるの?」
「…お前な。」
「お兄ちゃん。チェル姉ちゃんにそんなこと言っても無駄だよ。」
「そうだな。」
「えっ!ちょっと酷くない!?」
「はいはい!始めるよ!」
「「「はーい!」」」
私たちは今お父さんのお父さんつまりおじいちゃんの農園に来てるの!秋はいっぱい収穫できるからね〜!だから毎年ライとリアと一緒に手伝いに来てるんだ!
「おじいちゃん!今年は何から採るの?」
「そうじゃな。さつまいもから収穫するかい?」
「さつまいも!?うん!収穫するする!」
「今年はさつまいもの出来がいいんじゃよ。根がよく張ってね。身も大きく育ったんじゃよ。ほらこれ。見てごらん?皮の色も濃くて切り口から蜜が出ているじゃろう?それになっている身の数も多くてな、いいのがいっぱい収穫できそうなんじゃよ!…聞いてるかい?チェル?」
おじいちゃんが私に聞いた。が、
「焼き芋にスイートポテトにさつまいもパン!うふふふ!美味しそう…。」
と一心不乱にさつまいもを収穫していて全く話を聞いていなかった。
「ごめん。おじいちゃん。チェル全く聞いてない。」
「私は聞いてたよ!おじいちゃん!…チェル姉ちゃんはほっといて大丈夫だよ!」
「ありがとうな。ライくんリアちゃん。…そうじゃな。チェルはほっとくか。今は何言っても聞かんしな。」
そう言ってチェルから離れたところに移動してさつまいもの収穫を始めた。
「さっつまいもタルトにさっつまいもご飯♪マフィンにクッキー♪…あれ?終わった?ここまでなのか。おじいちゃん終わったよって、遠っ!いつの間にあんなに離れてたの!?」
私は収穫したさつまいもをカゴに入れておじいちゃんのところに行った。
「おじいちゃ〜ん!終わったよ〜!それでなんでこんなに遠くにいるの?私にも伝えてよ〜!」
「…ん?終わったのかチェル?早いな。…言ってもお前は聞かないだろ。掘るのに夢中で。」
「そんなことないよ!ちゃんと聞いてるよ!」
「さつまいもの収穫始めた時、わしなんて言ってた?」
「えっ?なんか言ってた?…ちょっと待って。う〜ん。…ごめん、覚えてない。焼き芋とかスイートポテトの事しか頭に入ってないよ。」
「「「…はぁ〜。」」」
「そんなみんなしてため息つかなくてもいいじゃん!」
「だって一言も聞いてないじゃないか。」
「おじいちゃん可愛いそう。」
「わし悲しい。」
「ほら、おじいちゃん泣いちゃったよ!」
「えぇ〜!ごめんて!」
「なんてな?」
「もうからかわないで!おじいちゃん!」
「…チェルのおじいちゃんノリ良すぎだろ。」
「さて、収穫の続きするぞ〜!まだまだ残ってるからな!」
「「「はーい!」」」
私たちは残りのさつまいもを収穫するのを再開し、全部収穫し終わった。
「ご苦労様。やっぱり若いもんは早いの〜!次はカボチャじゃ。」
「カボチャ!?よし!まっかせて!」
「今年のカボチャは少し小ぶりになってしまってな〜。ちょっと残念なんじゃよ。でもな皮が…」
「煮っ物にカボチャパイにジャックオランタン♪あっ。ジャックオランタンは食べ物じゃなかった!カボチャクッキー♪にケーキ〜♪」
「…なんだこの不思議な状況は。」
「…気にしちゃ終わりだと思うよ。お兄ちゃん。」
「…そうだな。でも一個いいか?なんで食べ物のレパートリーにジャックオランタンが入ってるんだよ。さらっと流してたけどな。カボチャの中身もないぞ。」
「…まぁチェル姉ちゃんちょっとバカというか天然というか…まぁとりあえずちょっとおかしいからね。気にするだけ無駄だよ。」
「…リア。お前ここに来るまでにツッコミ過ぎて疲れてるだろ。いつもより辛辣だぞ。」
「だって!突っ込まずにいられないボケを言うんだよ!?チェル姉ちゃん自覚ないし!それにまた突っ込んだら無限ループだよ!終わらないんだもん!…こうやって喋ってる最中も一人はカボチャについて語ってるわ、一人は一心不乱にカボチャを収穫しながらカボチャ料理の歌を歌ってるわ。ベネテーゼ家の血濃すぎでしょ!!」
そこまで早口で言い終わったリアは、息が切れていた。
「…ごめん。リア。溜まってたんだな…。」
「はぁ…。はぁ…。ううん。ちょっと爆発しちゃった突っ込むところが多すぎて…。」
「…次からは無視しよう。」
「うん。その方がいいよ。」
もう無視しようと決めた二人だった。
「おじいちゃん終わったよ〜!」
