7章 レーシェント家のお茶会
第7話
「皆様。本日はレーシェント家のお茶会にお越しくださりありがとうございます。ごゆるりとお過ごしください。…こちらは私の娘です。さぁカトレア。」
「はい。レーシェント家の一人娘。カトレア・レーシェントでございます。以後お見知り置きください。…こちらの飾られている花は私の友人が飾ってくれました。ぜひご覧ください。」
「うわぁ…。すごい人。カトレアはすごいなぁ堂々としてる。まぁルクシテーゼ貴族の中でも3本の指に入るほどだもんね。慣れてるのかな?…ってちょっと!私を友人って紹介しないで!あぁぁ…。貴族の友人が花屋の町娘なんて紹介出来ないでしょ!!なんで伯爵も許してるの!?」
「まぁ落ち着け。気持ちは分かるが。」
「落ち着けるわけないでしょ!!」
私が驚いて青い顔をしてると、ライが言った。どうしてライがここにいるかと言うと、このお茶会の警備で騎士団の人が来てるんだ。ライもここの配属になったみたいで今は騎士服を着て警備している。ロッカとロッサもここの警備みたい。
「お前がカトレア様を助けたのが大きいだろうが、カトレア様は貴族だからな。表面上の友人は多いだろうが、本心をさらけ出せる友人は少ないだろう。チェルは特に身分関係なく接してくれるからカトレア様も嬉しいんだろ。」
「…そう思ってくれるのは嬉しいけど。でもこれとそれとは違うでしょ!伯爵もノリノリだったし!」
私はドレスを指差しながら言った。私は何故かドレスに着替えて、髪もメイクもバッチリ決まっている。どうしてこうなったかと言うと、
遡ること3時間前…。
「よし!花たちはこれでいいかな?…じゃあお母さん行ってくるね!」
「うん、行ってらっしゃい!頑張ってくるのよ!チェルの腕の見せ所なんだから!」
「うん!まかせて!綺麗に彩ってくるから!」
私は飾る花を荷台に乗せて、
「こんにちは〜!先日依頼を受けた花屋のチェリー・ベネテーゼです。到着しました〜。」
私はレーシェント家の家の前に着いてベルを鳴らした。すると、重そうなドアが音を立てて開いた。
「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました。こちらへどうぞ。」
「ありがとうございます。」
「お嬢様。チェリー様がお越しになりました。」
「通して。…いらっしゃいチェル!待ってたわ!作業する前にお茶でもどう?」
「じゃあちょっとだけもらおうかな?」
「良かった!じゃあお茶とお菓子を用意して。」
「はい。かしこまりました。すぐに用意致します。」
「この前はあんまり話せなかったけど、カトレアは元気だった?」
「ええ!元気だったわよ!チェルにはなかなか会えなかったけど、充実してたわ!」
「そっか!良かった!私も充実してたよ!でもカトレアとこうやってまたゆっくり話せて嬉しい!」
「…!私も嬉しいわ!」
私がそう言うとカトレアはとても嬉しそうに抱きついてきた。私も抱き返して再開を喜んでいると、
「いらっしゃい。チェルちゃん。」
「…!!伯爵様!」
「ようこそ我がレーシェント家へ。前にも言ったが、その度はカトレアを助けていただき感謝する。」
「いやいやそんな顔をあげて下さい!!お礼も貰いましたし十分ですので!!」
「そうか。今回は屋敷やテーブルを花で飾ってくれるのだったな。よろしく頼む。」
「はい!お任せ下さい!」
「ところで、チェルちゃんもお茶会に出席すると聞いている。チェルちゃんに似合うドレスを用意しているから楽しみにしてなさい。」
「…え?いやいや私は出席しませんよ!?しかもそんな大事なお茶会で私みたいな一般国民が参加出来るわけないじゃないですか!」
「出席しないのかい?気にすることはない。カトレアも楽しみにしているからね。それに私としても歓迎するよ。作業が終わったらメイドに着替えさせてもらいなさい。ヘアセットやメイクなんかもやってくれるからね。じゃあ私は失礼するよ。」
「いやいやいや!待ってください!私は了承してません!伯爵様!!」
「はい。ありがとうございましたお父様!」
「あっ…行っちゃった。」
「パーティー楽しみね!チェル!」
「いやぁ〜!!!」
そして私はぶつぶつ文句を言いながら、花たちを飾り付けていった。
