5章 約束

第5話

学園祭2日目

この日もカフェ「Lupinus《ルピナス》大盛況だった。昨日よりも増えたぐらい。

「なんか昨日よりも増えてない?」

「当たり前じゃない!ジャスミンとラナンキュラスがそれぞれいるんだから!まだ増えるわよ。」

「…マジか。」

とクラスメイトも引くくらい。

「うわぁ〜ん!忙しい〜!」

「仕方ないわ。みんな見たいもの。校内一の美女と校内一のモデル。」

今は、休憩中。すごく忙しくてしおに愚痴を聞いてもらっている。

「ほれ。ジュース。あともうちょっとで交代だ。頑張れ。」

「ありがと〜!香、気がきく〜♪うん!頑張るよ〜!」

「ふっ。単純。ほい、しお。」

「ありがとう。もう一息ね。」

「さあ!やりますか!」

そして目まぐるしい1日が終わる頃にはみんなクタクタになっていた。

「や、やっと終わった…。」

「うん…。あとはもう後夜祭だけだよ…。」

「…後夜祭、もう行くのもしんどいんだが。」

「「「「同感〜…。」」」」


「はぁ疲れたね。さすがに。」

「あぁ。次から次へと人が入ってきたからな。」

「写真も材料も完売だったもの。それに何度も買い出しに行ったしね。」

はぁ〜とみんなでため息をついて、

「よし!後夜祭行こう!キャンプファイヤーして、フォークダンスすれば終わりだ!…で、別日に慰労会兼ねてのパーティーだ!」

学級委員長の一言におぉ〜!と声を上げ、ぞろぞろと動きはじめた。

「私たちも行こ!」

私は二人の手を取り、みんなの後に続いた。


「あっ!香花先輩!咲良先輩と詩音先輩も!」

「ん?あっお疲れ様〜!今日大変だったんじゃない?」

「ありがとうございます!はい!今日はみなさんいっぱい来てくださって!先輩達も…お疲れ様でした…。」

後輩ちゃんは嬉しそうに言った後、私たちのクラスみんなを見て苦笑した。

「あはは…。みんな疲れ切っちゃってて。今日は特に忙しかったからね〜。」

「そうですよね…。みなさんこそ大変でしたね…。」

「でも今日の成功祝いにパーティーするみたいだからさっきより元気だよ!」

「そうなんですね。良かったです!楽しんでください!」

「うん!ありがとう〜!」

「そういえばこの後どうするんですか?」

「えっ?う〜ん。どうする?」

「そうね〜。特に何も決めてなかったけど。」

「あぁ。俺もだ。」

「って感じだけど、どうしたの?」

「あっあの、フォークダンス一緒に踊って欲しくて…。」

「あぁ!香と?だって香。」

「えっいや。俺は…。」

「あとで私とも踊ってね!」

「…えっ?あぁもちろん!」

「じゃあしお踊ろ!」

「ええ。いいわよ。」

私はしおの手を引いて輪の中に入った。

「咲。もう成長したのね。」

「ふふん。でっしょ〜!一人で考え込むのは私らしくないと思って。だったら私が思うまま行動して悔いが残らないように!って。私単純だから!」

「それでいいのよ。深く考えすぎるとぐるぐる無限ループだもの。単純が一番よ。もし辛かったり、悲しい時も一人で考え込んじゃだめよ。私がいるんだから安心して突っ走りなさい。」

「…うん!ありがとうしお!」

「さあ、香のところ行ってきなさい。香が待ってるわ。」

「うん!言ってくる!」

(ほんと困った二人ね。香も香で咲から誘われた時、隠しもしないで嬉しそうにしてたし。曲の終盤ちらちらこっち見てたしね。今も嬉しそうにしてるわ。…まぁ二人が幸せならいいけどね。)