「おお!ご苦労様!…次は栗じゃ!」
「栗!!…モンブランにタルトに剥っき栗♪栗クッキー!にマロンタルト♪」
「今年の栗はの!身がぎっしり詰まってるんじゃ!それにな?…」
「モンブランとタルトはほとんど一緒の上に、マロンタルトは言い方変えただけじゃねえか。それに話を聞いてないって分かってるのになんで続けるんだ。…あっ突っ込んでしまった。」
「私の気持ち分かった?お兄ちゃん。」
「うん。ごめんリア。」
「栗も大量だ〜!」
「お〜い!おじいさん、チェルちゃんたち!ちょっと休憩しないかい?おにぎり持ってきたんだよ。」
「ばあさん。ありがとう。…チェルたち休憩しようか。」
「休憩する!」
「「速っ!」」
おばあちゃんがお昼の休憩におにぎりを握って持って来てくれた。チェルはおじいちゃんがいい終わる前に走って行った。
「どんだけお腹空いてるんだよ…。」
「チェル姉ちゃん、秋は食欲が異常だよね。いつもはそれ程じゃないのに。まぁ普通の人に比べると食欲はあるけど。」
「ライ、リアも早く来なよ〜!もう食べちゃうよ〜?」
「「今行く〜!」」
ライとリアが着くと、私は言った。
「じゃあ手を合わせて!」
「「「「いただきま〜す!」」」」
「美味し〜!農作業後のお弁当は特別美味しいよね!」
「ああ。美味しいな。」
「いっぱい動いたからお腹空いてたもんね!」
談笑しながらおにぎりを食べ終わると、
「さて、次の収穫行こうか?」
「次は何採るの?」
「柿採ろうかの。」
「柿!?分かった!…味見していい?」
「2個だけだぞ?」
「やった〜!採ってくる!」
「ライくんとリアちゃんも食べていいからな。」
「「ありがとう!おじいちゃん!」」
ライたちが果樹園に着くと、チェルはすでに柿を食べていた。
「美味し〜!甘いね!」
「そうじゃろう!そうじゃろう!今年のはいつもより甘いんじゃ!瑞々しいじゃろ?それはな…。」
((始まった…。))
ライとリアは、二人を通り過ぎて作業を開始した。
「ケーキにタルトっ!ジャムに甘露煮♪」
((柿の甘露煮ってあったっけ?まぁジャムみたいなものだけど。…普通はイチジクとかだよなぁ…。))
「次は梨じゃ!梨はな少し甘味が去年より足りないんじゃが、水分量が多くてな!瑞々しくてな…。」
「ケーキにタルトっ!ジャムに甘露煮♪」
((さっきとまるっきり一緒だ…。))
「さてこれで最後じゃ!みんなありがとうな!」
「あっもう終わり?早かったね!」
((やっと終わった…。))
そろそろおじいちゃんの説明とチェルのツッコミどころ満載の料理の歌に疲れてきた頃にようやく終わった。
「今年は大量だね〜!」
「そうじゃな!あとでばあさんに焼き芋作ってもらおうか。」
「食べる〜!」
「「…え?まだ食べるの(か)!?」」
「うん。食べるよ?」
「私は遠慮しとこうかな…。」
「俺も遠慮しとくよ…。」
「えっ!食べないの?美味しいのに!」
((秋のチェル(姉ちゃん)は怖い…。))
チェルの食欲に恐怖を覚える二人だった。
「ん〜!いい天気!いい景色!!最高!!!」
「チェルうるさいぞ。」
「誰もいないよ!それに叫ぶたくなるでしょ?ライ。」
「ならない。」
「チェル、ライくん何してるの?行くよ〜!」
「「はーい!」」
今日はベネテーゼ家とボルガリス家で森に紅葉を見に来てます!
「紅葉は秋の風物詩よね〜!ミア。」
「ほんと癒されるわ〜!」
「普段あまり動かないので、いい運動になりますね〜。」
「俺はたまに武道をやってるからちょっと物足りないな〜!」
「あっリス!可愛い!こっちには小鳥がいる!」
「おい。あんまりちょろちょろするな。迷子になっても知らないぞ。」
「迷子にはならないよ〜!もう16歳なんだから!」
「って言ってチェル姉ちゃん迷子になったりして!」
「いや〜まっさか〜!」
「迷った…。」
あの後。
「あっ小鳥だ!おいで〜!あれ?どこ行くの?待って!」
小鳥がいて、少しだけ追いかけようとしたんだ。
「あ〜…。どっか行っちゃった。さて帰ろう!…どこ?ここ。」
結構遠くまで行っちゃったみたいで、歩いてたら余計分からなくなっちゃった!テヘッ!…小学生か私は…!しかも見事にフラグ回収したわ。
「とりあえず山道に出れれば行けるかな…?」
その頃。
(やけに静かだな。)
「チェル?…ん?」
(いない…。まさか!)