「私は出席しないって言ってるのに…あっこっちはチューリップがいいかな。伯爵もカトレアも話聞いてくれないんだから…こっちはアネモネにしようかな。…そして一番の目立つポイントの中央テーブル!…まわりをラナンキュラスとジャスミンで飾って。…真ん中をルピナスに。」
飾り終わると離れたところから見渡して、
「うん!上出来!…中央テーブルも綺麗に飾れたな。うん…綺麗。」
満足がいく出来に仕上がった。だから私は伯爵とカトレアに見つからないように、こっそり帰ろうと荷物をまとめて門を出ようとした。のだが…
「あら〜?チェルどこいくの?」
「カ、カトレア…。ちょっと家に忘れ物を取りに…。」
「あらそうなの?大丈夫よ!必要なら執事が取りに行ってくれるから!何を忘れたの?」
「え、えぇ〜と…。あっそうだ!メインの中央テーブルに一手間加えようかなって!だからその花を取りに行こうかと…!」
「中央テーブル?…まぁ!とっても綺麗だわ!さすがチェルね!これで十分よ!」
「いやほ、ほら差し色をね!入れたらもっといいかなって…!」
「う〜ん…。そうねこれでも素敵だけどチェルが言うなら家の庭園の花使ってもいいわよ?」
「えっ!?いや家から持ってくるよ!悪いし!」
「遠慮しなくていいのよ〜?」
「…そこまでして入れなくてもいいかもな〜。あっそうだ!道具置きっぱなしだった!ちょっと取ってくるね!」
「あら?チェルそっちじゃないわよ?こっちでしょ?」
「…。…そうだね。」
「あっもしかして終わったの?」
「えっ!?…い、いやまだ終わってないよ!?」
「チェル?」
「…終わりました。」
カトレアの圧力に負けて、私は認めた。
「どうしてそんなに嫌なの?」
「だって豪華で綺麗な人たちがいっぱいいるんだよ!?そんな中にこんな凡人が行けるわけないでしょ!?浮いちゃうよ!」
「大丈夫よ!全然浮かないわ!チェルはとっても可愛いもの!…違う意味で浮きそうだけど。」
「私は可愛くないよ!…ん?最後なんて言ったの?」
「ううん。何にもないわ。」
カトレアは何かぼそっと言ったけど聞き取れなかった。
「お父さんとお母さんとライたちと歩くだけでも浮いてるのに、お茶会なんて行けるわけないでしょ?ね?」
私はカトレアの同意を求めようと、念押しした。
(気付いてないのかしらこの子は。一番注目されているのがチェルだってこと。国内一の美少女とも言われてるのに…。こんな子が着飾れば誰も無視できないほど魅力的な子になるのに…。私はみんなに自慢したいのよ!こんなに可愛くて優しい友人がいるのよ!って。)
「何言ってるの。行けるわよ?…じゃあ早速、あなたたちお願いね!」
「「「はい!お嬢様!」」」
「うわぁ!いつの間に!…えっいや、ちょ、まっいやぁ〜!!離して〜!!」
で、今ここ!
「でも良かったじゃないか。いつだったか小さい頃どうして貴族じゃないの〜!って叫んでただろ?」
「あぁ…あれはいろいろあってね…。」
(記憶が戻って、落ち着いた頃普通の町娘だって事を知ってついね…。)
「でも私でも着飾ると少しは可愛くなるでしょ?」
「…あぁ。可愛いな。」
「…ふふ。ありがとう。…それにしてもカトレア挨拶が終わった途端、すごい囲まれてるね〜。」
挨拶が終わってから少し時間がたった今でもカトレアは人に囲まれている。特に男性に。
「まぁカトレア美人だからね〜!」
実はカトレアはルクシテーゼの中でも片手に入るほど、美人で美しいと言われてるの!…そうなの!私の周り何故か美人やイケメンが多いの!だから私の平凡さが際立っちゃって視線が痛いんだよね…。
「チェル!ここにいたのね!」
「あれ?カトレアもう終わったの?すごい人数だったけど。」
「うん。ちょっと切り上げてきちゃった。チェルに紹介しようと思って。」
「ん?誰を?」
カトレアが呼んだ先にいたのは、
(うわぁ…!すごく綺麗な人…。)
「こんにちは。お初にお目にかかります。私はアマリリス・ランモントと申します。」
「アマリリス…ランモント!?えっあの伯爵名家の!?」
「はい。ご存知だったのですね。」
「ご存知も何も国民で知らない人はいないと思いますよ!?」
「ふふ。ありがとうございます。」
ランモント家はカトレアと同じく伯爵名家でルクシテーゼの貴族の中で3つの指に入る名家なんだ。貴族のトップ3のうちの2つの名家の令嬢が目の前にいるなんて…。
「マリーは私の友人なの。チェルに紹介したくて。」
「なんで私に?」
