第4章 第5話: 「エミリーの帰還と驚きの告白」

しばらくの間、私はただぼんやりと市場の中心で立ち尽くしていた。エミリーが突然馬に乗って逃げ出すなんて、まさかそんなことが起こるとは思いもよらなかった。


「まったく……ここにいても仕方がないわね。」

私はため息をつき、鎮光(しげみつ)とお怜(おりょう)に声をかける。


「とりあえず、屋敷に戻りましょう。」



私たちは静かに屋敷に戻ることにした。エミリーがどこに行ってしまったのか、まるで見当がつかないが、追うべきかどうか悩む余裕すらなかった。


しかし、屋敷に到着した私たちの目の前に、なんとエミリーが再び現れた。しかも、追っ手を引き連れて――。


---


「また!? もう何なのよ、エミリー!」

私は呆れながらも状況を確認する。エミリーは、いつものように鎮光の後ろに素早く隠れ、彼に助けを求める視線を送っている。


「鎮光サン、タスケテ……!追手ガ、マタ来タ……」

彼女は息を切らしながら訴えるが、その表情には少しも緊張感がない。



「……もう、仕方ないわね。鎮光、助けてあげなさい。」

私は半ば呆れながらも、鎮光にエミリーを守るように頼んだ。鎮光は無表情のまま、剣の柄に手をかけ、追手たちに向き合う。



しかし、その時、追手の中から初老の紳士がゆっくりと歩み出てきた。彼は立派な身なりをしており、穏やかな表情で私たちに向かって話しかけた。


「皆さん、申し訳ございません。この娘はまさに商船から逃げ出したお嬢様です。」


その言葉に私は驚いた。やはり、エミリーは本当にお嬢様だったのだ。初老の紳士は続けてこう言った。


「エミリーお嬢様!フィアンセ様が船で待っております。ですから、早急に戻るようにと――」



その瞬間、エミリーが再び流暢な日本語で大声を上げた。


「あんなデブの嫁なぞなるか!絶対にイヤ!」


私は思わず目を見開いた。さっきまでカタカナ交じりだった日本語が、またもや悪口を言う時だけ流暢になっている……。もう、このパターンには慣れてきたものの、それにしてもあまりにも堂々とした拒絶に驚くばかりだ。



「フィアンセと結婚なんてゴメンナサイ!ワタシ、アナタト結婚スル!」

エミリーは、鎮光の腕をぎゅっと掴み、瞳を輝かせて言い出した。


「……私と?」

鎮光は一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐにまた無表情に戻り、静かに答えた。


「申し訳ございませんが、私は姫様に仕える身。身分が違えば、一緒にはなれません。」



その言葉を聞いたエミリーは、一瞬戸惑ったように見えたが、すぐに肩をすくめて不満げな顔をした。


「身分ガ違ウ……?ナンデ、ソンナコト……」


彼女はぶつぶつと文句を言いながらも、鎮光の言葉には反論できなかったようだ。



しかし、私はそのやり取りを聞いて、思わず胸が少し締め付けられるような気持ちになった。**「身分が違えば、一緒にはなれない」**――その言葉が、私にとってもどこか寂しく響いた。鎮光に対して感じる微妙な気持ちを、私はまだ整理しきれていなかったけれど、その一言は私の心を静かに揺らした。



お怜はそんな私を見て、相変わらず面白がるかのようにニヤニヤと笑っている。


「お姫ちん、こりゃまた一騒動になりそうだね~。どうすんのさ?」


「もう、どうすればいいのよ……」


私はため息をつき、エミリーと鎮光、そして自分の気持ちに翻弄されながらも、次の展開を考え始めるのだった。

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お姫ちんと朴念仁(仮) @anichi-impact

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