俺は辺りを見渡して、
「ほんとに言った通りに迷子になったな…!目を話した隙に居なくなるとか小さい子じゃないか…!」
「お兄ちゃんどうしたの?」
「チェルがいなくなった。」
「えぇ!?ほんとに迷子になったの!?」
「えっ?チェルが迷子?…ほんとにあの子はいつまでも子供のままなんだから。いつになったら成長するのよ…。」
「大変じゃない!早く探してあげないと!」
「ごめんねベリー、アセビ。手伝ってくれる?」
「ええ!手伝うよ!」
「僕も力になるよ。」
「ほんとごめんね!あっち探してくれる?」
「「分かった!」」
「ライくんもリアちゃんもごめんね!」
「いえ、すみません。俺も見てなくて。」
「何言ってるの!ライくんは全然悪くないわ!悪いのは全部あの子なんだから!」
「私たちも探すね!」
「ほんとにいい子だわ!ライくんとリアちゃん。…あとでみっちりお礼してもらわなきゃね〜チェル?ゲウム、探すわよ?」
「ああ!まかせろ!」
ミアは静かに怒っていた。
「…なんか寒気が。ここどこだろう。合ってるのかな?雰囲気的に絶対違うよね。…だってさっきよりも暗くて怖いんだもん!音もさっきよりも強いし!」
私は身を縮めて歩いていた。
「うぅ。鳥の羽ばたきでさえ怖いよここ、助けて〜!」
「〜!ん?…何か聞こえた。お〜い!チェル?」
「えっ!チェル姉ちゃん見つけた?」
「…!この声はライ!?ライ〜!ここだよ〜!ってうわぁ!」
「「チェル(姉ちゃん)だ!何かに襲われた!?」」
ライとリアは急いで声が聞こえた方に走って行った。
「なかなかいないよ!?あれ?こっちで合ってるよね?」
「聞こえてる声的にはこっちなんだけど、だいぶ深いところまで行ったんだな。…でも不思議だこんだけ離れているのに声が鮮明に聞こえる。普通は声が遮れるのに…。」
「確かに…。どうしてこんなに今声が通るんだろう。それに何か聞こえる…。」
チェルの声が聞こえた時から、風の音を高くしたみたいな女の人の歌声が聞こえていた。
それはチェルに近づくたびに強くなっていた。
「…チェル!見つけた!大丈夫か!?って何してる…チェル。人が一生懸命探してる時にきのみ食べてたのか…!」
「ひどい…!一生懸命探してたのに!」
「いやっ!違うんだよ!私からもライたちの方に行こうとしたら風が強くて行けなくて。で、目の前にこのきのみが置かれて食べたら風が止んだの!だから動かないでじっとここにいたの!それで…目の前にあったきのみをちょっと食べてた…。」
「食べてたんじゃないか!」
『そんなに怒らないであげて…!』
「「「…!?何!?」」」
私たちの目の前に白い手のひらサイズの小さい女の子が現れた。
「「「うわぁ〜!!!?お化け!!?」」」
『お化けじゃないわ!人の言葉で言う精霊よ!私は風の精霊なの!」
私たちがお化けといって後ずさると怒ったように精霊が言った。
「精霊!?そんな存在がいるなんてこの世界の何にも残ってないぞ?」
『私たちは人の前に出ることはないから、誰も私たちの存在は知らないわ。」
「えっ!?じゃあ私たちに教えていいの!?それ!」
『ダメなの。だから私に関係する記憶は森から出ると同時に消すわ。』
「そうなんだ…。仕方のないことだけど。ちょっと残念。」
『私たちの存在を知られたら、悪用する人も少なからず出てくるから。みんなを守るためにもごめんね。』
「ううん!大丈夫!精霊さんたちが傷つくのは嫌だから。でも精霊さんとの素敵な思い出が消えるのはちょっと悲しいなって思って。」
『ありがとう。そう言ってくれて。そうだ!忘れるところだった!私の名前はシルフィー。チェルを呼んだのは私なの。』
「「「えっ!?迷子になってたわけじゃないの(か)!?」」」
「なんでチェルが驚くんだよ。」
「いや。私のことだから本気で迷子になったと思ってた…!」
「「自分で言うな!」」
『ふふふ!仲が良いのね!…っと話を戻すわね?私たち精霊は生まれてまもなくは力が弱すぎてすぐに消えちゃうの。だから力が身につくまでは他のリスや鳥とかに憑依して力を蓄えるんだけど。…私が憑依したのは巣立ちしたばかりの若い小鳥だったの。でもある日、羽を怪我して飛べなくなってしまったの。飛べない小鳥なんてここの森では絶好の獲物だから。あぁ…私はここで死ぬんだなって思ってた時、チェルが助けてくれたの。』
「私!?」
(ん〜?助けたような…助けてないような…?)