「チェルも私の大好きな友人だから!マリーも会ってみたいって言ってたから。いい機会だと思って。」
「カトレア!私も大好き!」
「ふふふ。本当に仲がいいのね。えっとチェリーさん?」
「あっはい!チェリー・ベネテーゼです!ご挨拶が遅れてしまってすみません!」
「ふふ。いいのよ全然。私もチェルって呼んでいいかしら?」
「はい!好きなように呼んでください!」
「ありがとう。とても可愛いわね。ドレスも似合ってるわ。」
「いえいえ!アマリリス様の方がとてもお綺麗です!…ありがとうございます。メイドさんたちが頑張ってくれて!私でも可愛くなりました!」
「私もマリーでいいわ。気軽に呼んで?」
「いえ!そんなアマリリス様を愛称で呼ぶなんて…!」
「私もカトレアみたいに気軽に接して?ね?お願い。」
「うっ…。分かりまし…分かった。マリー。」
「ありがとう!チェル!」
「雑談中すみません。見回りの場所交代の時間なのでこれで失礼します。」
「ええありがとう。ご苦労様。」
「頑張ってね!ライ!」
ライは礼をして持ち場に行った。
「チェルは騎士の方とも知り合いなの?」
「うん。幼なじみなんだ!」
「そうなのね。チェルは顔が広いのね。」
「広いというか知り合いがすごい人が多いっていうか…。」
とまた喋っていると、
「あっ!カトレア様!お久しぶりです!」
「カリン様!お久しぶりです!」
「アマリリス様。お久しぶりでございます。お元気でしたか?」
「ミモザ様。お久しぶりでございます。はい。おかげさまで。」
カトレアとマリーにそれぞれ別の令嬢が挨拶に来た。
「知り合い?」
「うん。私の友人なの。」
「ええ。私の友人よ。」
「あっ申し遅れました。私はカトレア様の友人。モーナント国から参りましたカリン・モアテーラと申します。」
「私も失礼致しました。私はアマリリス様の友人。セルミンス国から参りましたミモザ・ミントワールと申します。」
「…えっ!!」
「ご挨拶ありがとうございます。ミモザ様。私はカトレア・レーシェント。この屋敷の令嬢ですわ。」
「はい。先程の挨拶で拝見させて頂きましたわ。」
「まぁ!ありがとうございます。」
「ご挨拶ありがとうございます。カリン様。私はアマリリス・ランモントと申します。カトレアとは友人ですので私も仲良くさせていただけると嬉しいですわ。」
「そうなのですね!ぜひ仲良くしていただけると嬉しいですわ!アマリリス様。」
(次は隣国の伯爵令嬢様!?どっちもとても綺麗…。私よりも二人の方がよっぽど広いよ!そりゃ貴族だから当たり前か…。でもその人達が凄すぎるよ!今も貴族の会話が…!)
「ェル…チェル!どうしたの?チェルも挨拶しないと!」
「あっ!そうだった!失礼致しました!私はチェリー・ベネテーゼと申します!貴族ではないですが、カトレア様とアマリリス様とは仲良くさせて頂いています!」
「まぁそうなの?」
「ええ。カリン様。先程の挨拶で紹介したこの屋敷を飾ってくれた友人ですわ。」
「あなたがそうだったのですね!とても美しい飾り付けですわ!」
「そんな!ありがとうございます!ミモザ様。」
「先程挨拶させていただく前に少し会話を聞いてしまったのですが、普段から砕けた口調で会話しているのですか?」
ミモザ様は不思議そうに私たちに聞いた。
「ええ。チェリーとは幼い頃から縁があって、愛称で呼び合っておりますわ。」
「私はつい先程知り合ったばかりですが、私も愛称で呼び合っておりますわ。」
「そうなのですね。…よろしければ私も愛称で呼んでも構いませんか?私、実はそういったものに憧れていて…。」
ミモザ様が照れたように言った。
「あっ私もお願いしたいですわ!」
「ええ!お二人がいいのであれば是非!ね?チェル、マリー!」
「ええ。喜んで!」
「えっ!?いや私が呼んでいいの!?」
「「ぜひお願いします。チェリー様!」」
「いや様呼びはやめて下さい!…分かりました。カリン様とミモザ様がよろしいのであれば。」
「ありがとうございます!ではさっそくチェル?」
「何?ミモザ。」
「わぁ…!ありがとうチェル!」
「私も!チェル!」
「何?カリン。」
「うわぁ〜!嬉しい!ありがとう!」
その後、カトレアとマリーとも呼び合っていた。このお茶会でこんなにすごい人たちと友人になれるなんて思わなかった…。
カサッ
「…ん?」(今誰かこっちを見てた?)