しおは苦笑しながら、手を振って見送った。


香は耳をかきながら待っていた。

「香!お待たせ〜!じゃあ行こ!」

「あ、あぁ。」

私たちは輪の中に入って踊り出した。

「二人で踊るのって初めてじゃない?」

「そうだな。いつも三人でいたからな。」

「なんか変な感じだね。」

「そうだな。」

「あっ!香花くん!一緒に踊ってよ!」

「あっ私も!」

私たちが踊っていると他の子が香を誘った。

「いや。今咲と踊ってるからまたにしてくれ。」

「…!香。」

「え〜!…しょうがない。あとで踊ってね!」

「あぁ。悪いな。」

「いいの?あの子たち断って。」

「今は咲と踊ってるし、…咲と踊る方が大事だし。」

「えっ?最後なんて言ったの?」

「なんでもない!」

「えぇ〜!まぁいっか。ありがとう香!」

誘いを断って私を選んでくれたことが、何故かどうしようもなく嬉しかった。


「咲たち元気ね〜…。」

「ああ。踊る元気ないわ〜。」

「どっから出てるのかしらね。あの元気。」

「でも、ベスト・オブ・フルール賞は確実でしょ。」

「そりゃ当たり前だろ。あんなに働いたのに取ってなかったらどんだけそのクラスすごいんだよ。」

「「「「だよね〜。」」」」

「ていうか私たち今生きる屍みたいになってない?」

「はは。確かに。燃え尽きたわ。」

「今日はよく寝れるわ〜…。」

「「「「それな〜…。」」」」

みんなは木陰で休みながら、フォークダンスを踊っている輪を死んだ目で見ていた。

こうして怒涛の目まぐるしく、気持ちの成長が少し出来た2日間だった。…それと燃え尽きた生きる屍を作り出した2日間だった。



後日。

「お疲れ様パーティー(慰労会・・・)に集まってくれてありがとう!全員来れて良かったよ!いや〜みんなよく頑張った!ベスト・オブ・フルール賞も無事取れたし!今日はめいいっぱい羽を伸ばしてね!カンパーイ!!」

「「「「カンパーイ!!!!」」」」

「いや〜みんな来れて良かったね〜!お疲れ様パーティー(慰労会・・・)に!」

「ああ!ほんとにみんなでカンパイできて良かったな!お疲れ様パーティー(慰労会・・・)で!」


「…みんな慰労会をすごい強調してるね。」

「それだけ疲労が溜まってたんでしょうね。」

「まぁお疲れ様パーティーという名の慰労会みたいなもんだしな。」

「…そっか。みんなすごい頑張ってたもんね。私もあの日はぐっすりだったよ。」

「みんな死んだように寝てたって言ってたわよ。」

「慰労会を強調したくなる理由は分かるな。」

私としおは苦笑しながら頷いた。

私たちのクラスは過去最大と言っても過言ではない売り上げだったみたい。

みんなの働きと宣伝と売り捌くのが職人級だったこともあるのかも。ほんとこのクラス本気出せばなんでもできるなぁ。

何事も全力で、仲間思いで、優しいみんなが大好きだな。みんなで団結すればするほど絆も深まっていってよりそう思った。だから、

「みんな!卒業してもまた会おうね!」

「あぁ!また会おうぜ!」

「まだちょっと早い気がするけどね!」

「クラス替えがあるからなぁ。今のままがいいな。」

「ほんと、最後だから先生聞いてくれないかな?」

「言ってみるか!もしかしたら聞いてくれるかも!」

「あはは!いいね!こんなに気が合うクラスなかなかないしね!」

私はみんなに言ったんだ。香としおにも。

「香もしおもこれからも一緒にいてね!」

「ええ。一緒いるわ。」

「あぁ。当たり前だろ。」

今が幸せで、今みんなとその幸せを分かち合えて、これからのこと想像して笑い合えていたから。

…でも、この言葉が、この約束が叶わないことを私は知らなかったんだ。



「おはよ〜!香、しお!」

「なっ!?咲!?」

「えっ!咲!」

休み明け、私はちゃんと起きて支度をして香としおを待っていた。

「ふふ〜ん。びっくりした?早くみんなに会いたくて!」

「びっくりしたわ。だって咲いつもギリギリだもの。」

「いつもそうだといいんだがな。パーティーの時の影響か?」

「うん!みんなのこともっと好きになったから!なんか早く会いたくなって!」

「そう。じゃあもう行きましょうか?」

「うん!行こ!」

学校に着くと、香の下駄箱にお菓子が入っていた。

「ん?お菓子?誰から?」

「あぁすみれからだ。」

「菫?誰それ?」

「お前が言ってる後輩ちゃんだ。」

「あぁ!あの子菫って言うんだ!…香は菫って呼んでるの?」

「あぁ。後夜祭の時に教えてくれたんだ。他人っていうには喋ってるし、名前知ってるなら呼んだほうがいいだろ?」

「…そうだね。そっちの方が嬉しいもんね。あっ教室先いくね!」

「…あっ!咲、待って!」

「えっ?おい!待てよ!」

(今まで香が私としお以外に女の子を名前で呼んだことなかったのに…!)


