第3章 第6話: 「秘薬の謎と戸惑う夜」

夜が訪れ、私は甚兵衛(じんべえ)から買った**恋愛成就の秘薬**を手に、部屋で一人静かに準備をしていた。次の日に使おうと決めていたけれど、好奇心に負け、今夜試すことにした。



巻物を広げて読み始めたが、延々と恋愛に対する心構えや戒めが書かれており、次第にイライラしてきた。



「なんなの、この古臭い説教……。いつまでこんなことを書き連ねてるのかしら。」

私はため息をつき、巻物を途中で投げ出したくなった。



「恋愛成就のためには、心清らかに、思い惑うことなかれ……常に、己を律し、邪念を払うべし……」

巻物の言葉はますます抽象的で、まるで数百年前の戒めのようだった。


「もう、いい加減にしてよ!こんなことより、どう使うか早く教えてほしいわ。」

私は苛立ちを隠せず、最後の方を読み飛ばし始めた。



すると、巻物の最後にようやく具体的な指示が現れた。



**「されば、愛しき者の前にて、かの秘薬を飲み干すべし。さすれば、二人は心一つに通い、共に永遠の道を歩むことならん。」**



「えっ、好きな人の前で飲むの……?」

私はその一文を読み、呆然とした。同時に、胸が高鳴り始めた。



「好きな人の前で……鎮光のこと……?」

考えれば考えるほど、心がざわつき、頬が熱くなってきた。私は無意識のうちに、秘薬の瓶を手に取り、気づけばそのふたを開けていた。


手に持った瓶の中には、淡いピンク色の液体が輝いていた。私は息を吸い込み、決心して、その液体を口に含んだ。



秘薬を飲んだ瞬間、体がふわっと軽くなり、何かが変わったような感覚が広がった。しかし、思考がぼんやりとして、何が起こっているのかよくわからない。ただ、頭がぐらぐらと揺れるような感覚があり、目の前が少しぼやけてきた。



その時、外から鎮光(しげみつ)の声が聞こえた。


「姫様、大丈夫でしょうか?」

彼が心配そうに扉の外から声をかける。


「ええ……だいじょ、うぶ……。」

言葉がうまく出ず、口調が甘くなってしまう。扉が開き、鎮光が入ってくると、私をじっと見つめ、一瞬驚いたような表情を浮かべた。


「姫様、何かお飲みになりましたか?」

鎮光は慎重に問いかけてきた。


「鎮光……なんだか、あたしね……あなたに頼りたくなっちゃったみたい……。」

私は体がふらふらと揺れ、鎮光の方に無意識に近づいていく。彼は普段と違う私の態度に明らかに戸惑っていた。


「頼り……ですか?」

冷静な鎮光がわずかに動揺し、困惑した表情を見せた。


「だって……あなたがそばにいると、安心するの……。」

私の声は柔らかく、普段とは違う甘えた口調で、鎮光に向かっていた。私が無意識に彼に頼ろうとする姿に、彼の戸惑いがますます強くなっていくのがわかった。


「姫様、少しお休みになられた方が良いかと。」

彼は私に近づき、慎重に声をかけたが、私はさらに彼に近寄った。


体がますますふわふわと軽くなり、頭がぼんやりして、言葉も思考も混乱してきた。


「ねえ、鎮光……恋ってどう思う?」

私は夢見るような口調で彼に問いかけた。


「恋……ですか?」

鎮光は驚き、目を見開きながらも冷静を装おうとしていたが、その表情には明らかな動揺が見えた。


「恋ってさ……甘くて、暖かくて……幸せなものだと思うの。でも、私よくわからないの……。」

私はふらふらとした思考のまま、鎮光に笑いかけた。彼は困惑しながらも真剣に私を見つめていた。


「姫様……本当にどうなさったのですか?」

鎮光の声には不安が感じられたが、私はただ微笑み続けた。


「鎮光……あなたも私のこと、好きなんでしょ?」

私は目を細め、甘えるように問いかけた。その瞬間、鎮光は完全に固まり、言葉を失ってしまった。


しかし、その瞬間、私の足元が突然ふらつき、倒れかけてしまった。鎮光は驚いて、咄嗟に私を抱きかかえた。


「姫様、大丈夫ですか!」

彼は私をしっかりと支え、動揺した様子で私を見つめていた。


私は鎮光の腕の中に抱かれながら、巻物に書かれていた言葉を思い出した。


「されば、二人は心一つに通い……共に永遠の道を歩むことならん……。」

その古風な言い回しが脳裏に浮かび、ふらふらする意識の中で、私はぼんやりと納得した。


「ああ……これが……一つになるってことなのね……。」

私は鎮光に抱かれたまま、微笑んでつぶやいた。


---


鎮光は完全に困惑し、私が何を言っているのか理解できない様子で、ただ私を見つめ続けていた。

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