10章 グリステン草原の奇跡の花
第10話
「これが…!グリステン草原!すごい!…わぁこの花は珍しくてあまり見ることがないのに!あっこっちも!うわぁ〜やっぱりすごいな〜!」
「おい。一人ではしゃいで迷子になるなよ?」
ライに言われて気づけば、みんなからだいぶ離れてしまっていた。
「あっ…。ごめ〜ん!つい夢中になっちゃって…。だって花が好きな人なら憧れる聖地だよ!はしゃいじゃうよ!」
グリステン草原は草花が咲き誇る広大な草原。
豊富な栄養の土と気候が適しており、咲いている草花は多種多様でここにしか咲いていない花も多数存在する。その中でも「メイミス」と言う花は奇跡の花と呼ばれ、世界中でもグリステン草原にしか咲かない。ルクシテーゼの装飾のモチーフとしてもよく使われる。
なぜここ来ているかと言うと、
遡ること数日前。アステル祭が終わって夏も終わろうとしている頃。マリーから手紙が送られてきた。
『親愛なるチェルへ
突然ごめんなさいね。あの子からの手紙も急だったから。アスターがね、チェルに助けてもらったお礼がしたいそうなの。だからお礼を考えていて遅くなってごめんなさいって書いてあったわ。…それでそのお礼なんだけどアスターの家に遊びに来て欲しいらしいわ。アスターの家の近くにはグリステン草原があるから、花が好きなチェルにはぴったりだと思うわ。私は行けないけど、ぜひ行ってあげて。
アマリリスより』
「グリステン草原!?行きたい!一生に一度は行ってみたいと思ってたんだ!…でもお礼なんかいいのに。」
「いいじゃない!グリステン草原に連れて行ってくれるなんて!行ってきなさい、とってもすごいわよ?」
「ああ。花好きなら憧れる場所だからな!ミアともそこであったんだ!」
「「ね〜!」」
「へぇ〜!じゃあお言葉に甘えて行ってみようかな!」
ということで、休みだったライと一緒にアスターの家に行くことになりました。
アスターの家に着くと、
「「この度は娘を助けて下さりありがとうございました。」」
「いえいえ!大したことはしてませんので!顔を上げてください!」
アスターの両親、ロドリシア夫妻から深々とお礼を言われた。
(なんかデジャブだな…。)
私は幼き日のカトレアを思い出していた。
「私どもは行けませんが、花がお好きだとアマリリスからお聞きしましたので、グリステン草原に案内させていただきます。…アスターおいで。」
伯爵が呼ぶと、扉からアスターが顔を出した。
「案内は私の家のものがしますので。…アスターいい子にするんだよ?」
「はい!お父様!」
「いい子だ、アスター。まずは長旅でお疲れでしょう。お茶を用意させますのでゆっくりしてください。…では失礼します。」
「はい!ありがとうございます。」
「チェル!この前はありがとう!おかげでお姉様と会うことが出来たし、帰ってこれました!」
「そっか〜!良かった良かった!偉いねアスター!ちゃんとお礼を言うのは大事だからね!」
「うん!…ところでこのお兄ちゃん誰?」
「ああ!このお兄ちゃんはね、私の友達!ライって言うの。一緒に遊びに来たからアスターもお兄ちゃんと思いっきり遊んでもいいよ!」
「よろしく。アスター。」
「…うん!よろしく、ライ!」
「お待たせしました。…!」
「ありがとうございます。…どうかしましたか?」
「いえ!なんでもございません!ゆっくりお過ごし下さい。」
(何を驚いてだんだろう?…うわぁ美味しそう!)
「ん〜美味しい!」
「チェル!これも美味しいよ!私これがお気に入りなの!」
「これ?…うん、美味しい!」
(前よりだいぶ心開いてくれたなぁ!嬉しい!)
