2章 負けられない体育祭

第2話

「咲〜。それここに持ってきて。」

「OK〜。…よいしょ。」

花宮高校の生徒は、明後日の体育祭に向けて準備をしていた。

「このテント立てる?」

「これ古いからゆるくなってるの。締め直さないといけないからまだ立てなくてもいいよ。だから咲は、テントの布取ってきてくれる?」

「分かった!まかせといて。」


「…ん?あれは…。」

私は、テントの布を取りに行って戻ってくる途中で香と後輩ちゃんを見かけた。

(何してるんだろう?)

「香〜!何してるの?」

「…ん?あぁ咲か。いや困ってたから手伝ってだんだ。」

よく見ると、香の手にはダンボールがあった。

「そうなんです!重くて困ってたら、香花先輩が助けてくれて!」

「…へぇ〜!そうなんだ!やるね〜香!…じゃあ私はこれ持ってくからまたね!」

(なんだろう…。もやってした…。)

私は頭を振ると、気持ちを切り替えた。


「持ってきたよ〜!…あれテント立てたんだね。」

「咲ありがとう!そうみたい。私も今戻ってきたところだから。その布は向こうのテントのだね。そのまま持って行ってくれる?」

「了解〜!」

私は持っていこうと背を向けると、

「咲!!危ない!!」

「…え?」

ガシャーン!!

私が背を向けた瞬間、後ろにあったテントが私に向かって倒れた。

「…っ!!…?」

(あれ?…痛くない。)

おそるおそる目を開けると、

「香!?」

「大丈夫か?咲。」

香がテントを支えていた。

「大丈夫!?咲!」

「うん!大丈夫。香がテント支えてくれたから。ありがとう香。」

「…はぁ。気を付けろよ。」

「ごめん。」

「ごめん!ゆるくなってるのに気づかなくて立てちゃったんだ!」

このテントを立てたクラスメイトが走ってきて言った。

「なんともないから大丈夫だよ!」

「ほんとにごめんな!」

(…またドキドキしてる。ビックリしたせい…?)

「…?咲さっきからどうしたんだ?なんかおかしいぞ?」

「…え?なんかおかしい?いつも通りだけど。」

香は私に近づくと、額に手を当てた。

「ちょっと顔貸せ。…熱はないか。咲無理するなよ?」

「…うん。」


「咲!大丈夫!?テントが倒れたって聞いたけど!」

「しお。…うん。大丈夫…。」

「…?どうしたの?顔真っ赤よ?…熱はないけどちょっと休みなさい。」

「え?…分かった。」

(どうしたんだろ私…。)

咲はいつもと違う感情が分からなくて戸惑っていた。



体育祭当日。

パン!パン!

『これより、花宮高校体育祭を開会します!』

「よーし!みんな頑張るよ!」

私はクラスみんなに声をかけた。

「「「「お〜!!!」」」」

「香!200メートル走の順位が高い方が勝ちね!」

「走る相手で不利になるじゃねえか。」

「それはハンデよ!」

「それでいいのか。同等の勝負じゃなくなるぞ。」

「でも香なら誰が相手でも負けないでしょ?」

「…!…それじゃあまた引き分けだぞ。」

「あっ!そっか!まぁその時はその時よ!」

「お前なぁ…。」

香は呆れたように言うと、ぼそっと呟いた。

「……あれは反則だろ。」

「ん?何か言った?」

「…なんでもない!」

(…?へんなの。)


それから順調に2組は勝ち進んだ。

「しお〜!頑張れ〜!」

「詩音ちゃ〜ん!頑張って!」「詩音様〜!」

今しおは借り物競争に出ている。

「…!」

(何引いたのかな?キョロキョロしてる。…あっ!こっち来た!)

「咲!一緒に来て!」

「えっ?私?」

私はしおについて行った。

パンッパンッ!

『1着2年2組です!…お題は親友!」

「しお〜!大好き!」

私は嬉しくてしおに抱きついた。

「ふふっ!私も大好きよ!」

『なんという親友ぶりでしょう!いや、親友以上ですね!これは間違いなくお題達成です!』

「おめでとう〜!」「すごい!」「早かったね〜!」

「ありがとうございます。」

みんなからの歓声を受けて、私たちはクラステントに戻った。

「おつかれ。しお、咲。」

「ありがとう。香ももうすぐでしょ?頑張ってね。」

「あぁ。」

『女子200メートル走に出場する選手は、入場門に集合して下さい。』

「あっ!私だ!行ってくるね!」

「行ってらっしゃい。頑張ってね。応援してるから。」

「ありがとしお!」

「頑張ってこい。俺に負けないようにな。」

「絶対負けない!じゃあ行ってきます!ありがとね香!」


「次の走者は準備して下さい。」

(よし!1着ゴールだ!)

『位置について、よーい…。』

パンッ!

私は勢いよく走り出した。

そして、

パンッ!パンッ!

『1着!2年2組!』

「やった〜!1着ゴール〜!」

「おめでと〜咲!」「おめでとう!」「いい走りっぷりだったね!」

「ありがとうみんな!」

(あれ?香は?次出番なのに。)

見渡すと、

(あっ。また後輩ちゃんといる…。あっこっちに気がついた!)

「咲!1着だったな。じゃあ俺も1着でゴールしないとな。」

「香花先輩!頑張って下さい!私応援してます!」

「あぁ。ありがとう。」

「…そうだよ!これで1着とらなかったら香の負けだからね!」

「分かってるって。じゃあ行ってくる。」

「うん。行ってらっしゃい!」

(なんかモヤモヤする…。)

私は香を見送ったあと私はテントに戻った。


「おかえり咲。凄かったね!1着ゴールおめでとう!」

「しおただいま。ありがとう!」

「…どうしたの?なんかあった?」

「…!なんでもないよ!大丈夫!」

「そう?なんかあったらすぐ言ってね?」

「うん!ありがとうしお!」

「あっそろそろ香の番だよ。」

「ほんとだ!香〜頑張れ〜!」

「香花様〜!頑張って〜!」「香花く〜ん!」

香の出番になった途端黄色い歓声が上がった。

香は私を見つけるとこっちをみて笑った。

「…!」

自分でも顔が熱くなるのが分かった。

(なんで顔が赤くなってるの?私。)

グルグル考えていると、

パンッ!

ビクッ(始まったんだ…。)

香はぐんぐん追い抜いて、1着でゴールした。

「きゃ〜!カッコいい〜!」「香花様〜!素敵〜!」

(…カッコいい。…えっ?今、なんて思った?)

「見たか咲。俺も1着だぞ。…咲?」

「あっうん。そうだね。また引き分けだね!」

「どうしたんだ?最近変だぞ?」

「何でもない!」

(ほんとにどうしちゃったの私?)


体育祭は無事に終わり、2年2組は一位をとったのだった。でも咲は香に感じる新しい気持ちに混乱するばかりだった。

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