第4章 第2話: 「エミリーの願いと姫様の苛立ち」
市場の騒ぎがひと段落し、鎮光(しげみつ)の剣さばきで追手たちは逃げ去っていった。助けられた金髪碧眼の美少女が、息を整えながら私たちの前に立ち、しっかりと頭を下げた。
「ワタシ……エミリー・ジョンソン……アメリカジンデス。」
彼女はぎこちない日本語で自己紹介を始めた。金色の髪が風に揺れ、青い瞳が印象的な彼女は、まるで異国の姫君のようだ。彼女のドレスには豪華な刺繍が施されており、その姿は周りの人々の視線を一身に集めていた。
「オ助ケテクレテ……アリガトウゴザイマス……」
彼女は私たちにお礼を言いながらも、どこか落ち着かない様子で視線をあちこちに泳がせている。何かを隠しているような雰囲気が漂っているのが気になった。
「エミリーさん、どうして追われていたの?何か問題があるの?」
私は優しく問いかけたが、彼女は微妙に視線を逸らし、言葉を選ぶような仕草を見せた。
「エト……タダノトラブル……追手、チョットダケ……」
彼女は曖昧な答えを繰り返し、具体的なことは話そうとしない。明らかに何か重大な事情があるのだろうけど、それを隠したいという気持ちが透けて見えた。
「……トニカク、ワタシ、鎮光サンニお願いガアリマス。」
彼女は急に鎮光に目を向け、真剣な表情で言った。
「お願い……?」
鎮光は無表情で彼女を見つめ、少し間を置いてから答えた。
「ハイ、ワタシ、鎮光サンニカクマッテホシイデス……コノ国デ、安心デキル場所ガ必要デス。お願いシマス……」
彼女は瞳を潤ませ、懇願するように鎮光を見上げる。その美しさに目を奪われた市場の人々が、さらにざわつき始めた。
私は胸の中でまたあのざわめきを感じた。鎮光に頼るなら、私がいるのに!と嫉妬と苛立ちが湧き上がる。
「ちょ、ちょっと待って!」
私は慌てて間に入る。
「エミリーさん、それなら役所に行って、正式に保護を求めた方がいいわ。ここで鎮光に頼るのは危険よ。しっかりと事情を話して、保護してもらうべきだと思うわ。」
私の提案は当然のものだと思ったが、次の瞬間、エミリーの口から予想外の言葉が流れた。
「お前に聞いてねーよ!」
「え?今なんて?」
私は思わず聞き返した。だって、今の日本語は完全に流暢だった!あのぎこちないカタカナ交じりの言葉とはまるで違う。
すると、エミリーは急に目を見開き、急にとぼけたような表情を浮かべた。
「ワタシ……日本語、ヨクワカラナーイ……」
彼女の白々しい態度に私はさらに戸惑い、少し呆然としてしまった。明らかに彼女は日本語を理解しているが、どうして隠そうとするのだろう?
「鎮光サン……お願い、カクマッテクダサイ……アナタナラ、ワタシヲ守レルハズデス。」
再び鎮光に頼むエミリーの姿に、私は内心で怒りがこみ上げてくるのを感じた。彼女は私を完全に無視して、鎮光にすがりつくように見つめている。
鎮光は淡々とした表情で、私の方に一瞥をくれたあと、静かに言った。
「姫様、どうされますか?」
彼が私に判断を委ねたことに、私は少しだけ安心したものの、エミリーが鎮光に頼る姿がどうにも気に入らない。
「……とにかく、役所に行くのが一番よ。それに、鎮光が君を守るとは限らないんだから!」
私は強い口調で言ったが、エミリーは相変わらず鎮光を見つめて、私の言葉を聞いていないかのようだった。
「どうして私がこんなにムキになってるのかしら……」
私は心の中で呟き、複雑な感情に振り回されながら、次の展開に向けて準備を始めるのだった。
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