第3章 第7話: 「気まずい朝と微妙な空気」

朝の光が静かに部屋を照らし、私はぼんやりと目を覚ました。頭がぼーっとしていて、体も重い。昨夜の出来事が夢だったのか、それとも現実だったのか、よくわからない。布団に横たわったまま、私はぼんやりと天井を見つめていた。


「……なんだったっけ、昨夜……?」


ふと、思い出す。恋愛成就の秘薬を飲んだこと、そして、鎮光(しげみつ)に甘えたり、妙なことを話したりしてしまったこと。その瞬間、血の気が一気に引いて、顔が真っ赤になった。


「ま、まさか……全部本当に……?」


私は急いで体を起こし、周りを見回した。部屋は静かで、誰もいない。昨夜の自分の行動を思い出すたび、体中が熱くなってくる。


「なんであんなこと言っちゃったの!?どうしよう……!」


必死に記憶を整理しようとするが、鎮光に頼ったり、恋について語り出した自分の姿が頭に浮かび、もう後悔でいっぱいだ。


そんな時、扉がそっと開く音がした。振り返ると、冷静な表情の鎮光が立っていた。彼は私を見ると、一瞬だけ視線をそらし、すぐにいつもの落ち着いた顔に戻った。


「姫様、お目覚めですか。体調はいかがでしょうか?」


私は慌てて布団を引き寄せ、顔を隠すようにして答えた。


「え、ええ……まあ、なんとか……。」


言葉に詰まりながら答えたものの、胸の鼓動が速くなっているのが自分でもわかった。昨夜の出来事を思い出すと、顔がどんどん熱くなってくる。


鎮光はいつもの冷静な態度を崩さないが、私に向けられた視線がどこか戸惑っているように感じる。その姿を見るたびに、私の気まずさは増していった。


「昨夜のこと……あまり覚えてないんだけど……私、何か変なこと言わなかったかしら?」


私はなんとか冷静を装い、昨夜のことに触れてみたが、言葉がうまく出ない。鎮光は、少し間を置いて答えた。


「特に気にされるようなことはございません。ただ、少しお疲れだったように思います。」


彼はいつも通りの淡々とした口調で答えたが、表情には微かに困惑が見えた。それを見た瞬間、私はますます自分の行動が恥ずかしくなり、顔を真っ赤にしてしまった。


「そ、そうよね……なんでもないわよね……。」


必死に話を終わらせようとするが、どうしても昨夜の出来事が頭から離れない。鎮光に甘えてしまったことや、突然恋について語り始めたこと。もう、思い出すだけで穴があったら入りたい気分だった。


「もう……なんであんなことを……!」


心の中で自分を責めながら、私はどうにかしてこの場を切り抜けたいと焦っていた。しかし、鎮光は真面目な表情でこちらを見つめ続けている。


「……その、鎮光、昨夜のことは誰にも言わないでね。他言無用よ。」


私は決死の覚悟で鎮光に頼んだ。彼は一瞬驚いたようだったが、すぐに静かに頷いた。


「承知いたしました。姫様のご命令、必ず守ります。」


鎮光は軽く頭を下げ、真剣な表情で私に約束してくれた。その言葉に少しだけ安心したが、気まずさは消えるどころか、むしろ強まっていた。


「ありがとう……。」


なんとかその場をやり過ごしたものの、部屋の中には微妙な空気が漂い続けている。鎮光の視線がどこかぎこちなく、私もどう対応すればいいのか分からず、ただ黙り込んでしまった。


「……じゃあ、今日はもういいわ。後で呼ぶから、少し休ませてもらうわね。」


なんとか話を切り上げたくて、私は少し強引にそう告げた。鎮光は黙って頷き、静かに部屋を後にした。


鎮光が扉を閉めて出て行った瞬間、私は大きく息を吐き、布団に倒れ込んだ。心臓がドキドキしていて、まだ気持ちが落ち着かない。


「……一つになるって、こういうことじゃないわよね……。」


私は巻物の言葉を思い出しながら、顔を布団に押し付けて、恥ずかしさで身を縮こませた。

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