「どうしたの?チェル。」
「ううん。何でもないよ!カトレア。」
(気のせいかな?騎士の人たちが通っただけかも知れないしね。)
私はその予感が当たっていることに気づかなかった。
「もう夕方ね。時間が経つのが早いわ。」
「マリーの言う通りあっという間だったわ!こんなに早く時間が過ぎたの初めてよ!」
「ええ。私も初めて!とっても楽しかったわ!」
「ふふ。カリンもミモザも楽しんでくれたようで良かったわ!…そうだわ!また集まりましょう!私の別荘に遊びに来ない?」
「わぁ!賛成!私当分こっちにいるの!お邪魔させてもらうわ!」
「私もカリンと同じなの!私も行くわ!」
「私の別荘もあるから遊びに来て?カトレアとはまた違ったところにあるから違う楽しみ方があるわよ!…あぁそれに私の親戚の家の近くには草原があるからそっちでもいいわね!まだ小さい女の子がいるのよ。」
「そうなの!楽しみだわ!」
「ええ!今から待ちきれないわ!」
「カトレアもマリーも別荘持ってるの!?すごいね!もちろん私も行く!」
またみんなで集まれると分かって喜んでいたけど、
「ねぇ、カトレア。これもう脱いでいい?」
「もうお茶会も終わりだし、いいけど。どうして?」
「そうよ。似合ってるのに。」
「他の男性方も釘付けだったわよ?」
「うんうん。」
カトレアもマリーもカリンもミモザも口々に言った。
「落ち着かないんだもん。釘付けになってたのは私じゃなくてみんなだよ!だってとっても綺麗だもん!お茶会に来ている人の中でみんなが一番綺麗だよ!」
「「「「…!ありがとう。」」」」
「じゃあ着替えて来るね!」
((((天然タラシだわ…。))))
着替えにみんなと離れた私は着てきた服に着替えて戻ろうとした時、
「きゃー!!助けて!」
「「「きゃー!!カトレア!誰か!!」」」
「…!?カトレア!?みんな!」
カトレアたちの叫び声が聞こえた。
(やっぱりあれは気のせいじゃなかったんだ!)
私は身近にいた人に騎士団を呼ぶように伝えると全速力で走った。
元いた場所に着くと複数人の黒尽くめの男がいてカトレアを連れて行こうとしていた。
「…!カトレアを離せ!!」
「チェル!危ない!逃げて!」
私はカトレアを助けようと飛び込んだ。
「ライ!!その先だ!」
「あぁ!分かってる!」
ライとロッカとロッサたちは、一緒に見回っていた時に叫び声が聞こえたと言う報告を聞いて急いで向かっていた。
「…なっ!チェル!!」
曲がり角を曲がった先にいたのは、チェルたちだった。しかも今、チェルが黒尽くめの男たちに飛びかかっているところだった。
「チェル!無茶しやがって!」
「ほんとだよ!無茶して!」
(くっ…。間に合わない!)
「チェル!!戻れ!」
「はぁ!!」
「ぐっ…。」
「…なっ。」
ライが着くとチェルが男に回し蹴りを決めていた。
「…ライ!?」
「…危ない!!」
私がライに驚いて振り返った瞬間別の男が切りかかってきたが、ライが斬り伏せた。
「よそ見をするな!」
「うん!ごめんね!」
そして私とライは他の男たちを次々倒していった。
「「はぁ!!」」
「これで最後だね!」
「…あぁ。ほんと流石だよお前。」
ライが呆れたように言った。
「えっ?そう?えへへ!」
「褒めてない!いいか!今回は無事だったから良かったものの怪我したらどうするんだ!それにまた突っ込んで怪我じゃ済まなくなったらどうする!」
「ご、ごめんなさい…。」
「ほんとびっくりしたんだから!」
「ちょっとは自分の身を大事にしろ!」
「ロッサ、ロッカ!二人もごめんね。」
「もう…。まぁお嬢様方を守ってたけど二人が倒しちゃったから出番なかったんだけどね?」
「ほんとだよ!せっかく走ってきたのによ…。」
「あの…騎士様ありがとうございました!チェルもありがとう!」
カトレアは私に抱きついてきた。
「いえ。当然の事ですから。」
「カトレアが無事で良かった〜!大丈夫?怪我ない?」
「…うん!ありがとうチェル!」
「あぁ泣かないで〜!」
男たちは騎士団に連行されて、お茶会はお開きになった。私はライと一緒に帰り道を歩いていた。
「ライ。今日は助けてくれてありがとう。」
「お前次からはああいうことはするなよ。」
「どうして?私も戦えるよ?」
「そう言う問題じゃない!さっきも言ったが怪我で済まなくなったらどうするんだ!…一人で行かないでくれ。」
「ごめん…。心配かけて。次からはライが来てから戦うね。」
「だから…!まぁまだましか。約束だからな!」
「うん!約束!」
私はライと約束して家まで帰った。
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