『ええ。そうよ。まだ8歳くらいだったかしら?チェルは私を家まで連れて帰って、羽の怪我が治るまでお世話してくれたわ。おかげで元気になって死なずに済んだの。あの時はありがとう、チェル。』
「あ〜!!もしかしてシル!?あの白色の小鳥の!?」
『そうよ!!覚えててくれて嬉しい!』
「だってとても綺麗な真っ白の小鳥だったから!良かった!心配してたけど今も元気そうだね!」
『ええ!チェルのお陰で今も元気いっぱいよ!いつかお礼をしようとこの森にチェルがまた来るのを待ってたの。…それで、その時のお礼がしたくてチェルをここに呼んだんだけど…。こんな深い森にいきなり連れて来ちゃったからチェルを怖がらせちゃって。だから慌ててあなた達をここに呼んだの。』
「だからあんなにチェルの声がはっきり聞こえたのか…。」
『風を使って声を届きやすくしたの。』
「じゃあなんでチェルが私たちの元に来ようとしたのに止めたの?」
『それは、チェルが真逆の方向に行くものだから…。慌てて止めたの。』
「「…。」」
二人は無言で私を見た。
「そ、そんな顔で見ないでよ。ごめんって!」
『このきのみがそのお礼だったの。「ミンルージュ」って言う珍しいきのみなんだけど、口に合った?』
「「「ミンルージュ!?あの伝説の!?」」」
「なんでチェルが驚いてるんだよ。知らずに食べたのか!?」
ミンルージュはルクシテーゼにある伝説のきのみ。とても美味しいきのみで一度食べたら忘れられないほど絶品の味と言い伝えられるほど美味しいきのみらしい。しかしミンルージュの木はどこに生えてるのか、またどんな木なのかが分からない。統一性がなく、ある時は雪山に、ある時は家の庭に生えたりする。しかしその実はどす黒い色をしており、ミンルージュが生えていてもミンルージュとは知らない普通の人は食べようとしないため伝説のきのみとなった。
「…チェルよく食べたな。この色のきのみ。」
「これが伝説のミンルージュのきのみだと知っても食べられないほど凄い色だよ?」
「いや〜さすがの私も食べようとはしなかったけど。きのみを口に入れられたんだよね!」
「口に入れられたからって食べないぞ!?普通は吐き出すだろ!?…俺はお前がいつかヤバいものでも食べないか心配だ…。」
「私も心配だよチェル姉ちゃん…。」
「あはは…。でも食べてみて!頬がとろけるほど美味しいから!」
「「…〜っ!…!美味しい…。」」
「でしょ!」
二人は目をつぶって意を決して口に放り込んだ。ミンルージュを一口噛んだ瞬間…二人の顔が驚きで染まって、とても幸せそうな顔になった。
「こんなに美味しいきのみがあるなんて…。」
「…うん。びっくりだよお兄ちゃん。」
「私もびっくりしたんだよ!食べた時!」
『喜んでくれて良かった!…でも、もう帰らないといけないよね…。』
「…そうだね。シルありがとう!また会えて嬉しかったよ!」
『私もまたチェルと会えて良かった!ありがとう!もう私のことは忘れちゃうけど…。いつまでも私はあなたたちを見守っているわ!…最後に私からのプレゼント!』
そういうとシルフィーは私たちを森の花畑に連れて行くと、風を呼んだ。
「うわぁ…!花吹雪…!」
「綺麗…!」
「すごいな…。今まで見たことがない景色だ…。」
『喜んでくれた?』
「うん!ありがとう、シル!…またね!」
『…!うん、またね!チェル!』
シルがそういうと視界がぼやけていった。
「…ル!…チェル!ライくん!リアちゃん!どうしたの!?」
「…ん?お母さん?どうしたの?」
「どうしたのじゃないでしょ!心配ばっかりかけて…!もう…迷子になって倒れてたら誰でもびっくりするわ!」
そう言ってお母さんに抱きしめられた。
ライとリアもおばさんに抱きしめられてた。
「えっ?私倒れてたの?」
「そうよ!覚えてないの?」
「え〜と、道を歩いてて、小鳥を見つけて追いかけて…そこから覚えてない。」
「えっ覚えてないの?…それより小鳥を追いかけて行ったことにびっくりだわ。」
「思い出せない。…でもすごく懐かしくて、楽しい時間だった気がする…。」
そう言って私は微笑んだ。
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