ガララッ

「あっ!咲おはよ〜!」 「おはよ〜!」

「あっ…。おはよう!みんな!」

「ん?どうかしたの?」

「ううん。何でもないよ!」

「…咲!」

「あっ…。しおごめんね。」

(これは重症だわ。香のばか!何でそんなことするのよ!…これは咲に気持ちを気づかせた方がいいのかしら?でも混乱するだけよね…。)

「おい!急に置いてくなよ!」

しおは、香をキッと睨むと

「香なんか知らないわ。」

と言って席に向かった。

「…急に何なんだ?」

香は急な態度の変化に戸惑うだけだった。


「…咲。」

「あっ…。しお。…ダメだね私。一人で考え込んじゃダメだって、元気で突っ走るって決めたのに…。」

「咲…。」

昼休み、私は校舎裏の木陰に座っていた。モヤモヤしてちょっと一人になりたかったんだ。

しおは何も言わずに私の隣に座って、頭を撫でてくれた。

「…あれ?咲に詩音どうしたの?こんなとこで。」

座っていると、クラスの学級委員長の子がひょっこり顔を出した。

「えっ?…あっちょっと気持ちの整理をしたくて…。」

「そっか。…私もね一人になりたくてちょっと出てきたんだ。」

「…そうなの?」

「…うん。ちょっと彼氏と喧嘩しちゃったんだ。…彼が他の子と仲良くしてるのを見てね?最初は友達同士の会話だと思ってたんだ。でもそれが長く続いてて、私不安になっちゃったんだ。その子に取られちゃうんじゃないかって。だからその子と仲良くしないでって言っちゃったんだ…。それで…。」

「そうなんだ…。ごめん、こんなこと聞くのは悪いけど…それでも一緒にいたいと思うの?悩んで、辛い思いしてるのに…。」

「…うん。それでも一緒にいたいんだ。私は悩みが尽きないし、私のことを好きでいてくれてるのか不安だし、いつか愛想尽かされそうで怖いけど…。それでもね。彼といる時間が楽しいんだ!この葛藤が小さく思えるくらい。私は彼が大好きなんだ!」

「そっか…。ねぇ好きって何?私がみんなのことが好きって言ってるのとは違うの?」

「…!…うん。違うよ全然。咲が私たちを好きって言うのは友達として。だから他の子と仲良くしてても悩まないし、むしろその子との恋を応援出来るほどだよ。…でもね。私が彼に向けての好きはもっと深いもの。私には彼しかいないし、彼の行動や言葉で嬉しくなったり、悲しくなったりするの。彼の代わりはいないの。だから他の子と仲良くしてるのにやきもちやいて喧嘩しちゃったんだけどね。」

「…!そうなんだ。ありがとう、話してくれて。」

「ううん。私も話聞いてくれてスッキリしちゃった!彼への気持ちを再確認できたから。ありがとうね!」

「…うん!じゃあ私行くね!…しおはどうする?」

「私はもう少しここにいるわ。」

「そっか!じゃあ後でね!」

私はしおに手を振って教室に戻った。


「咲も、恋してるんだね。」

「ええ。でも恋が分からなくて悩んでたの。でも今日少し自分の中の気持ちに気づき始めたんじゃないかしら。…ありがとう。私じゃどうにもできなかったから。」

「えっ!いやいや私も何もしてないよ!ただ話聞いてもらっただけだから!…でも力になれたなら良かったよ!」

「ふふ。私たちも戻りましょうか?」

「そうだね。戻ろう!」

それから二人も教室に戻った。


(あの話私が悩んでたことと似てたなぁ。じゃあ私が香に感じてる感情はみんなに向ける好きとは違うんだ…。じゃあ何だろう。)

私は授業を受けながらぼんやり思った。


「それは恋じゃない?」

「…えっ?」

休み時間、私に用があった子とそのまま雑談してた時にそれとなく聞いてみた。

「異性でしょ?なら恋よ!その人を恋愛的に好きなのよ!」

「…そうなんだ。ありがとう。」

「いいえ〜!頑張ってね!」

「…えっ!?私じゃないよ!」

「何言ってるの。大体そういうのは自分のことよ。」

「…そうなの?」

「そうよ。頑張ってね!じゃあ行くわ。」

「うん!ありがとう!」

(恋愛的に?…香のことを好きって事?いやいや香のことは好きだけど、恋愛的に見たことなんて無かったのに…。)

余計に分からなくなった。


次の日。

(うぅ。眠れなかった…。)

あれからぐるぐる考えてて結局眠れなかった。

「どうしたの?咲、眠れなかったの?」

「うん。ちょっと考え事してて…。」

「咲が考え事か?珍しいな。すぐに考えることやめて寝る咲が。」

「…そ、うだね。おかしいよね…。」

「…?」(どうしたんだ?)