ニコニコしながらアスターを見ていると、
「ご歓談中失礼します。グリステン草原に行く準備は整いましたので、行かれる際は私におっしゃってください。」
執事さんが報告に来てくれた。
「ありがとうございます。…じゃあさっそくお願いします。いい?アスター。」
「うん!いいよ!」
「じゃあ行こうか!」
「おい。俺は。」
「ライは聞かなくても来てくれるでしょ?」
「…まぁそうだけど。」
「ふふ、じゃあグリステン草原にレッツゴー!」
「ゴー!」
「はいはい。」
で現在。
「アスターもおいで!すごいよ!」
「うん!…チェル!この花は何?」
「この花はね〜!」
「ありがとうございます。アスター様を助けていただいて。」
「いえ、助けたのはチェルなので。俺はただの付き添いです。」
「あぁ。そうでしたか!失礼しました。アスター様が懐いておられたので。」
「いえ大丈夫です。今日初めて会いましたがいい子ですね。」
「えっ今日初めてアスター様とお会いになられたのですか!?」
「…?はい。チェルもこの前助けた日を合わせると二度目ですよ?」
「なんと!そうでございましたか…!」
「どうかしましたか?」
「いえ。アスター様が心を開いていらっしゃったのでもっと交流があったのかと思いまして。」
「フレンドリーな子ではないんですか?」
「はい。どちらかというと内向的でございまして、普段から心を閉ざしておられるのです。アスター様は大人びておられてしっかりものですから、無邪気にはしゃぐことやわがままを言うことも少ないのです。子供らしからぬ6歳児ともいわれておりました。長く勤める使用人でさえあのように笑顔を見せることはなかったのですが、今はあんなに笑ってはしゃいでおられて…!今はしっかりとした、うっ。普通の、ぐすっ。6歳児です…!うっうっ。私は嬉しいのです!」
「…そうなんですね。」
(ちょっとオーバーだな…。)
執事が急に号泣するのを少し引きながら話を聞いていた。
「ぐすん。申し訳ありません。取り乱しました。」
「いえ、大丈夫です。」
「ですが、初対面の方とあのように打ち解けることは無かったのです。貴方様方はアスター様にとって安心できるオーラが出ているのかも知れませんね。」
「そうなんですかね。でも心を開いてくれたのは嬉しいです。」
「アスター様をこれからもどうぞよろしくお願い致します。」
「はい。こちらこそ。」
「ライ〜?何してるの?」
「ライ〜!ライも一緒に遊ぼ!」
「ああ!今行く!…じゃあ失礼します。」
「…はい!ぐすっ。行ってらっしゃいませ…!うおーいおいおい。」
ライは執事の大号泣に引きながら、チェルとアスターの元に向かった。
「そういえば、メイミスってどこに咲いてるのかな?」
「記述によれば草原の奥にポツンとある木々の先の湖周辺にメイミスの群生地があるそうだ。」
「あれかな?…遠っ!」
「まぁただでさえ広い草原だからな。その奥ともなると、な…。」
「あそこ行くの?」
「うん。でもアスターはしんどいと思うよ?また今度にしようか!」
「大丈夫だよ!私行けるよ!」
「う〜ん。じゃあこまめに休みながら行こうか!」
「うん!行く!」
「よし!じゃあライ行こ!」
「ああ。分かった。」
「アスター大丈夫?」
「うん!ちょっと疲れたけど大丈夫だよ!」
「そっか!辛かったら言ってね?…まだあと半分くらいあるね。」
「ああ。4キロはありそうだったもんな。」
私たちは時々休んで、花を眺めながら歩いた。
アスターに聞かれた花の名前を教えたり、珍しい花を見つけて一人で飛び出して行きそうになっているのをライに止められたりして。私たちはいろんな話をした。
(なんか懐かしいな三人だけって。まぁ後ろに執事さんたちいるけど。)
そんなこんなで歩いていくと、
「はぁ〜…やっと着いた。この先なんだよね?」
「ああ。この先に湖があるはずだ。」
「遠かったね〜。」
「ほんと遠かった。アスターもよく頑張ったね!」
「えへへ!私頑張った!」
(何この可愛い子…!)
