第4章 第3話: 「エミリーと鎮光、そして姫様の怒り」

屋敷に到着してすぐに、私たちはエミリー・ジョンソンを部屋に通した。彼女は優雅にドレスの裾を整え、まるでこの屋敷が自分のものかのように堂々とした態度を見せた。鎮光(しげみつ)はそんなエミリーを無表情で見守りながらも、明らかに少し困惑している様子だ。



「鎮光サン……ホントニアリガトウゴザイマス……アナタハ、トテモカッコイイ……ワタシ、感謝シテマス……」


エミリーはうっとりした表情で鎮光にべったりと寄り添い、青い瞳で彼をじっと見つめていた。私はその光景に、胸の中に何かモヤモヤしたものを感じ始めた。鎮光が困っているのは明白なのに、エミリーはそれにまったく気づかず、さらに接近してくる。



鎮光はただ立ったまま無表情で、どうすべきか判断がつかない様子だ。そんな彼を見て、私は心の中で沸き上がる嫉妬と苛立ちを抑えきれず、つい声を上げてしまった。


「エミリー、もうその辺にしといたら?鎮光、困ってるでしょ?」


やんわりと注意したつもりだったが、エミリーは一瞬こちらに視線を向け、目を細めた。次の瞬間、彼女はまるで別人のように流暢な日本語で言い放つ。



「すっこんでろ!ちんちくりん!お前に聞いてねーし!」


「また?今なんて!?」

私はその言葉に驚き、思わず聞き返した。やっぱりさっきまでカタカナ交じりのぎこちない日本語だったのに、今はまるでネイティブのような流暢さだ。しかも「ちんちくりん」って……。



エミリーは私が驚いているのを見て、急に泣き顔を作り出し、まるで何も知らないふりをする。


「ワタシ、日本語ヨクワカラナイ……ゴメンナサイ……」


嘘泣きだとすぐにわかった。彼女の涙は全く本物ではなく、あまりにも白々しい。しかし、その見事な演技に、私は言葉を失ってしまった。



「もう、いい加減に……」


私はさらに怒りがこみ上げるが、その瞬間、鎮光が少し前に出てエミリーを軽くかばうように立ちはだかった。彼の行動に、私はますます混乱し、さらに心の中がザワザワする。


「鎮光!なんで彼女をかばうのよ!」


声を荒げそうになるが、鎮光は静かに頭を下げて謝罪する。


「申し訳ございません、姫様。」


その無表情な謝罪に、私はさらに頭に血が上る。どうして鎮光が謝るの?困っているのは鎮光なのに、どうして私に謝ってくるの?しかもエミリーはその背中に隠れ、舌を出して「べーっ」とあっかんべーをしているのが見える。私は完全にカッときた。



「もう許さないわよ!あんた、いい加減にしなさい!」


私は思わず一歩前に出たが、エミリーは鎮光の背中にしっかりと隠れ、鎮光の陰から私を挑発するように見つめている。



その時、お怜(おりょう)は、終始この騒動を楽しんでいる様子で、ケラケラと笑い出した。


「お姫ちん、これ最高だね!エミリーってば鎮光さんにすっかり夢中じゃん!お姫ちん、どうするの?」


「面白がらないでよ!」

私はお怜の軽口にさらにイラつき、頭に来た。エミリーはあっかんべーをするし、鎮光は無表情で謝るし、お怜はそれを見てケラケラ笑っている……この状況に、私はどう対応すればいいのかまったくわからなくなっていた。



「……これからどうなるのかしら……」


私は小さな声で呟きながら、エミリーと鎮光の妙な距離感にますます苛立ちを感じるのだった。

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