(うぅ〜。香ともうまく喋れない…。)

少しギクシャクしたまま学校に向かった。


「ん?またお菓子だ。」

「…菫ちゃんから?」

「あぁ。…手紙も入ってるな。」

「…そうなんだ。」

(香のばか!咲のことが好きなくせに何で咲の気持ちが分からないのかしらね!もう!この鈍感!咲もだけど!)

そして気まずいまま放課後になった。

今日は香が部活がなくて、一緒に帰る予定になってる。

(はぁ…。気まずいな。こんなこと思ったこと今までないのに…。早く元に戻らなきゃ。)

「しお。帰ろう?…あれ?香は?」

「さっき予定があるから、ちょっと待ってろって言ってどっか行ったわよ?」

「そうなんだ。ちょっと探してくるね。」

(どこいったんだろう?予定って?)

香を探して校舎裏に行くと、

「あっ!いた!香か…

「香花先輩が好きです!付き合ってもらえませんか!」

える、よ?…えっ?」

香の姿を見つけて呼ぶと、菫ちゃんがいて…告白していた。

「…!?咲!?」

「…あっ。ご、ごめんね!」

私は走って教室に戻ると

「しお!帰ろう!」

「えっ?香は?」

「まだかかるって!先に帰ろ!」

「え、ええ。」(何があったのかしら。)

(菫ちゃんが告白してた!香に好きって…!いやだ!香がいなくなる!菫ちゃんに取られちゃう!)

『私不安になっちゃったんだ。その子に取られちゃうんじゃないかって。』

「…あっ。」

『彼といる時間が楽しいんだ!この葛藤が小さく思えるくらい。』

『私には彼しかいないし、彼の行動や言葉で嬉しくなったり、悲しくなったりするの。』

「そっか…。私は…。」

(香が、好きなんだ…。小さい頃から…。ばかだ…。今更気づくなんて。)

「しお。やっと意味がわかったよ…。」

「えっ?咲?」

(たとえ香が菫ちゃんを選んだとしても。)

「『それでも一緒にいたいんだ。』」

「…咲!!」

「…えっ?…香!なんで?菫ちゃんは?」

「はぁ…。はぁ…。やっと追いついた…。…菫はまだ学校にいるんじゃないか?」

「なんで菫ちゃん置いてきちゃうの?」

「俺には菫より咲が大事なんだ!!」

「…!…えっ?」

「菫にはちゃんと断ってきた。」

「…そうなんだ。」(良かった。)

「だから一緒に帰ろう。」

「うん!」

(…咲。気づいたのね。自分の気持ちに。…なら、私は。)

「私は先に帰るわ。…〔しっかりやるのよ。〕じゃあね。」

「…分かってるよ!」

「…えっ?しお!」

しおは香に何かぼそっと告げると先に行ってしまった。

「行っちゃった…。そういえば、何で断ったの?」

「…あぁ。…それは、他に大事な人がいるからだ。」

「…っ!…そ、うなんだ。」(菫ちゃんの他に大事な人がいるんだ…。)

「小さい頃から好きだったんだ。それは…ずっと一緒にいた咲だ。」

「…っ!わ、たし?」

「あぁ。ずっと好きだったんだ。」

(どうしよう…!嬉しい!香も同じだったなんて…!)

「私も…えっ?」

私も香に今気づいたばかりのこの気持ちを伝えようと顔をあげるとしおが横断歩道を歩いていた。その奥にライトがちらりと見えた瞬間。私は全速力で走り出した。

「しお!!危ない!!!」

ドンっ!

「えっ?咲?」

キキィードン!!!

私はしおを押した後、トラックに轢かれた。

「…さ、く?咲!!」

「キャー!!学生がトラックに!」

「おい!大丈夫か!?君たち!救急車を!早く!!」

「「は、はい!」」


「…し、お?ぶ、じ?」

「ばか!!何でかばったの!!」

「ふ、ふ。しおも、私が、同じ目にあった、らかばったで、しょ?」

「…〜っ!ばか…ばかぁ…。」

「な、かないで?しお。私も、かなし、いから。」

「〜っう。な、いてないよ。汗、だもの。」

「ふふ。そっ、か…。」

「…!!〜っ咲!!」

(最後に香に伝えたかったな…。せっかく好きって言ってくれたの、に…。)

「あ、りがと。しお、ごめ、ん…ね。」

「私を置いて行かないで!!咲!!…〜!」

こうして私はみんなとの約束も、香としおとずっと一緒にいるという約束も…香と一緒にいたいという願いも叶うことなく、短い人生を終えた。

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