私がアスターの可愛さに悶絶してると、
「おっ?あったぞ湖。」
「うわぁ〜!セレニテ湖に負けず劣らずの綺麗さだね!」
「綺麗…!」
セレニテ湖よりはだいぶ小さいけど、とても綺麗な湖があった。
「あっ…!あれは!…見つけた、メイミス!」
湖の先に視線を向けると、光を浴びてキラキラ光る花畑があった。
「これが奇跡の花って言われてる花?」
「そうだよ!…すごい!こんな近くで見れた!」
「綺麗だね!」
「うん!すっごく綺麗!わぁすごいよ!本物見てるんだよ!私!」
「分かったから落ち着け。」
私たちはメイミスを気が済むまで観察した。
「さて、思う存分見たし!帰ろう…か?」
私が振り返ると、ライは口を押さえてしっ〜と言っていた。
「…?あっ。」
ライの後ろを覗くと、木にもたれかかってアスターが寝ていた。
「ふふ。アスター寝ちゃったか。よく遊んだもんね。」
「ああ。感謝しろよ?チェル。付き合ってくれたんだから。」
「うん。ありがとねアスター。ライも。」
「俺はついでか。」
「そんなわけないでしょ?呼ぶ順番の違いよ。」
ライはアスターをおぶると一緒に来た道を帰って行った。
「執事さん。アスター寝ちゃったので起こさないように家に帰してもらえませんか?」
「もちろんです!お任せください!」
「ありがとうございます。お願いします。」
ゆっくりと発車した馬車は静かにアスターの家に着いた。家に入ると、ちょうど伯爵が降りてきたところだった。
「今日はありがとうございました。私たちはこれで帰りますね。」
「もう帰られるのですか?もうこんな時間ですし、泊まっていかれては?」
「アスターにお別れを言えないのは残念ですが、明日もお店があるので。」
「俺も騎士団の訓練があるので失礼します。」
「そうですか…。本日はありがとうございました。アスターもとても楽しかったようです。」
「私たちもとても楽しかったです。また遊びに来させてください!」
「はい、いつでも。アスターも喜びますから。」
「ありがとうございます。ではまた!」
そう言って私たちは帰路に着いた。
帰ってすぐ私はアスターに感謝の手紙と花束を送った。
後日、マリーからとても喜んでいたと聞いて、また送ろうと思ったチェルだった。
「さて、困った。リアの誕生日プレゼントどうするか。」
近々リアの誕生日がある。
「う〜ん。最近リアオシャレさん何だよね。センス追いつくかな〜?プレゼントは形に残るものがいいんだよね?」
何がいいかな〜と考えていると、
「チェル姉ちゃん!何してるの?」
「うわぁ!?リ、リア?どうしたの?」
「…?何驚いてるの?」
「ううん!何にもないよ!」
(びっくりした〜…。口に出してたらやばかった…。)
「ねぇねぇチェル姉ちゃん!見てこの小熊!可愛くない?」
「可愛い〜!どうしたのこれ?」
「友達が自分で作ったんだって!すごく可愛く出来てるよね!」
「うん!すごく器用だね!首のリボンもかわい…はっ!」
「どうしたの?」
(テディベアいいんじゃない?あっいいかも!よし決まったぁ〜!)
「チェル姉ちゃん?なんでガッツポーズしてるの。そんなに気に入ったの?」
「えっ?う、うんそうだね!可愛いからね!ちょっと用事思い出したからまたね!」
「えっ?あっうん。バイバイ?」
私はリアと別れると、さっそく雑貨屋さんに寄った。
「うわぁ〜いっぱいあるね。どの子にしようかな。…この子にしようかな。すみません、この子下さい。」
私は会計を済ませると店を出た。
「リア。喜んでくれるかな?」
私はルンルン気分で家に帰る途中、
「あれ?ライ、ロッカ、ロッサ何してるの?」
三人が固まって何か話していた。
「チェルか。もうすぐリアの誕生日だろ?何がいいのか分からないんだ。リアは女の子だからな。」
そう話すライの胸元にはブローチが付いていた。
「「俺たちもさっぱり…。」」
「ああ。私も男の子にあげるプレゼントはすぐに思いつかなかったからなぁ。…あっライ、ブローチ付けてくれてるんだね。」
「ああ。せっかくチェルにもらったからな。」
「ありがとうライ!団長さんやロッカたちにも手伝ってもらって決めたから喜んでくれて嬉しいってそっか私も手伝うよ!」
「いいのか?チェルも選ばないといけないだろ?」
「ふふ〜ん!私はもう買ったからね!それに私も手伝ってもらったしね!」
「「おお!ありがとうチェル助かるよ!」」
「じゃあさっそく、女の子はアクセサリーとか小物とか喜ぶと思うよ?リアも最近オシャレさんだからそういうの喜ぶと思う。」
「「「なるほど。」」」
「参考になった?」
「ああ。ありがとうさっそく選んでくる。」
「「俺たちも!ありがとうチェル!」」
「うん。いいの選んであげてね?」
私はそう言うと家に戻った。
リアの誕生日当日。
私たちはライの時と同じように部屋を暗くして待機していた。
「ただいま〜!」
「「「「誕生日おめでとう〜!!リア!!」」」」
「きゃあ!?びっくりした!…ありがとうみんな!」
「「はい!リアプレゼント!」」
「ありがとう!わぁ!可愛いうさぎの置物だ!」
「アクセサリーとかをうさぎが持ってるお皿にしまえるんだ!」
「便利だろ?これからここにしまえよ?」
「うん、ありがとう!ロッカ、ロッサお兄ちゃんたち!」
「私たちは新しいワンピースよ!最近オシャレになってきたから大人っぽいワンピースにしてみたわ。」
「また、友達と遊びに行くのに着て行きなさい。」
「わぁ〜!素敵!こういう服欲しかったの!花柄がいいアクセントになっててとても綺麗!ありがとうお父さん、お母さん!」
「私にも見せてね!その服を着てるところ!」
「うん!楽しみにしててチェル姉ちゃん!」
「はい!リアちゃん私たちからは靴よ!ベリーがプレゼントした服と揃えたの!」
「その服を着る時はこの靴も履いてくれ!」
「ありがとう!おじさん、おばさん!とっても可愛い!新しい靴欲しかったから嬉しい!」
「俺からはヘアアクセサリーだ。…ちょうど良かったな。アルメリアがモチーフのヘアアクセサリーだからワンピースに合うだろうし、そのうさぎの置物にも置けるからな。」
「ありがとうお兄ちゃん!ふふふ!全身コーデ揃っちゃった!着るのが楽しみだよ!」
「はいリア!私からはこれ!」
「あっ!テディベア!花持ってる、可愛い!」
「この持ってる花束はまた部屋にでも飾ってね!…それとこれ。」
「…?リボン?」
「うん!それを首に付けて、名前をつけてあげて?名前をつけてリボンを首に付けた日がこの子の誕生日になるんだって!」
「じゃあ私と同じ誕生日の新しいお友達が出来るんだ!…じゃあ。」
リアはリボンを首に付けると、
「この子の名前はリアンにする!」
「リアン?可愛い名前だね!」
「ありがとう!私と名前が似てるから双子みたいでしょ?それに、リアンは繋がるとか絆って意味があるから、たくさんの人と繋がれたらいいなって意味も込めて!」
「そっか…。立派になったねリア!私嬉しいよ!」
「チェル姉ちゃんが感極まってどうするの。」
「あはは確かにね!そこはベリーの役目でしょチェル!」
「あっそっか。おばさんごめんね!」
「ふふふ。いいのよ!チェルちゃんもリアのお姉ちゃんだもんね?」
「はいはい。料理が冷めるから食べよう。」
「そうだね!リアちゃんの好きなものいっぱい作ったからたくさん食べてね!じゃあ。」
「「「「いただきまーす!!」」」」
こうして料理を食べながらいろいろ話してリアの誕生日会は終わり、それぞれに帰って行った。
「チェル。ありがとうな。リアも喜んでくれた。」
「ううん!私はアドバイスしただけだから!選んだのはライでしょ?」
「ああ。でもアドバイスもらえなかったら中途半端なものになってた気がするから。ありがとう。」
「うん!ちゃんとしたものを送れて良かったよ!…じゃあ私も帰るね!」
「また明日な。」
「うんまた明日!」
「リアも変わっていってる。私も、変わっていかなきゃ。…私はまだあの時のままだから。」
リアやみんなが少しずつ変わっていく中で私だけが止まったまま、みんなに置いていかれるのかもしれないと思うと少しだけ怖くなった。
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